18誤解だ
「ぅち、じゃなくて、私、あゆかって言います」
「僕は、宇汐です」
「あゆかちゃんに、宇汐くん。よろしくね。
私はユリって言いますっ」
初対面である3人は軽く挨拶したのも早々に、
「ちょっっと、良くんとお話しがあるので、少ぉぉし、待っててくださいね〜」
貼り付けたような笑顔をしたあゆかに、握られている腕が軋む。
「は、話っ!?・・・・あ、なるほど、わかったわっ!」
またもや首を傾げていたユリは、何かに気づいたように、瞳を大きくすると、大きく頷いて、右手でガッツポーズをしてきた。
・・・絶対、勘違いしている。
「ユリちゃんのことは、俺に任せてー」
などと、なんとなく察しているであろう宇汐は、ユリの隣で俺たちを見送る。
そして、こうなる。
「で、アンタ。高校生?いや中学生?に手出してんの⁉︎
買い物で釣るとか…未成年なんたらで捕まるわよ」
昔のマンガの定番。人気のない体育館裏に等しい、店から離れた人気の少ない非常階段近くに連れ出され、女子に壁ドンされている俺。
なんか違うっっっ
「あゆか。これには事情があってだな」
言い終わるか終わらない内に、背中にあった鉄扉が重く響く。
「事情ってなに?」
どこぞのヤンキーとも思える迫力。
そして、足蹴りされた場所は、男子の大事な部分の近くであった。
「は、話せばわかる。一回、落ち着こう。お前は、大きな勘違いをしている」
縮こまない男子はいないだろう。
「はぁ?」
今まで聞いたこともないような唸るような声に、命の危機を感じた。
生きてきた中で、一番、お口が回ったと思う。
「お前たちにどう見えているかはわかるっていうか、今ので十分伝わっているっ
だがしかし、あれは正真正銘の同居人の姉っっていうか、超絶びっくりするぐらいの童顔だし、声も幼いし、身長もちっさいし、勘違いするのも無理ないっていうかっ
あぁある意味、お前たちの言っていた規格外の姉ってやつだ!」
「へー」
胸ぐらは掴まれていないけど、壁とあゆかに挟まれているので、それに十分に値していると思う。
「ほ、本人に聞いてくれてもいいっ。お前たちの見てた通り、出会ってすぐここにきた。
つまりっ俺たちは打ち合わせする時間はなかった、だろう⁉︎」
「確かに。でも事前に打ち合わせしていた可能性もあるかも」
あゆかの疑いは深かった。
「そ、そんなことはしていない」
「まぁ、ウチが本気出したら、その薄っぺらい嘘をブチ壊してあげるわ」
今から決闘に向かうヤンキーのごとく、ユリと宇汐がいる場所へ戻る、あゆかの後ろ姿を見ながら、俺は思った。
壊れるのは、あゆかの常識であるということを。
*
*
*
「オホホ。お待たせしてごめんなさーい。すぐにでも確認したい事があってぇー。
なんか二人の時間、お邪魔しちゃってー」
現実でお目にかかるまいと思っていたわざとらしすぎる笑い声。
さすがのユリも違和感を感じるだろうと思えば
「いいえ!全然、大丈夫だよっ!」
瞳をらんらんとさせて、力強く答えていた。
あぁ。そういえば、ユリも違った勘違いしていたんだっけ。
「ユリちゃん、突然なんですけどー」
「うん。どうしたの?」
「ユリちゃんの職業って何になるのかなぁ?って、学生とか、専門とか、フリーターとか」
どストレート!!!
あれだけの勢いがあるから作戦があるかと思えば。勢いだけだった。
刑事ドラマもビックリの力技すぎる。
「え? わ、私!? 会社員だけど??」
笑顔に反して鬼気迫る空気をまとったあゆかに戸惑いつつユリは言葉を返した。
その言葉を聞いた瞬間、あゆかはピシリと石像のように動きが止まる。
動きが止まったことも、職業を聞かれている理由もイマイチ理解できていないようで
「ぐ、具体的な職種とか言った方がいい、かな?
でも、そんな、ネタになるようなことはない、フツーの事務員さんなんだけど…」
と、的外れなフォローをしている。
「えっと、つまり。6つ、歳の離れたお姉さん」
「6つ」
額に手をあてて、俯き加減になりつつブツブツと呟くあゆか。
落ち着いて見える宇汐は、ただ、歳の差の数をポツリと零したのは、やはり衝撃を受けていたのかもしれない。
「えっ、えぇ。もしかして、私のこと、大人に見えなかったってこと⁉︎」
その様子を見て、さすがに気づいたようで「ウソでしょ!? 今日、個人的には落ち着いた服にしたのにっ」と俺の両腕を掴み、前後に揺らしてくる。
「はっ。これね!これっ! 予想外のことが起きるとつい、動揺しちゃって…」
俺を掴んでいた手を離して、自分の両手をみるユリ。
これって、何を指しているんだ。該当することが多すぎて分からない。
その疑問は、すぐに答えが出された。
「落ち着きがなくて、若く見られがちなんだよねぇー。いやはや、お恥ずかしぃ〜」
額を叩くように手のひらを当てるユリ。
『『『そうだけど、そうじゃない』』』
その場にいたユリ以外の3人の心が一つになった瞬間だった。多分。




