ユウチャン、ピーちゃんの生まれ変わり?に出会う
なんか外が騒がしいわ、様子を見てこようかしら」
カノンが露天風呂から出ようとすると、空から魔物が降りてきた。
「おっと、温泉を楽しませて貰おうと思ったら、まだ人間がいたのか?」
「誰?」
カノンの前に背中に強大な翼を生やせた、青い肌の女の魔物が現れた。
「失礼するよ」
魔物は服を脱ぎ、カノンの浸かる湯舟へと入ってきた。
カノンは魔物の青くも豊かな乳房を悔しそうに眺めていた。
「なにを見つめる?魔物が温泉に浸かるのは珍しいか?」
「あ、そういうわけでは……」
カノンは火照った顔をさらに赤くし、下を向いた。
青い魔物は不敵な笑みを浮かべてこう呟いた。
「もうこの温泉には入れなくなる。最後くらい楽しんでやらんとな」
「……いま、なんていったの?」
カノンの顔は見る見る青ざめた。
「もうすぐこの村付近の活火山が噴火する、我らが魔王軍五大軍団長の一人『獣王ライオス』の手によってな。ここら辺一帯はすべて火山で流される。魔王様は魔物と人間との全面戦争の狼煙をあげたいそうだ」
「そんな……この村の人は……あなたは何者なの?」
「私は空を舞う魔物達の軍団、空帝団の軍団長『大翼ガルダ』だ」
「空帝団……軍団長……」
カノンが愕然としていると一人の腰にタオルを巻いた男が現れた。
「カノン殿、ただいまでござる」
「ユウチャン!どこにいってたの?」
「なんだか外が騒がしそうだった見に行ってたでござるよ」
「外から帰ってきただと、魔物達に合わなかったのか?ふふふ運のいい男だ」
ガルダが不敵に笑った。ユウチャンは初めてガルダに気づいた。
「やや、他にも客人が入っていたとは……湯気で気づかなんだ。ん!?」
湯気ではっきりとは見えなかったが、ユウチャンはぼんやりと見えたガルダの体を凝視した。ガルダの均整の取れた美しい肉体ではなく背中の翼をじっと見つめていた。
「ピーちゃん!!」
「む?なんだピーちゃんとは」
ユウチャンは震え始めた。
「その真っ青な翼は拙者が幼少のころ飼っていたピーちゃんに違いない。ケージの掃除中に羽ばたいてしまってもう会えないと思っていたのに。こんなに大きくなって……おろろろ……」
ユウチャンは目を潤ませながら湯船に近づいていった。
「ちょっとユウチャン!そいつは敵よ」
「ピーちゃんは敵ではないでござる!」
カノンの忠告に対し、ユウチャンは怒り始めた。
「敵か……そういうことになるな、安心したまえ。私は外で待ち構えている『獣王ライオス』のように惨たらしい殺し方はしない。痛みを感じる間もなく、さくっと首を跳ね飛ばしてやろう」
「あ、外で思い出した。ピーちゃんにこの宝石をあげよう。本当はカノン殿にあげようと思っていたものでござるが」
ユウチャンは腰に巻いたタオルに手を突っ込み、赤い宝石のを取り出した。
「……貴様!これをどうやって手に入れた!」
穏やかだったガルダの顔つきが鬼のような形相に変わった。
「なんだか外の魔物とどんちゃんやってる時、顔周りが毛深い魔物を倒したらお金じゃなくて宝石になったので。珍しいと思って持って帰ってきたでござる」
ユウチャンは宝石がガルダに喜んでもらえそうだったのでニコニコしていた。
「我ら五大軍団長はその命が尽きる時、その強大な魔力を宝石として残して散っていくと言われている。その燃え上がるような真っ赤な宝石は『獣王ライオス』の魔力を秘めた宝石に違いない!!貴様『ライオス』を倒したのか!?」
「う~ん、名札がついてなかったので名前までは……あ!そういえばミノタウロスが『獣王ライオス様』とか呼んでたでござる、じゃあ拙者しかと倒しました。ピーちゃんの知り合いとは知らず申し訳ない……宝石あげるから許してほしいでござる」
「待って、ユウチャン!それをその女に渡しちゃダメ!私にわたして」
カノンが大きな声でユウチャンに忠告した。
「カノン殿必死でござるなぁ、そんなに宝石好きだったでござるか。じゃあカノン殿にあげるか、しょうがねぇなあもう」
事態がいまいちわかっていないユウチャンと必死なカノンに対し、ガルダは不敵に笑い始めた。
「ふはは面白い、その宝石は預けておこう。万全の体制を整え必ず会いに来る、次に会うときにはその宝石を渡してもらおう、貴様の命と共にな」
そう言い残すとガルダは背中の羽をはばたかせ、空のかなたへと飛んで行った。
「ガルダ……恐ろしい女ね」
「ああ、ピーちゃんがまた脱走を……」
カノンはユウチャンの後頭部を軽く叩いた。