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数秒、その後ろ姿を追っていた。
瞬間的に風が吹き抜け、パンを買ったビニール袋が音を立て、ハッと気づく。
二人っきりのタイミング。
今、言うかしかないと、意を決して口を開いた。
「あ、あのさ。宇汐。ごめん」
「ん?」
「バイトんとき、効率が悪いとか、スタジオ一本にすればとか、その、お前がやってることに対して、なんにも知らない俺が口にしていいことじゃなかった。気分悪くした、と思うし、ほんと、ごめん」
いざ、口にすると、うまく言葉を繋げることができない。
頭の中であれこれと考えたけど、正直、まとまらなかったし、ユリの意見を鵜呑みにしてるわけじゃない。
でも、ユリの言葉を聞いて、自分の発言を悔いたのは確かで。
仲が深まったらーーーなんて言ったらおこがましいけど、宇汐を、目指すことを、知った上で言わなければいけない。そう思ったんだ。
「あー。仕方がないよー。良って、まず、頭で考えるタイプっぽいし。
理詰めって言うと堅いけど、真面目すぎるって感じー?
俺は気にしてないし、むしろ、そんな風に考えてくれただけで、逆に嬉しいって言うかー?」
瞳の瞬く音が聞こえそうなぐらい、見開いたあと、ふっと目元を緩めて笑った。
その瞬間、肩の力が一気に抜けて、俺自身、緊張していたんだと気づいた。
「そっか。気にしてなくて良かったって言うのも変だけど、なんかあの後、色々考えちまって」
「あはは。それで寝不足? てか、あゆかに色々きいてたの、それが原因だったりする?」
どこから聞いてたんだ、と言う疑問が生まれるとともに、聞かれていたと言う現実に頬に熱が集まるのを感じた。
「うっ。まぁ、そう、だけども…」
「まー? 俺は気にしないタイプだけど、気にする人は気にするから注意した方がいいかもー。
それに、あゆかとかに言ったら一発でぶん殴られる案件だよー」
笑いながら拳をつくって空気を殴る動作をする宇汐に、あゆかにないにしろ、すでに一発殴られていると言えない案件である。
宇汐なら、薄々気づいていそうな気がしないわけでもないが。
「でもさ、宇汐も、その辞めたいとか、目指してるエネルギーってどうなんだ?」
聞かれているから隠す必要もない。
あゆかにも聞いた、ふとした疑問を宇汐にも聞いてみた。
「うーん。俺は、楽しいからかなー。
勿論、大変なこともあるし、ただ単純に楽しいんだよねー。お祭りみたいでさ」
意外だった、あゆかのような強い言葉や意思とかじゃなくて、ふわふわとした感情であったことに驚いた。
「イベントがお祭りみたいでワクワクする、ってことか?」
「それもあるけど、なんだろう。
やっぱり、1つのもの、ステージで、何百人も、何万人も、楽しませるってすごいし、楽しいなって。結構、単純な感じかなー?」
「そうなのか」
「そうそうー。それにイベントって生物だからトラブルもつきものなんだよ。
起きた時なんか、どう片付けようかなーってワクワクするんだよねー。なんか血が騒ぐってやつ?」
・・・血が騒ぐ。あゆかと通ずるところか見えた気がした。
そして、笑っているが底知れぬ何かを感じて、怒らせて怖いのは宇汐なのかも知れないと背筋に冷や水が流れた。
「たっ、ただいま!」
片手に”いちごミルク”と書かれたピンク色の紙パックを持って帰ってきたあゆか。
「おぅ」
「おかえりー」
俺たちの様子をみて、ひとつ頷き、椅子に座る。
「?」
その行動が理解できずに首を傾げていると、宇汐がコッソリ教えてくれた。
俺の様子がおかしいから、あえて席を外したんだよ。と、思わず目線が向いてしまう。
なんだかあゆかの意外な面を知るばかりだし、宇汐はそのあと、あゆかに無言で肩にパンチをされていた。
人それぞれやりたいことの捉え方は色々ある。
ケンカだったり、単純に楽しさだったり、俺も俺なりの、将来の捉え方を見つけることはできるのだろうか?
いや、みつけたいと思った。




