プロローグ
※この物語はフィクションです。登場する人物、団体、名称は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※基本主人公「エリカ」の一人称視点で話が進行します。それ以外の場合は、三人称視点で話が進行しますのでご注意下さい。
『お前との婚約を破棄する』
突如言い放たれた言葉によって、夜会の喧騒は静寂と化した。
「理由を・・・お聞かせ願えますか?」
私は努めて冷静に対処する。激情に駆られてはいけない。あくまでも平静を装わねば、相手の思う壺だ。
「理由を一々説明せねば分からんのか?」
男は心底忌々しそうに理由を述べ始めた。
男曰く。
1.転校生の令嬢に対し数々の嫌がらせを行った。
2.自身の家格を利用し、気に入らない教師を退職に、生徒を退学に追いやった。
3.傍若無人な振る舞いが目につき、婚約者に相応しくない。
なるほど。まったく身に覚えがないことばかりだ。
「私には身に覚えの無いことで御座います」
「白を切るつもりか!?」
男は声を荒げる。それに呼応するように周囲も騒がしくなってきた。
「恐れながら、王太子殿下に問いまする。私が行ったとされる数々の所業、殿下ご自身が実際にご覧になったのでしょうか?」
「見てはいない」
「では、誰の証言ですか?」
「多くの者たちだ」
「多くの者とは具体的に誰のことでしょうか?」
「くどい!そのようなことはどうでもいいだろう」
話にならない。否、もとから対話をするつもりなどなかったのだろう。男・・・ジュリアス王子は捲し立てるばかりだ。
「理由などどうでもいい。現に彼女は・・・ユーナは泣いているのだぞ」
王子に寄り添い、さめざめと泣く少女に目を向ける。つまりは〝そういうこと”か。
「私との婚約を破棄して、その後はどうされるおつもりですか?」
「俺はこちらのユーナ嬢と婚約する、お前には相応の罰が下るであろう」
すべてを理解した。私は今、公衆の面前で断罪されているのだ。私は罠に嵌められたのだ。
周囲の喧騒が喧しい。よく聞けば王子を擁護するかのような言葉を口々に言いあっている。我が公爵家の寄子までも、私の味方ではないようだ。
『なるほど。彼の言っていた四面楚歌というのはこういうことか・・・』
もはやすべてどうでもよい。呆れも過ぎて私は俯く、すべてを投げ出してしまおうか。そう思った矢先。
「王太子殿下に言上つかまつる」
喧騒をものともしないよく通る声に、私は顔を上げた。
「ここからは、私にお任せあれ」
一人の漢がそう言い、私と王子の間に立った。
「嗚呼・・・そうか、私にはお前が居たな」
そう、私の運命はこの男と出会ったことで大きく変わったのだ。