41これから
「あー…疲れたぁ」
テレビを見ていると、屍よろしく、よろよろとした足つきでダイニングに入ってきたユリ。
普段よりは早い帰宅である。
たぶん、定時で切り上げて、そのまま真っ直ぐ帰ってきたのだろう。
「おつかれ」
「ありがとー。・・・あ、ゴハン、買い忘れた。いや、もう、このまま寝るかなぁ」
寝不足なのはユリも同じで、そして、昼寝ができる俺と違って、社会人に昼寝できるほどの休憩なんてないだろう。
人間的な欲求の食欲より睡眠力が上回っているほど、判断能力も鈍っているようだ。
「なんか食わないと、夜中腹が減って、太る、太らないとか言い出すじゃねーの?」
「むー! 良ちゃんのいじわる。睡魔が瞼がぶら下がっていて重いのよぉ!」
ジャケットを羽織ったまま、テーブルに転がるようにうつ伏せになって、ごねている。
「はぁ。見た目とかいいなら、スープ食う?」
「えっ?」
ウサギの耳でもついているのかと見まごうほど、ピョンと起き上がって、キラキラとした純粋な瞳を向けられる。
ほんと、これで年上とか、詐欺だよな。
「まぁ、あれだ。時間があったし、なんとなく作ったスープだからな」
そう、ほんと。なんとなくなのだ。
なんとなく立ち寄ったスーパー。なんとなく安くなっていた鶏肉に、キャペツに手が伸びた。
鍋に突っ込んで煮込めばできそうだな。と、実際、できたし、まぁ不味くはないと思う。
ただ、作りすぎたようで、余ってしまったから翌朝に回そうと考えていたところだったので、渡りに船というもの。
「期待すんなよ」
押しすぎなくらいに念押しをして、コンロに火を入れスープを温める。
「わーい。良ちゃんの手料理、手料理っ」
歌うようにゆらゆらと揺れるユリに思わず口元が緩んでしまう。
「ほら」
数分のことだが、ユリは温めている間に自室に戻り、お下がりの襟ぐりが開いたTシャツにハーフパンツというラフな格好に着替えていた。
俺はユリが座ったのを確認して、目の前に置いた。
ユリは香りを楽しむようにスープに顔を近づけたあと、かかりそうになる髪を耳にかけて、軽く息を吹きかけて、声を漏らす。
「はふっ。んんー! 美味しい!!!」
小さい口をもごもごと動かし、鶏肉を噛み締めては、震えて歓喜の声をあげる。
そんなにも全身で表わされると、嬉しいを通り越して、照れる。
「具材も大きくて、食べ応えも良い感じぃ」
「ま、俺が作ったんだから、当然」
熱が集まる頬を隠すように手の甲を当て、ユリから視線をそらした。
「ふふっ」
「んだよ」
「べっつにぃ? 良ちゃん、美味しい。ありがとぅ」
噛みしめるように言葉を発するユリについ視線が動いてしまうが
「…どーいたしまして」
ずっと見ていることができず、すぐにテレビを見ているように装う。
画面にはバラエティー番組が流れているが、全く、頭に入ってこない。
あぁ。ほんと、俺はユリに振り回されっぱなしだ。




