ユウチャン、魔物の恐ろしさを経験する
ゲロ村の村長は大量の果物の入ったバスケットを手に持ち、村を救った英雄の泊まる宿に向かった。
「失礼、こちらの部屋に『ユウチャン』がいると聞いてお礼に来させてもらったよ」
村長の目に上半身裸でうつぶせになっている男が映った。男の上に女が乗り、肩になにやらヘドロのようなものを塗り付けていた。
「うう……肩が地獄のように痛い……魔物はやっぱり恐ろしいでござるな。カノン殿、回復魔法は本当につかえないでござるか?」
「魔物が怖いってあなた一発も食らってないでしょ、ただの四十肩の悪化じゃない。回復魔法は使えるけど魔物の攻撃で受けた怪我は直せても、病気までは治せないわよ」
「魔法も不便でござるなぁ、そんなことより肩に塗りつけている異様な臭いがする草はなんでござるか?」
「これは疲労に効く薬草よ、匂いはしっかりと浴槽に浸かれば取れるわ」
「ええ!お風呂は嫌でござる!」
カノンはにやりと笑って答えた。
「あら、お風呂は大好きって言ってたわよね?」
「ぐふぅ……」
ユウチャンが顔をがくっと傾けると、村長と目が合った。
「やや、来客でござるか。お見苦しい格好で申し訳ない」
「村を救ってくれた十分なお礼がしたいが、あいにく小さな村でなぁ。英雄にこんなものぐらいしかお渡しできないのが申し訳ないが受け取ってくれんか」
村長は果物のぎっちり詰まったバスケットをユウチャンの目の前に置いた。
「おお、拙者甘いもの大好きでござる。これはかたじけない」
「ははは、それはよかったのぅ。してユウチャンよ、これからどうするのじゃ?」
「とりあえず拾った宝石を換金して美味いもの食べに行くでござるよ」
ユウチャンは赤い宝石を取り出して村長に見せた。
「この輝きは……魔物を倒して手に入れた宝石ではないかな?」
「左様でござる。村長殿、どこかに質屋はないかな?」
「これは売らぬ方がよい、ワシも初めて見たが伝説によると魔王を倒すのに役に立つそうじゃ。ユウチャンが持っていなされ」
「えー、拙者もう魔物と戦いたくないでござる。これ誰かよさげな人に授けといて」
ペチン
ユウチャンの上で薬を塗っていたカノンがユウチャンの頭を叩いた。
「なに弱気なこといってるのよ!あなたには世界を救う力があるのよ、世界のために魔王をやつけてやろうと思わないの!?」
カノンの必死な問いかけにユウチャンはぼやくように答えた。
「また肩が痛くなるのは嫌だしなぁ……他の誰かがいい感じにやつけてくれるでござるよ。うん、たぶんそんな感じ」
「じゃあユウチャンは一生帰れないね」
「!!?」
ユウチャンは跳ね起きた。背中にのっていたカノンはひっくり返った。
「カノン殿早く他の魔王軍軍団長を倒しに行きましょう!のんびりしている暇はないでござる」
ユウチャンは鼻息を荒くし、猛烈なやる気に満ち溢れていた。
「ところでカノン殿、他の軍団長は何処に?」
「知らないわよ、私が知るわけないでしょ」
二人の会話に村長が割って入ってきた。
「ワシもどこにいるのか知らないが、手掛かりに心当たりが……」
「「手掛かりとは!?」」
ユウチャンとカノンは同時に問いかけた。
「なんでもジンボー村というところに……」
二人は同時に大きなため息をついた。
「『魔術師のソナタ』ね。しょうがない、会いに行きましょうか」