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あらゆる鋭い視線を乗り越え辿り着いた我が家は、駅から離れたところにある年数を感じする小綺麗なマンションであった。
「ここが、キッチン兼ダイニングで、これを挟んで、こっちが私の部屋ね。
で、こっちがお兄ちゃん、っていうか、今日から、良ちゃんの部屋になりまーす」
玄関に入ってすぐにダイニングがあり、小さなテーブルセットと、壁側にはテレビが置かれていた。そこを通り過ぎるとすぐに二つのドアがあって、向かって右がユリ、左が今日から我が城となる部屋になるんだけど、
「おい、ちょっと待て。これはなんだ」
思わず、低い声が出てしまったことは許してほしい。なぜならそこには
「え? 洗濯物??」
「そういうことじゃない、中身だよ、中身!」
「あぁ。ブラっていうか、下着のこと言ってんの??」
平然と言ってますが、俺、一応、男なんですけど。
「ははーん。もしかして意識しちゃったー?」
と、ニヤリとするが、意識っていうか、そういうの平気なところにも疑問っていうか、恥じらいっていうのはないのか!?
「ごめんごめん。お見苦しいものを」
無言になった俺を怒っていると感じたのか、謝罪の言葉を口にするユリ。そのことに「一応、そういう意識はあるんだな」と安心したのも束の間であった。
「お兄ちゃんと一緒に住んでたのもあって、つい。
でもね、残念ながら、っていうか、むしろ?良ちゃん的にはラッキーなことに、こういうのは室内干しになるの。だから、慣れてね!」
慣れろと!?この可愛いレースのついたやつならまだしも、おい、柄がついているやつがあるじゃないか!ファンシーでポップな柄の下着があるんですけど。ますます年齢を疑いたくなる。
「あっ」
心なしか頭痛に見舞われている中、急に声を上げるユリ。
不思議に、視線を追うと、バルコニーを指差していた。
「?」
「バルコニー出てみて!気持ちいよー」
そう言われたので、とりあえず、バルコニーに出てみる。
…目の前には、下町っぽい道があり、空を望むことはできるけど、建物間は近い。ただ、駅からの喧騒を思えば、のどかに感じて、数時間しか別れていない地元を思い出す、なんだか懐かしさを感じる。
「確かに、気持ちいーかも」
感想に対して、返事がなく。不思議に思って、振り向くと。いない。
人を誘導しておきながら、いなくなるとは。と思っていると
ガラッとサッシの動く音が聞こえて、再び、バルコニーに体を戻して、音のした方を見ると
「ふふっ。なんと、私の部屋と良ちゃんの部屋はバルコニーで繋がってます!」
ユリがバルコニーに立っていた。
このことを説明したいがために、誘導したのだと察した。
「なるほど」
どうりで、バルコニーが広いわけだ。
「ドアが開かなくなっても、バルコニーから出入りできるから安心だよ」
どんな緊急事態を想定してんだ。と脳内でツッコミを入れながらも、こういう、くだらないやりとりが昔のままで、なんか笑ってしまった。
「でわでわ、今日からよろしくね!」
「よろしく」
こうして、俺たちの共同生活がスタートした。