22
「はぁ〜。ただいまぁぁぁぁ」
その日の晩。ユリは普段より遅い24時近くに帰ってきた。
今日は新人歓迎会があったらしく、2年目などの若手新人は、そういう飲み会の幹事をやるのが若手社会人の登竜門だとか、連日張り切っていた。
「おかえりー」
ダイニングでテレビを見ていたので、気の抜けたような惰性な返しをした。
「良ちゃーん。うぅー大変だったよぉー。あぁ、私、頑張った。頑張ったよぉお」
夜帰ると、音に敏感に注意しているユリだが今日は違っていて、どたどたと足音を立てながらダイニングに入ってくると、ふわりと煙草とお酒のアルコールの混ざった、なんとも言えない匂いが漂ってきた。
「うっ」
「良ちゃーん。よく頑張った私にぃ、おつかれぇって言ってぇ〜よぉ〜」
玄関に背を向けるように座っていた俺に、首に手を回すように抱きつかれた。肌に触れる髪がくすぐったい。吐息を感じる。ユリの顔が頬に触れるほど近い。
そんなドラマティックな体勢ではあるけれど、ユリのまとう空気は、微妙な、なんとも言えない匂いである。呼気からはアルコールの匂い。
「はいはい。お疲れ、お疲れ。ユリは頑張った、頑張った」
通常なら突っかかるであろうおざなりな言葉に対して、パッと回していた腕を離して、俺と目線が合うように隣へと回りこむ。
「ほんとにぃ⁇」
「ほんと、ほんと、よしよし」
そのことから重度の酔っ払いであると判断した俺は、お疲れのユリを労わるように、頭を数回撫でてやる。
「えへへ」
それはそれは嬉しいそうに破顔するもんだから、匂いはいただけないが、酔っ払いも悪くはないな、と思った。
「良ちゃん、良ちゃん」
子供のように、名前を連呼し続けるユリ。を、いつまでも観察しているわけにはいかない。
相手は酔っ払いであるし、このまま、付き合っていたらいつ寝れるのか分からない。
ということで、
「風呂に入って、サッサと寝るんだ」
隣にいるユリをぐるりと半回転させて、風呂場に体の向きを変える。
「もっと、おしゃべりしようよぉ」
酔っ払いらしく、俺の腕を掴んで強請ってくる。
「はいはい。そうだな。ならば、風呂に入ったら聞いてやるよ」
「ほんと?」
「ほんと、ほんと」
同じような会話を数回繰り返して、やっと理解したのか、渋々と風呂場に向かって、スーツを脱ぎはじめた。
・・・ん?
「むー。なんか臭いぃ〜」
自分が着ていた水色のワイシャツの襟口をクンクンと嗅いで、顔をしかめるユリ。
そのまま、ボタンを外して、シャツは床に落ち、お酒で火照った色づいた肌があらわれた。
キャミソール姿とはいえ、下着も、控えめな谷間だってバッチリ見える。
そのまま指先はスカートのホックへと移動し、それもまた床へと落ちた。
そして、ストッキングへ。
よたよたとバランスがおぼつかない姿勢になるので、思わず手を伸ばしてしまった。
「ありがとぅ、良ちゃん〜」
これ、フツーなのか?
え、何、フツーってなんだ⁉︎
そんな俺の葛藤など気付くはずもなく、なんとかストッキングを脱いだユリは、キャミソールへと手をかけはじめた。
ので、
「ほら、風呂場に行けって」
洗面所兼脱衣所の扉を開けて、強引にユリを押し込んだ。
「はいはぁーい」
慌てる俺と反対に、気の抜けたような返事。
扉を閉めた後に残ったのは、ダイニングに散らばったユリの服と俺。
ユリとの生活は、本当に予想がつかないことばかりだ。
異性に兄弟&姉妹がいる方は分かるかもしれない。あるあるです(°▽°)ほんとにあるところはある!




