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3-6話 命響式

タイトル、命響式(前編)にしたいと思います。

さらに続けて撃つと、風の弾は熊のぬいぐるみに当たる。


「やった!」

「あー、お嬢ちゃん残念! 落ちてないからGETならず!」

「えっ!」


▽▽▽


風の弾はたしかに当たってはいたが、熊のぬいぐるみは微動だにしていなかった。その後も何回か当たるが、一向に落ちる気配はなく、弾をうち尽してしまう。


「何度も当たってるのに……」

「残念だったなお嬢ちゃん! また遊んでくれな」


悲しむマシロと対照的に、射的屋は明るく陽気にそう語る。しかし、その顛末になにか思う事があるのか、イズモは渋い顔をしていた。


「イズモ、どうしたの?」

「ん、いやちょっとね。えっと、マシロはあの熊のぬいぐるみが欲しいんだよね?」

「う、うん」

「そっか。じゃ、俺もそれを狙おうかな」


イズモがそう言うと、射的屋は声に出して豪快に笑う。


「はっはっは! お嬢ちゃんもお兄ちゃんもお目が高いね。このぬいぐるみはうちの目玉、見る人が見ればかなりの値打ちものでな。あれ一つで3ヶ月は食うに困らん程さ!」

「ふーん…… そんな高価なものを、射的の景品なんかにしちゃっていいの?」

「今のご時世、露天商するにも目玉がなくっちゃ儲からねぇからな」


射的屋は笑顔でそう語る。


「でも、景品取られちゃったら赤字じゃない?」

「ははっ、まぁ、そんときゃそん時さ」


イズモはそれとなく射的屋に探りをいれるが、少しきな臭さを覚えた。本当にあのぬいぐるみが店主が言うほど価値のあるものだとしたら、射的の景品にするのはおかしい。さらに不自然な点として、マシロがあの景品に当てた時、少しも動かなかったのは疑問が残る。


「まぁ、やって見ればわかるか」


イズモは熊のぬいぐるみに狙いを定め、引き金を引く。放たれた風の弾丸は一直線に熊のぬいぐるみへと飛んでいき、狙いたがわず熊の額のど真ん中へと着弾する。しかし、撃ち落とすのにこれ以上ない、完璧な場所に当たったにもかかわらず、熊のぬいぐるみはほんの僅かに動いただけで落とせる気はしない。


「はっはっは! まだまだ諦めるにゃ早いぜ兄ちゃん!」


射的屋の野次を適当にいなしつつ、今度はその横に置いてあった、小ぶりの兎のぬいぐるみを狙うイズモ。しかし、そのぬいぐるみも脳天へ直撃しても全くと言っていいほど動かない。その時点でイズモは、「あ、これインチキされてるわぁ」と確証に至る。


「ねぇねぇ、これ、いくらなんでも動かなすぎない?」

「さぁな? とってくやつはとってくからなぁー」


イズモはダメ元で聞いてみるが、店主ははぐらかす。


「イ、イズモ、その、無理そうならやめても……」

「大丈夫大丈夫。任せてよ。」


マシロは申し訳なさそうに話すが、イズモは笑って返し、狙いを熊のぬいぐるみへと戻す。そして、今度は引き金をゆっくり(・・・・)と引く。


イズモ達が使っている射的用の銃の仕組みは単純である。引き金を引くと、内部に刻印されている魔術式が2つ起動する。初めに起動するのは、風魔法で風を集めて弾丸を形成する魔法で、その後にその弾丸を発射する魔法が起動する。この機構により、魔法が使えるものはもちろん、魔法どころか魔力の無いものでさえ遊べることが可能となっている。


さて、では、この銃の引き金をゆっくりと引いた場合どうなるのか? 正解は、弾丸を形成する魔法が長引き、風の弾を完成させるまでに時間がかかるだけである。

しかし、イズモはあえてゆっくりと引き金を引いた。

まるで、力を込めるようにゆっくりと―――


引き金を引ききると、風の弾は勢いよく熊のぬいぐるみ、その足下の台へと飛んでいく。そして、着弾するや破裂音と共に圧縮された(・・・・・)空気が膨張する。膨張した空気は熊のぬいぐるみの下へと潜り込み、熊のぬいぐるみを浮かび上がらせる。しかし、熊のぬいぐるみは、台に吸い寄せられる(・・・・・・・)ように、不自然な程早く台へと戻ろうとする。


「……ほいっと」


イズモはそれを予想していたのか、浮かび上がった熊のぬいぐるみの胴を狙って瞬時に銃を撃つ。今度は、着弾する前に風の弾が膨張し、広範囲に熊のぬいぐるみを捉え、そして、地面へと落とす。


「なっ、なっ、なっ!!」


その一部始終を呆気に取られながら見ていた店主は、顔を白くしながらたじろぐ。


「撃ち落としましたよ? ほら、頂戴?」

「いやっ、そんなっ、あ、あんなの無効だ!!」


店主は怒鳴るように主張するが、イズモは冷静に対応する。


「何がです? ちゃんと銃を使って落としましたよ?」

「こ、この銃はあんな威力が出るよう設定されていない!」

「そちらが想定してなかったから無効って事ですか?」


その一言に、店主は苦虫を噛み潰したような顔になる。


「そ、そうだ! め、命符だな!? 命符でなにかしたんだろ!? この店じゃ命符の使用は厳禁なんだ!」

「俺、今日が命響式ですし。俺、使う素振りもなかったじゃないですか」

「ぐ、ぐぅ……!」


あきらめが悪く抵抗する店主だが、そのどれもが苦し紛れの論法と言わざるを得なかった。しかし、そんな煮え切らない態度に面倒くさくなったのか、イズモは店主の近くへ寄ると、


「あなたこそ、魔法や命符でインチキしてますよね。浮かび上がらせたあと、不自然な動き方で台に戻ろうとしてましたよ?」

「うっ……」

「動き的に、磁力ですかね。ともあれ、インチキがバレたら困るのはあなたですよ?」


その言葉に意気消沈したのか、店主は熊のぬいぐるみを渡し、そそくさとその場を去っていった。

これで3話終わりです。

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