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 今の俺が、消える事のないモヤモヤを吐露でできるのは

「別に、サラリーマンも悪くないと思うけど?」

 共有スペースでもあるダイニングの椅子に跨り、背もたれに顎を預けているユリは、甘い声で、甘くない言葉を紡ぐ。

「そうじゃなくて、こう、目的がないって言うか…」

 何が違うかって言うのがうまく言葉に表す言葉がすぐに思い浮かばず口ごもる。

「んー。夢を追いたいわけ?」

 そんな俺の様子から答えを探るべく、ユリは顔を上げて、顎に人差し指をつけて頭を傾けて考えている。 

「いや、その。なんか違うんだ。

 俺もサラリーマンがだめって思っているわけじゃなて、どんなサラリーマンになりたいのかって、全然、考えてないなって、気づいて」

「今さら?」

 悪意もないだろう純粋な言葉が今の俺には(するど)く刺さった。

「うっ。そうだけど。どんな業界?がいいとかもないのって、ただ漠然に、やばいなって思ったんだよ」

「ふーん。ほんと夢とかないわけ?」

 その幼女顔で急所を突くな。傷口に塩をグリグリと塗りつけられているように感じるほど痛い。

「なんとなく、どっかの会社に就職して、サラリーマンになるんだろうなーくらいでした」

「じゃあ、大学をどうやって選んだの?」

「自分の学力で行けそうで、ちょっと離れてれば、って思って、選びました」

 ユリの雰囲気がいつもと違って、声が少し低くく真面目な顔するものだから自然と敬語になっていく。

「ふむ。なるほどねぇ…それがダメだとは思わないけど」

 そう言葉を区切ると

「まぁ、せっかく視野が広がるんだって気づいたなら、広げた方がいいかもね!」

 先ほどまでの雰囲気が嘘のように変わり、一転して、楽しそうに声が跳ねた。

「うん?」

 その変化についていけず、ただただユリを見ていると

「知らないと損なんて、言わないけど。

 知ってた方が選択肢が広がるってことよ。学力とかじゃなくて、知識を増やして、視野を広げるのよっ」

「知識」

「そうよ。でも、増やそう!って言っても、闇雲に動くよりは、その友達のバイトを紹介してもらうなり、聞いてみるのが一番かなぁ」

 まるで天秤にかけるかのように、左右の人差し指はちょこちょこ上下に揺れている。

「あとは・・・私とデートしましょう!」

 モヤモヤに対しての情報や提案の言葉に流されていたのもあり

「わかった」

 勢いに乗って、そのまま、つい返事をしてしまった。


 ・・・・ん? デート、デーーートーーーーーー!?


「私はこう見ても社会人で忙しいの。まぁ学生さんも勉強が本業だしね。

 ってことで、週末、空けとくこと! これ、決まりね♪」


 あっという間に話が進んでしまって、ユリは話が済んだとばかりに「明日も仕事だから、じゃあ、おやすみ!」と自室へ去って行ってしまった。


「どう言うこと?」


 相手のいないダイニングで答えが返ってくることはなかった。


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