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それ以上、声を発することができず、ダイニングは沈黙が支配した。
時が止まったのかと錯覚してしまいそうだった。
俺を写す、瞳の中を揺らぐ波だけが否定する。
先に沈黙を破ったのはユリ。
「っ。りょっ、りょーちゃんのばかっ!!!!」
声は震えていた。
表情が見える前に、背を向けダイニングを飛び出していく。
遠のく足音と後ろ姿を俺はただ、目で追うだけで、呆然と立ち尽くしていた。
夜中に似つかわしくない鉄の扉が閉まる音が響いたことで時の縛りから解放され、その場に座り込んだ。
「ユリのやつ…なんだよ」
目の前に見える4本の棒。ユリが倒した椅子の脚だ。
二度の襲撃に合った頬は、今もなお、ちりちりと痛みを訴えてくる。
正直、腹は立っていた。
ワケもわからずに振り回され、挙げ句の果てには責められた、あまりにも勝手すぎるし、理不尽過ぎる。
ーーーほっとこう。
あぁ見えてユリはれっきとした大人なワケで俺があれこれ言うのもおかしいんだ。
それに・・・俺も、頭を冷やす時間が欲しい。
ユリの言っていたことを全部、理解できたワケじゃないけれど、宇汐については少なからず表情を曇らせてしまったことも事実。
気にしないように、気付かなかったフリをしようとしていたことを指摘されて、俺は・・・
「はぁ」
大きく深呼吸をして、頭を切り替えることを意識する。
このまま、ダイニングいても、ここであったことがチラついて落ち着かない。
とりあえず、自室に戻るか…それに帰ってきて早々に色んなことがあって風呂に入いるタイミングを失ってたから入ろう。
そう席を立つと視界に入る、俺のじゃないスマホ。
ーーー知るか。
そう思うのに、頭の中はユリについて埋め尽くされていく。
スマホを持っていってない、となれば、鍵も、何も持っていってない。
もしかしたら、もしかしなくても、あんな風に飛び出したんだ、持っているはずなんてない。
それに、風呂上がりで、ルームウェアで、、、
「あぁっ! くそっ。世話がやけるっ」
自室に向けていた足先は玄関に変わっていた。
椅子にかけっぱなしだったパーカーを掴んで、ドアノブに手をかけた。




