ユウチャン、ドラゴンの牙をもぎ取る
魔術師のソナタの予知通り、東の谷に行くと大きな洞窟があった。
「中に入ってましょう」
カノンは杖の先についた赤い石を魔法で輝かせながら、洞窟内を先導した。
「なんか暗くて寒いでござる。ホッカイロもってたらゆずってほしいでござる」
「ホッカイロってなによ?洞窟なんだから寒いのも暗いのもしょうがないじゃない。早く進むわよ、こういうところには……あっ、やっぱり!」
カノンの予想通り、魔物の影が目の前を通り過ぎた。
「……ユウチャン落ち着いて聞いてね。近くに魔物がいるわ。おそらく今の影はオークよ、ゴブリン以上に強いわ、それに仲間もいるかもしれない。ここは静かに……」
「魔物?お友達になるでござる!お~い、魔物よ出てきたまえ!」
ユウチャンは大声を出し、手を振りはじめた。
「グォォォ……」
低い唸り声と共に大きな棍棒を背負ったオークが3匹現れた。身長は2mほどだろうか、動物の皮だけを身にまとった簡素な服装だけに、筋骨隆々とした身体つきがよくわかった。
「馬鹿!なに呼んでんのよ!」
「やぁやぁお初にお目にかかる、拙者はユウチャンでござる」
不用心にズカズカと近づいていくユウチャンにオークは巨大な棍棒を振り下ろした。
「ひょいっと」
ユウチャンは後ろに大きく飛び、棍棒を避けた。
「悪い子にはお仕置きでござる、ナイフキィィィック!!」
ユウチャンはオークのみぞおちに向けて、足の裏の跡がはっきりつくほど強烈な前蹴りをお見舞いした。
「グゥゥ……」
オークは倒れると同時に、5枚の銀貨になった。
「もう!こんど魔物を呼ぶようなことしたら二度と口きかないからね、残りの二匹はどこかにいったわ、仲間を呼びに行ったのかもしれない。早く移動しましょう」
「倒れたオークが消えて……銀貨が……なにゆえ?」
「なにいってんの?魔物を倒したらお金になるに決まってるじゃない。あなたの世界にお金はないの?」
「いや、お金はあるが、工場で作ってるでござる」
「なにそれ?じゃあ工場の人は大金持ちじゃない、ズルいわ」
「そういうものでもないが……とりあえずこの銀貨は貰ってよいのかな?」
「あなたが倒したんだもの、ユウチャンのものよ」
ユウチャンは銀貨をポケットにしまった。
「さぁ、オークが来るかもしれないし先に進みましょう!」
二人はぐんぐん洞窟を進んで行くと大広間にたどり着いた。大広間にはきれいな水が流れ、いくつかの食べられそうな植物が生えていた。
「こんな快適なところなのに魔物がいそうにないわね、住処にしないのかしら?」
「いや、魔物ならそこにいるでござるよ」
ユウチャンが指をさした方向には大きなドラゴンがいた。身体を丸めて寝ているようだった」
「大きいわね……他の魔物はこいつを恐れてここには来ないんだわ、ユウチャンどうする?」
「どうするもこうするも牙をいただくでござる」
そういうとユウチャンはドラゴンのあくびのタイミングでドラゴンの牙を王から貰ったナイフで攻撃した。
「う~ん、こんなナイフじゃ、歯石も取れないでござるよ…」
「ちょっとなに攻撃してるの!ドラゴンが起きたらどうするのよ」
「大丈夫でござるよ、なんかぐっすり寝てるし」
ドラゴンは一向に目覚める気配がない。
「万が一起きちゃったら、私の魔法じゃどうしようもないからね!」
「大丈夫大丈夫!よく寝てるでござるよ。ナイフでダメならこうするしかない」
そういうとユウチャンはドラゴンの牙を素手で掴んだ。
「ヌォォォオオオ!!ヘェェェエエイ!!!」
ユウチャンはドラゴンの牙を両手でつかみ、力任せにもぎ取ろうとした。
「え!ドラゴンの牙を素手で!?」
「抜けらぁァ!!!」
グキッと鈍い音を立てて、牙が取れた。
「グォォォオオ!!!」
ドラゴンが目覚めた。かなり怒っているようで口から灰色の煙を吐いている。
「ちょっと寝てるところを牙をもいだくらいで怒らなくても、笑って許してほしいでござる」
「そりゃ怒るでしょう!どうするのよ?」
「どうするって言われてもノープランでござるよ、取り敢えず牙戻してみる?」
「バカ!もう手遅れよ!」
「あっ、火を吹いてきた」
ドラゴンは灼熱の炎をユウチャンに向けて吹いた。
「ひょいな」
ユウチャンはドラゴンの吹いてきた炎を横跳びで交わし、そのままドラゴンへと突っ込んでいった。
「きぇぇぇいい!!」
ユウチャンはドラゴンの頭にかかと落としをした。ドラゴンが白目をむき、泡を吹いて失神した。
「む、寝てしまった。起こさなくては」
「いいわよ起こさなくて!!早く逃げるわよ」
「せめて牙の借用書を…」
「必要ないって!早く逃げましょう」
ドラゴンの牙を抱え、二人は大急ぎで洞窟の外へと向かった。
「これで、すごい武器が作ってもらえそうね!」
「重い武器だったら拙者、肩が痛むのが嫌だから装備しないでござるよ。そんなことより」
ユウチャンはドラゴンから牙をもぎ取ったことを小説にし、投稿した。
「うむむ!これでも誰もブックマークしないか…」
「まぁいいじゃない、ブックマークより強い武器のほうがいいでしょ?」
「拙者は小説が人気になって、帰るのが一番でござる」
「あっ、そういえばソナタのことも小説に書いたの?」
「うむ、ブックマークはつかなかったでござるが」
「それは残念ねぇ。私のこと書いたときはブックマークついたのにね、ふ〜ん」
「カノン殿、めちゃくちゃ嬉しそうでござるな…」
幸せそうなカノンと落胆するユウチャン。取り敢えず鍛冶屋にドラゴンの牙を持っていくのだった。