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ぱちんと乾いた音が鳴る。
「ごちそうさまでしたぁ」
右から左に抜けていった番組のエンディングロールが流れはじめた頃。器に注いだスープは綺麗に消え、その前には満足顔をしたユリ。
「おそまつさま」
「ふふっ。良ちゃんって、ほんと、分かりにくいけど真面目な子よねぇ」
口元を押さえて笑うユリ。
おい、バッチリ聞こえているぞ、その言葉。
押さえているようで、押さえきれていないその行為に意味はない。
つまり、隠すつもりのないストレートな言葉。
それがなんだか気恥ずかしくて仕方がない。
「あ、ちょっ、まてよ」
俺が心の葛藤をしている間に、自室へ戻ろうとしていたので慌てて手を伸ばす。
「ん? 何?」
くるりと半回転して、目を瞬かせるユリ。
触れることなく宙をかいた手はおとなしく自分の元に戻した。
「あー、その、だな」
「うん?」
歯切れが悪い俺をどう思ったのか、首を傾げながら、目の前まで近づいて見上げるユリ。
「……宇汐と話した。
ユリが心配してたことはなかったけど、知ることができた」
「そっかぁ」
安心したように息をこぼしほころぶ。
「それに、あゆかとも話して、なんか色々知ることができた」
「うん」
静かに話をうながす姿は普段と違って、年上のようだ。いや、年上なんだけど。そんなことが頭を過って口元が緩んでしまう。
「?」
俺の緩みを不思議そうにしながらも、まっすぐに届く優しい眼差しに意識が戻る。それてしまった思考を軌道修正する。
「最初にユリに相談したとき、最初は焦りで何にも考えてなかった。考えているようで考えてなかった。
だけど、今は違う。無理だけど、明確な目標じゃなくても、自分が進みたい方向ぐらい見つけたい、って思ってる」
少し彷徨ってしまったけど、目の前の人物と瞳が合わせることができた。
「うん」
「その、相談したし、考えてくれたし、い、色々あったから、経過報告?てきなの?
すげーふわふわしてる結果っていうか、答えだけど、それが今の俺っていうかさ」
出した答えはまだまだ不透明どころか、行き先も、どの方向かさえ決まっていない。
手元にできた地図を読むことができていない。
ほんと、色々あったおかげで気づくことができた。
これから読めるようになりたい。
手元にできた地図を元に冒険してみたいと思う。
「うん、いいと思うよ」
その真っ直ぐな眼差しが苦手だった。
大人なくせに子供みたいに純粋に真っ直ぐに伝えようとする瞳が。
だから、瞳を逸らしていたし、気づかないふりをしていた。
でも、今は違う、その瞳を見ることができる。
改めて考えてみると
「俺って、狭い世界だったんだなー」
「うーん。それはちょっと違うかなぁ。
そういう世界がどっちかっていうと大多数なのよねぇ」
困ったように笑った。
「勘違いして欲しくないんだけど、どっちも悪いわけじゃないし、どっちも良いわけじゃない。
ほーんとっ、人それぞれなのよ。
でもさ、私に話した時には、もう、気づいたのよ、今いる世界には続きがあるって、ね?」
くるりと舞うユリの髪先が泳ぐ。
「気づいても、通り過ぎるか、進むかはその人次第。良ちゃんは進むことを決めた。
何にも見えないけど、歩くのってすっごい怖いじゃない?
それをするって、すっごいことだと思わない? 私はそう思う。
だからねぇ、良ちゃんはすごい!」
自分のことのように、腰に手を当て威張っている。それがなんだがおかしくて頬が緩む。
「さて、一度、舵をとったら、なかなか戻れないわよ?海は広くて深いのっ」
腰に当てていた右手を掲げて、そして、横を指す。
「かの有名な教師も言ったわ。少年よ、大志を抱けっ、てね?」
どうやら、かの有名なクラーク博士の真似をしているようだ。
「少年って年じゃなねぇーし」
俺のツッコミに不服そうにしつつも、代案を出してきたんだが
「えー? じゃあ、ボーイ?」
そういう問題じゃねぇ!英語にすればなんでもカッコいいとか、小学生か!
ユリのズレ具合に
「頭が痛い」
「えっ、どうしたの? 大丈夫? 早く寝たほうがいいんじゃない??」
頭を押さえた俺に慌てて近づいて、額をペタペタと触る。
ほんと、ユリといたら退屈しなさそうだわ。
退屈してたわけじゃないけど、興味がなければ流せばいいだけだった。
でも、ユリといたらそんな流せない事ばかりだし、かと言って、ほっとくわけにもいかないし。
毎日が刺激的で、いろんな発見があることが違いない。
ユリの地図は、常に更新され、開拓されていくんだから。
「はぁぁぁぁ」
「え!?」
急に音を立てながら息を吐き出した俺にびくりと肩を震わせたユリ。
「あー。もう、いいや。
・・・ここまできたら、最後まで付き合ってくれるんだろう?」
そう言ってやると、瞳を瞬かせ
「それはどうかしらねぇ?」
「おいっ」
「なんてねぇ。もちろん!お姉さんにまかせーなさいっ」
花が咲き開くようにそれはそれは楽しそうに笑った。
惰性で進路を決め、なんとなく日々を送っていた俺が、将来についてこんなにも考える日が来るなんて思ってもいなかった。就活なんて、3年後なのに。いや、あと3年なのかもしれない。
まぁ、焦らずに、時には振り回されながら、俺は俺のやりたいこと見つけたいと思う。
思い描いていた新生活とは違っていたけれど、ユリとの同居生活は予想外な事ばかりで、はじまったばかりだ。
*
*
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『惰性ボーイは大志を抱く⁉︎ -元ご近所のお姉さんと、ルームシェアはじめました-』
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人々の行き交う音に混じって、刺さるような視線。
目の前には彩り豊かな布が揺らめいている。
「ねぇ、どっちの下着が可愛いかなぁ?」
「意味が違ぁぁあぁぁぅっ!!!!」
ーEND?ー
はい。ひとまず完結です!!!!!
後半はラブコメっていうよりも、将来のアレコレでしんどい話が多かったかと思います。
本当に、お付き合いいただき、ありがとうございました!
同居あるあるなラッキー?トラブルっぽいものや、あゆかのライブにも行った話とかも書きたいなぁ〜と考えてたり。
それと、将来のアレコレですが、本当にいろんな考え方があるって思うので、見方や視野、何かのキッカケになったら嬉しいです。
でわでわ長くなりましたが、本当にありがとうございました。
また機会がありましたら、よろしくお願いします!
※ひとまず完結しましたので誤字脱字報告?を稼働してみようと思います。優しい指摘をお願いします。




