初日にて
グランツの屋敷に案内されてから
19/09/28 誤字修正しました
グランツは使用人にいくつか指示を出してトレーネに屋敷の内部を案内し、場所を執務室に移してソファーに座るようにと促す。2人が座ると同時に扉がノックされ、テーブルにお茶を用意して使用人は退室し室内に2人だけが残された。
「皇帝陛下、処刑はいつですか?」
「何を言っている?」
「何って、民衆の前で処刑するのでしょう?他に生かす理由がありません」
「…………」
「髪の1本、血の1滴まで……汚れた民の者だ。私が子供だからとナメてくれるな、私は“沈黙の民”の長だ。民が滅びれば共に死する覚悟はある。答えよ、処刑はいつだ。それとも私を気兼ねなく殺せる年になるまで飼うのか?」
「殺さない、私はお前を死なせない」
「では何故連れて来た!白銀だ、“沈黙の民”だと見せ物にでもするのか!私を生かす事で貴様に何のメリットがある!……殺せ」
「おい」
「殺せ」
「もう「殺せ!やっと自由になれた!やっとアイツ等から解放されたんだ!……後生です…………死なせて……やっと…」
興奮した様子でカップを横に払ってテーブルから落としたトレーネを取り押さえれば暴れた拍子に服が捲れ、襟元や腹部から見えた肌は怪我と呼ぶのも生温い程に痛々しかった。
思わず息を飲んだグランツは即座に魔法で鳥を作り出して城の方へ飛び立つのを見届け、暫くして白衣に身を包んだ男が数人、両手に荷物を持って執務室に入ってきた。
「この子供を診てくれ」
「離せ!触るな!」
「おいおい……まるで手負いの猫だな。オレはユーベル・ベルグング、医者だ」
「……拒否「出来る訳ねぇだろ。オレは患者を治す義務がある、それが医者だ。少し我慢しろ、すぐ終わる」
「……ッ……ぅ…………」
「よく見とけ。これが解熱作用のある薬草、これは化膿止め、こっちは――…‥」
ユーベルは助手に持って来させた道具や薬草を並べてトレーネを隣りに座らせると薬草を1つ1つ説明しながら独自の割合ですり鉢の中へ入れて磨り潰し、最後に小指に少量つけると自ら舐めてみせた。
「お前は舐めるなよ、どんな良薬も使い方を間違えりゃ毒になるんだ。服脱げ」
「…………はい」
薬を塗ったガーゼを傷口にあてがう間トレーネは始終胸元で拳を握り締めて身体を丸め、ユーベルの指が身体に触れる度に怯えたように身体を震わせる。
「終わったぞ」
「…………」
「前の傷は背中が治ってからな」
「…………」
「ん?どうした?」
「殺してください」
「何を馬鹿な事言ってんだ」
「私を殺してください!もう嫌だ……やっと、やっと解放された!やっとアイツ等の居ない所まで来れた!お願いです、死なせて…………もう、嫌だ…」
トレーネはユーベルの白衣を掴み懇願しながら俯き、ポタポタと断続的に溢れ落ちた涙は絨毯に吸い込まれて消えた。