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21あるある


 始業時間10分前。講義室のドアがひっきりなしに開閉音を立て、その度にざわつきが波のように揺らぐ。

 この講義室で今からはじまるのが必修科目ということもあって、気持ち人が多いのも、ざわつきの波を大きくしている一つの要因かもしれない。

 ちなみに、俺は、というと、焦って走るなどかけなくていい労力をかけるのが嫌なので、余裕を持って登校するタイプで、宇汐もしかり。筆記用具などを開いて、始業時間までのんびりと時計の針を追っていると、ダンと物を置かれた机の振動が頬杖つく肘から伝わって来た。その振動で驚くことはない、その振動は予想された振動だからだ。

「おはよー、あゆか」

「はよ、あゆか」

「…おはよう」

 走ったのか、少し乱れた前髪を直しながら、席につくあゆか。

 もう少し、早く登校すればいいのに。と思うけど、本人的には「夜遅くまで作曲などの作業をしていて仕方がない」とのことで「別に、メイクに命をかけてるワケじゃないからいいのよっ」と、男の俺からしたら、どっちも同じだと思うけれど、女子的には違うらしい。


 女子って、よく分からん生き物である。


「結構、理解しててホントびっくりしたわ」

 2限目が必修だったので、いつもの学食へ足を運んだ俺たち。

 話題は、ユリについて。

「俺もそう思った。フツーの人の口からミキサー卓なんて聞かないよー」

 宇汐も感心したように頷いた。

「ねぇ、まさかだとは思うけど。

 ユリさんの仕事って、そういう音楽関係じゃないでしょうね?」

 ゆりかの若干、低い声は威圧的に聞こえてしまうが、本人的にはそういうつもりはないらしい。生まれ持った威圧感はある意味オーラなのかもしれない。

「いや。全然、一般的な会社っぽかったぞ。

 音楽もそんなに詳しい感じはしないし、ただの物好きって感じだしな」

「そうなんだ。じゃあ、昔、音楽業界目指してた、とかかなー?」

「うわっ。それはありそうね。あの甘ったるい声。天性の素質過ぎて羨ましいわ」


 あの声が特徴的だとは感じていたが、音楽業界的にも珍しいのか。

 二人は口々に、ユリの声について賞賛していた。


「あ! そういえば、ウチ、気になっていたんだけど」

「ん?」

「同居あるあるなハプニングとか、ないの!?」


 同居あるある、とは?


 俺の疑問府など見えていないかのように話は進む。

「あー。でも下着は毎日のように見てるんだよねー?」

「おい、やめろ。それだけ聞いたら、俺が変態みたいじゃないか」

「確かに毎日見てるのよね〜」

 真面目な顔をして呟く宇汐に、納得顔のあゆか。二人は顔を見合わせてなにやら考えている様子。

「じゃあさ。お風呂でバッタリ、きゃー!みたないのは⁉︎」

「はぁ?」

「それは、ありそうだねー。そこのところどうなんだろ?」

 そう期待を込めれた視線をもらうが、考える間も無く

「ない」

 答えはすぐ出る。

「言っとくが、俺らの生活リズム。結構ずれているからな。

 お前ら忘れているかもしれないが、ユリは社会人で帰宅はそこそこ遅いし、バイトもしていない俺は帰りが早い」

「なるほどー」

「えぇ〜!?」

 納得している宇汐と対照的に、納得いかない表情のあゆか。

「あゆかは何を期待しているんだ」

「なんかネタになればなーって」

「ネタってなんだ」

「作曲も作詞も大変なの。いろんな人の話がきっかけに創作できるから、そういうネタはあることにこしたことはないのよ」

「そういうもんなのか」

 シンガーソングライターって作詞作曲歌唱もするというイメージはあったし、そういうのって実体験に基づいたもので作っていると思っていたが、そうじゃないらしい。


 妙な説得力を感じる説明に納得しかけているとあゆかがとんでもないことを聞いてきた。


「あ、じゃあさ。ユリさんキッカケでロリに目覚めたりしないのっ⁉︎」

「するかっ!!!!」


 人が多く集まった昼時の学食ではあったが、さすがに声をあげてツッコミを入れてしまった。


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