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ユウチャン、女勇者様に敬礼する

 ドラゴンの牙を持って鍛冶屋に行く盾をつけて得意げになっている女がいた。


「素晴らしい、これがオリハルコンか!これこそ勇者である私にふさわしい」


 女はユウチャンより若干背が高く、真っ青なショートカットに青い鎧を着たクール系の美女だった。年はユウチャンより少し上だろうか、大人びた外見の割には得意げな顔が若干幼く見えた。


「これで武器を作って欲しいのだが」


 ユウチャンは鍛冶屋にドラゴンの牙を渡そうとした。


「小僧、今鍛冶屋はこの勇者イサミ様が使っているのがわからんか」


「やや、これは失礼。勇者様の先客でござったか。拙者はユウチャンでござる」


「ユウチャン?職業はなんだ?」


「大学生ニートでござる」


「『大学生ニート』とは…なんだ?」


「うーむ、この世界で言えば『遊び人』にあたると思われる」


「はっはっはっ、『遊び人』がこの勇者イサミ様の邪魔をするとはとんだ怖いもの知らずだな」


「お邪魔して申し訳ないでござる」


「さっきからアンタなにが勇者よ、あなたはどんな【能力】をもってるのかしら?」


 カノンが食って掛かった。


「フン、【能力】はまだ開花していないからわからんよ。私は大器晩成型なんだ」


「あらあら【能力】も開花してないのによくそんな偉そうにできるわね」


「フフフ、この盾を装備し魔物を倒していけばすぐに開花するさ。見よこのオリハルコンの盾を、選ばれしものにこの盾は与えられたのだ!」


「ははーっ、拙者にはとても使えぬ代物」


「あんたもヘコヘコしてないで、ちょっとは言い返しなさいよ」


「でも拙者あのでかい盾使えないでござる、肩がツライツライでござるよ」


「はっはっはっ、そうだろう!身丈にあった装備をするんだな」


「あっ、そうだ装備といえばこの牙で武器を作ってほしいでござる」


 ユウチャンは再度、鍛冶屋にドラゴンの牙を渡そうとした。


「なんだ見せてみろ」


 イサミはユウチャンからドラゴンの牙を取り上げた。


「なんだこの牙は?大方イノシシでも罠に嵌めたな!はっはっはっ」


「罠に嵌めたわけではござらぬ、居眠りしているところを拝借したのである」


「はっはっはっ、結構結構!せいぜい遊び人なりに頑張ってくれたまえ」


 そういうとイサミはドラゴンの牙をポイッとユウチャンに渡し、何処かに消えてしまった。


「なによ、あいつスゲームカつく!」


「短気は損気でござるよ。さて鍛冶屋の親父殿、このドラゴンの牙で武器を作ってくだされ」


「俺は『マサムネ』だ、この牙で最高の剣をつくってやるから、今後ともウチの鍛冶屋をご贔屓にしてくれよ」


「うむ!マサムネ殿、頼みましたぞ」


 強力な盾を手に入れ気が大きくなったイサミは村の近くにあるダンジョンに挑戦していた。目的はもちろん多くの魔物を倒し経験値を積むことで【能力】を開花させるためだった。イサミは自分の能力が一向に開花しなかったのがコンプレックスだった、スライムやゴブリンなどの雑魚ばかりを倒していても経験値が貯めづらいのはわかっていたが、強い魔物に挑む勇気がなかった。オリハルコンの盾とカノンの言葉がイサミをダンジョンに向かわせたのだった。


「駄目だ。いくら盾が強いとはいえ、私の攻撃力ではここのダンジョンのモンスターを倒すのに時間がかかりすぎる。もう回復アイテムもない、ここまでか…」


 満身創痍のイサミにオークが襲いかかろうとしていた。


「ドラゴンキラーキーック!」


「ウゴォォオォオ!!!!」


 オークはユウチャンの蹴りによって一撃で倒れた。


「バカ!キックで進んだら新しい武器の強さがわからないじゃない、なんのためにこのダンジョンに挑戦したと思ってるのよ!」


「いやぁ、こんな大きな剣を振るのは肩が痛みそうでござるよ。やや!これは勇者イサミ殿ではござらぬか、敬礼!」


「ユウチャン……どうしてここへ……」


 イサミはうつろな表情でユウチャンの方を見た。


「ドラゴンの牙で作った武器を試すためにこちらのダンジョンにお邪魔したのだが、この武器はイサミ殿に進呈しよう」


「なぜ……このような勇者に相応しい伝説級の武器を私に……君には肩の荷が重いのか?」


「む!拙者の肩のことを知っているとは流石勇者イサミ殿!ではそれはイサミ殿に確かに渡しましたぞ」


 ユウチャンはドラゴンキラーをイサミに手渡した。


「あっ、コラ!なに不要な荷物押し付けるようにドラゴンキラーをあげてんのよ!」


「もう、イサミ殿に授けた。いやぁ荷物は肩によくないでござる。これも邪魔くさいしイサミ殿に進呈いたそう」


 ユウチャンはポケットからどっさりと薬草を取り出し、イサミに渡した。


「ふふ……礼を言うよユウチャン……」


「拙者、礼を言われるような事はなにもしていないが…あっ、その武器、肩の荷が重かったら捨ててもらって構わないでござるよ」


 肩の荷が重ければ捨ててもらって構わない、イサミはそれが勇者としての責務を降ろしても構わないという意味だと深読みした。


「ユウチャンには敵わないな……だが、私にも勇者としてのプライドが……ある!」


 イサミは薬草をモシャモシャしながら立ち上がった。


「おお、流石勇者イサミ殿!では拙者は小説を書くので失礼いたす」


「小説……?なんのために……?」


「小説を書いて人気者になるでござる。武器を作ったことを書いてそれでファンがつけばよし、別に武器自体はいらねーでござる」


 そういうとユウチャンはダンジョンの外へと向かっていった。


「フフ……勝てないな……ユウチャンには……いいさ、少しでも追いついてやるよ」


 ドラゴンキラーとオリハルコンの盾を装備したイサミは再びダンジョンの奥へと向かっていくのだった。

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