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 講義を終えた俺たちは食堂に足を運んでいた。

 この大学には2つの学食があって、オシャレなカフェっぽいスタイルの学食と、定番とも言える、テーブルに流れるようにメニューを出される学食との2つのスタイルに分かれている。やはりと言うか、カフェスタイルが人気があって人が混み合っていることが多いので、俺らは、定番の学食スタイルをほぼ利用している。

「そう言えば、良に言ってたやつ」

 日替わり定食に舌鼓を打っていると、宇汐がCDが入ったケースを目の前に出した。

 受け取って、ケースを開くと丁寧な文字で、曲目とアーティスト名が入っていた。

「お、サンキュー! 結構、いろんな曲入ってる感じ?」

「そうそう。前、ウォークマンに入ってるの聞いてもらった時にイイって言ってくれたものから、好きそうかなぁって思って、何曲か追加してみたよ」

「へー。そん時も思ったけど、宇汐って、イメージと違って、ジャンル問わず聞いてるし、色々知ってるよな」

「うん。そういう職業につきたいなって考えているからねぇ」

「そういう職業?」

 音楽をたくさん聞いていることが繋がる職業のイメージが全く浮かばず、思わず聞き返す。

「んー。色々言い方があるから一概には言えないんだけど。音響関係に就きたいんだよね」

「音響系って?」

 宇汐は困ったように笑うと

「んー。スタジオの音響さん?とかわかるかな?」

「なんとなく。テレビとかでたまに出てくるやつだろ?

 ・・・・歌手とかアーティストが録音するレコーディングスタジオとかで機械いじる系か」

 そこまで言われて、やっとイメージが繋がった。

「うん、そういうの仕事にできたらなって」

 なかなか口では説明しにくいんだよ、裏方な職業だしね。と、苦笑した理由を説明するかのように言葉を足していた。

「へー」

 大学1年で、もう将来のこと考えていることに感心していると

「そういうの言ったら、あゆかもそうだよね」

「あゆかも!?」

 まさかのいつもつるんでいる友人二人が揃いも揃って、将来のことを考えていることに驚いた。そのまま、あゆかに視線を向ける。

「そうね。と言っても、ウチは録ってもらう側だけど」

 なんでもないような事のように言葉が続いた。

「とってもらう? 何を?」

「歌よ、ウチはシンガーソングライター目指してるの」

 言い終わると定食のスープを飲む姿は平常運転のあゆか。

「しんがーそんぐらいたー」

 驚きの情報が多すぎて、出てきた言葉を反吐する。

「何、その奇妙な目は」

「色々、意外情報が多くて、それに、あゆかってゴリゴリのロックとか歌いそうだなって思ってたから」

「はぁ?」

 お椀の影から覗く表情(かお)には怒りの空気をまとっている。やばい、と思った瞬間

「ステージ上のアユカは雰囲気、ガラッと変わるんだよー」

 すかさず宇汐がフォローをしてくれたので、怒りの炎が燃え上がる事なく鎮火した。

「ステージって、宇汐は観たことあるのか!?」

「うん、バイトで、ライブハウスのスタッフとかしてたりするからねぇ。そこで、俺たち出会ってんだよー。

 あっ。言ってなかったっけ?」

「聞いてない!・・・はぁ、そうだったんだ。

 二人とも雰囲気(キャラ)違うのに、なんでかなぁ。とは思ってたけど、意外と世の中狭いな!

 確かにまだ俺との付き合いも1ヶ月そこそこだし、話してないことがあっても不思議じゃないと言うか、当たり前か。何よりも、そんな付き合いがあったことが驚きであった。 

「でしょー」

 柔和の雰囲気に和みそうなるが

「でしょーじゃないわよ。

 確かに、業界的には狭いけど、学校が一緒っていう偶然は、なかなかないわよ。」

 あゆかの鋭い言葉(ツッコミ)が入る。

「そう言うドラマみたいなことばかり起きるわけないじゃない。男子ってホントバカよね」

 呆れたようにあゆかが呟いで、その話は終わり、食事を再開したけれど、俺の心の奥底にはもやもやとした想いが生まれていた。


 俺以外ちゃんと将来(ゆめ)を考えてるんだ。


 衝撃的だった。

 いつもつるんでいる二人が将来を考えていただなんて。

 考えてないとは思ってなかったけど「フツーに大学に行って、フツーに就職して」って言う、なんとなく、みんなが至極当然のように歩む。動く歩道みたいな、なにも考えなくても、動かなくても、勝手に進んでいく、なんとなくな生き方じゃなくて、やりたいことが見えていることが、俺にとって、静かな衝撃を与えていた。


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