ユウチャン、魔王軍のパンフレットを読む
ユウチャンとカノンは魔王討伐のために何をすればよいのか、『魔術師のソナタ』に【予知】してもらうために嫌々ながらもジンボー村へ飛んで行った。
トントン
いつものように魔術師の館の扉を叩けば、扉が少しだけ開き魔術師の帽子を被った見慣れたクマのある顔がひょこっと現れた。
「……あっユウチャン、それにカノンも。……入れば」
大きく開かれた扉に対し、ユウチャンとカノンは重い足取りで中へと入っていった。
「……ユウチャン、小説の続き書いた?」
「え?続きでござるか!?」
ユウチャンは前回、自身の書いた小説をソナタにぼろくそに言われたのがトラウマとなっていた。
「一応、書いたけど。まぁ駄作だし見ない方がいいでござるよ」
ユウチャンはぎこちなく笑いながら上手にソナタの要求を回避しようとした。
「……そう、見せてくれないなら【予知】はしてあげない。どうせ今日来たのもなにか【予知】してほしいからなんでしょ」
ユウチャンは度肝を抜かれた。まさかソナタ自身が理由もなければ我々二人は来ないと自覚しているとは思わなかったし、【予知】の条件に小説を読ませろと言われるなんて夢にも思っていなかったからだ。
ユウチャンがおろおろとうろたえながらカノンの顔を見ると、カノンが首をクイクイと動かしスマホをソナタに見せることを要求した。ユウチャンはしぶしぶスマホを操作し始めた。
「こちらが小説の新規投稿部分でござる」
ソナタは真剣な顔で手渡されたスマホを使ってこれまでのユウチャンの冒険の記録が書かれた小説を読み始めた。ユウチャンは俯きながらソナタが小説を読み終えるのを死刑宣告を待つような顔でじっと待った。小説を読み終えたソナタはスマホをユウチャンに返し、ぽつりと呟いた。
「……私、この『獣王ライオス』って魔物知ってる」
「「え!?」」
まさかの感想にユウチャンとカノンは驚きを隠せなかった。
「ねぇ、ソナタ。あなた『獣王ライオス』とどういう関係なの?」
カノンは焦りを隠せない顔でソナタに尋ねた。魔王軍の軍団長と知り合いということはソナタは魔王軍側の人間なのかもしれない、そう思うととても冷静ではいられなかった。
「……うちに何度か来たから。私を勧誘しに」
「そう、あなたは【予知】の力があるものね」
ユウチャンの【戦闘神】という能力は規格外の強さとはいえ、肉体強化型の能力といってしまえばそこまで珍しいものではない。カノンの【浮遊】や『占い師ケイ』の【脳力診断】のような魔法の亜種のような能力はそこそこ珍しいものの、大きな街へ行けば何人かは見つかるだろうし、一人だけでは世界を変えるほどの影響力はない。しかし、『魔術師のソナタ』の持つ【予知】という未来を見通すような能力は非常に珍しく、また強力であった。
ソナタが偏屈な陰キャでなければ本来は王様の相談役として重宝されたり、自然災害などを予言し多くの人間を従える預言者として君臨してもおかしくはない。また、それだけの能力をソナタが悪用しようとせずとも、よからぬことに使おうとする輩は大勢いるはずだった。
「あなたは魔王軍の人間なの?」
カノンの問いかけにソナタは無言で立ち上がり、本棚からなにかを取り出してカノンに手渡した。
「『魔王軍に入ろう!』なにこれ?」
「……魔王軍の入隊案内よ、ライオスが持ってきたの。彼は熱心に私の所に来て魔王軍に入隊しないかと誘ってくれたわ」
「それでどうしたの?」
カノンの質問にソナタは下を向いて答えた。
「……絵本の読者が欲しくて、来るたびに絵本を読ませて感想を聞いていたら……そのうち来なくなっちゃった」
「そ、そう。それは残念だったわね」
カノンはライオスに同情してしまった。
「……魔王軍については、【予知】しなくてもそこにかいてあるから」
「ソナタ殿かたじけない!カノン殿さっそく見させてもらおう」
ユウチャンとソナタは魔王軍の入隊案内を開いた。
「うっそ!男女の関わりなく育児休暇が1年半も取れて、職場復帰後は魔王軍の育児所が無料で子供を預かってくれるんですって。すごい優良企業じゃない!」
「カノン殿、別に入隊するわけじゃないんからそんなところはいいでござる」
「コホン、そうね。別のページを開きましょう」
カノンは顔を赤くして次のページを開いた。
『魔王軍は本拠地勤務の事務員以外は、以下の軍団に配属されます』
[獣王団]
ミノタウルスやケルベロスなど血気盛んな者どもの集まり。最も戦の多い軍団。
[拠点:グンマ―山]
[空帝団]
ガーゴイルやグリフォンなどの大空を翔る(かける)軍団。神出鬼没な奇襲攻撃が得意。
[拠点:カスカベ谷]
[新生団]
ゴーレムやスライムなどの魔力により生み出された存在。最も多くの種族が所属する。
[拠点:サッポロ谷の洞窟]]
[魔獄団]
危険な魔法を得意とするものたちの軍団。六軍団のなかでも謎が多い存在。
[拠点:マクハリ山]
[超死団]
ゾンビやヴァンパイアなど死を超越した軍団。だいたいみんなくさい。
[拠点:イバラキ谷]
「まぁ言いたいことはあるけど、これで敵の拠点がわかったわ」
カノンはいよいよ魔王軍の手掛かりが掴めた喜びに思わず顔がにやけるとともに、魔王軍との戦いが本格的に始まろうとしている恐ろしさからか額から一滴の汗が流れ落ちた。
「ピーちゃんに会いにカスカベ谷に行くでござる」
ユウチャンはあんまり事の重大さがわかってなかった。