ユウチャン、覚醒する
「魔王様も恐ろしい人よ、こんな小さな村の山を噴火させるのに私と獣王ライオスを呼んだのだからな」
悪しき者が己を翼を羽ばたかせ、ゲロ村の上空にいた。
「もう獣王団は村の近くまで来ている。我が空帝団も遅れるなよ」
「はっ!」
ガーゴイル達は返事をして、ゲロ村入口に飛んで向かった。その数は百匹を超えた。
何も知らないユウチャンとカノンはまだ温泉に浸かっていた。
「だいぶ温まってきたね〜。肩の調子はどう?」
「ううっ……なにかが来ている」
ユウチャンは頭を抱えていた。
「何かって、なに?」
カノンはさっぱりだった。温泉でさっぱりしていたという意味ではなく、ユウチャンの考えがさっぱりわからなかったと説明しておこう。
「拙者、行かねばならない」
「ちょっと、どこ行くの?」
カノンはユウチャンを静止しようとしたが、ユウチャンの真っ赤に光る目を見て思わず後ろに下がってしまった。ユウチャンは腰にタオルを巻いたまま、棍棒だけ持って外に飛び出してしまった。
「ユウチャン、どうしたんだろう?そんなにお風呂入るの嫌だったのかなぁ?」
カノンはもうちょっと湯船に浸かることにした。
その頃、ゲロ村の見張りは異変に気づいた。
「遠くからミノタウロスの群れ、上空からはガーゴイルが来ている……エライことだ……村長!!」
見張りは高台を降り、すぐ村長の所に向かった。
「村長!村の周りにガーゴイル百匹、ミノタウロスが百匹。合わせてニ百匹ほど来ています!!」
見張りは声を震わせながら、村長に状況を伝えると恐怖のあまり失神してしまった。
「ガーゴイルもミノタウロスも一匹で上級戦士一人に値する、この村には上級戦士はワシの息子『マッセル』が一人だけじゃ、あとは下級戦士が何人かおるだけ。ここまでじゃのう……」
「親父、逃げよう。この数じゃ勝ち目がない」
村長の息子マッセルもとても戦う気などなかった。戦ったところで無残にやられるのは村人の誰の目からも明らかだった。1人の少年を除いては。
「そんな……僕たちが育った村なんだよ。どうして魔物なんかに渡すのさ。僕は戦うよ」
マッセルの息子、ミッケは震えながら抱きかかえるように木の棒を持っていた。
「小さな勇者よ、その必要はないでござる」
村長の家の入口から聞きなれない声がした。
「誰じゃ?」
身体から白い煙を出しながら、腰にタオルを巻いた男が、腰にちいさなナイフを携え立っていた。
「拙者はユウチャンでござる」