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「一人暮らしねぇ。あ!そう言えば、小熊のお兄ちゃんが転勤するって言ってたから、一部屋空くわ! そこに住んでみる??」
叔母さんは今は地元でのんびりライフを過ごしているのだけど、若い頃に買ったマンションがあった。今は、それを親戚の小熊兄妹に貸していたけど、その兄妹の兄が先日、転勤したから空くから、そこに住んでみてはどうか?と、それに家賃は身内価格で、2部屋もあるのに破格のお値段での提示だから、親も快諾だし、もちろん、俺も一人暮らしとは違うけれど、実家を出れることが嬉しくて、即答していた。
が、今、思えば、年頃の男女が一つ屋根の下で住むって。と疑問に思うこともあったけど「ユリちゃん覚えてる?」と言われて「よく遊んでたユリでしょ?」と言えば「そうそう。じゃあ、安心ね」なんて、意味の分からない確認もされた。
なんなんだ。
俺の予想をするに、俺の家族共々、叔母さんしかり、ユリの家族との関係があるのと、ユリが社会人で、俺が学生。そんなドラマティックな話があるわけない…なんて、ことじゃなかろうか?と思っている、とりあえず、公認の同居というかルームシェアである。
俺も数年ぶりに会うので、記憶はおぼろげではあるけど、よく遊んでくれたのを覚えている。
6つも離れているにも関わらず、一緒に遊ぶような天真爛漫な近所のお姉さん。…嫌いではない、むしろ好きだったと思うし、もしかしたら初恋に近いような想いもあったような気がするが、それは若かりし頃のキラキラした思い出だから、別に、アニメなどで見るようなラブコメ的な展開なんて期待はしていない。あぁ、期待などしていない。
ただ、ちょっとだけ、大人のお姉さんとの同居。というパワーワードに、ぐらつかない男子はいないだろう。
そんな邪な妄想を止める電子音。
『え?私のこと、分かんないの??笑』
『仕方がないなー。ヒントをあげよう!白いワンピースを着てるよ☆』
メッセージが表示されている画面から目線を上げて見渡す。
・・・意外と、白いワンピースが多いんですけど。なに、今の流行りなのか?
なんと、まぁ、ヒントにならないヒントを。
と言っても、そのまま、この心の声をRAINにのせるのも、若干の問題の予感がするので、自力で探すしかない。つまりは推理力を試されていると思えば、俺にとってはさしたる問題ではない。
記憶を遡って、おぼろげであったユリの面影やイメージを抽出していく。
ユリは年離れた俺と遊んでいたにも関わらず、年の差を感じさせないぐらい、元気で無邪気なお姉さんだった。大人っぽいより子供っぽい。全体的なイメージとしては、小柄であった。
ふむ。となると…グラマラスな色気のある大人の女性というよりは、スレンダーいや可愛い系の女性なのかもしれないな。
昔、懐かしのイメージを頭の中で修正、再構築しながら、言われた通り、南改札口に出る。
さすがに住んでいるだけあって、ホームの混雑状況を把握しているのか、先ほどまでの人波と比べると空いているように思う。
改札口を出て、案内板や柱などの待ち合わせするときに待機しやすそうな場所を見回す。小柄な女性で…と探しているが、それでも白い服を着ている女性は多いし、小柄…と言っても、春休みなので高校生らしき女の子が待合せしているようで、該当するような大人の女性がいない。
もしかしたら、間違えているのだろうか?と不安になり、再び、RAINを開く。
『どこにいる? 今、南改札出たんだけど』
『あ。俺、黒のキャップ被ってて、黒いリュック背負っている』
連続で送ったメッセージには、すぐに既読のマークがついた。
ユリも見てくれていたようで、すぐに返事が来るだろうと画面を見て、待っていると
「良ちゃん。久しぶり」
そう、画面から声が聞こえた。正確に言うと、携帯の後ろからであるけども。
携帯を視界からずらすと”記憶のまま”のユリがいた。
「ひ、久しぶり」
言葉を失わなかったことを褒めてほしい。
なにせ、ユリは”記憶のまま”であったんだ。身長が伸びなかったであろうことが察せられる低身長。たぶん20cm近くは違うと思われるほど。残念なことに俺の身長が高身長なことがあるわけもなく、ほぼ平均身長の173cm。それに、小さいだけならまだしも、顔も変わってない。多少大人っぽくなったとも思うけれど、中学生が高校生にって感じだし。声は、甘さを感じる高めの音を奏でている・・・俺の方が”大人に見える”と断言できるほど、変わっていなかった。
「良ちゃん、大きくなったよねぇ」
顔と言葉がミスマッチ! 童顔にもほどがある!!!!!