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「うぅーん。どうしよう」
あれから、劇場近くまで戻った俺たちは、真新しい商業施設に入った。
ユリいわく、建ってから1、2年ほどで、ここにしかないブランドショップがあるのだとか。
残念ながらあまり興味もないので、あまりピンと来るものがなく、ユリの行きたい店を雛鳥のように後をついて行くばかり、その中で、女子向けのファッションブランドの多さには驚いた。色んなジャンルがあるとはいえ、似たような服もありつつ、お値段は倍以上なんてのもあって、大変だと思った。
男子は大概、ブランドもそうだが、それ以外も、ある程度限られているのだから、その幅広さに驚くばかりである。
「ねぇ。良ちゃん、どっちが可愛いと思う?」
そして、先ほどから悩みに悩んでいるユリは、俺に意見を求めて来る。
だがしかし、それは、10代男子に求めるのは間違っている。
いや、ハードル高すぎやしないか?
「良ちゃん?」
至極当然に聞いてくるユリの手元には、ランジェリー。そうつまり下着、ブラの柄を聞いてきてるのである。
なんでも、創立祭だとか、なんとかで、ちょいお高めの下着屋がセールをしているらしく「絶対、1つは買いたい!」とか意気込んでユリが入店したのは30分ほど前。
俺には関係ないと、スマホをいじりつつ店の外側で待っていたのだが、数秒前。
2種類のブラを持って「どっちが可愛いと思う?」と聞いてきているのが今。
ふつー聞くか?
兄弟に聞くのか?
いや、姉妹ならアリだから兄弟もありかも?
え、異性の兄弟でもあり?
この違和感感じるのって俺だけ?
色々とツッコミ&質問したいことは山々だけど、ちょっとお高め故の、品の良いお姉様店員方々の生暖かい視線に、これ以上、耐えられない!
「こ…こっちが、いいんじゃね…?」
と、震える指先で示せば
「ありがとうっ! はぁ〜悩んだ時は、身内の意見よね」
満足気に頷いて、レジへと向かって行った。
早く、この場から去りたい。
通り過ぎる人々の視線もあり、刺さる痛さも倍増である。
この心労に対して、なにかドリンクの一杯奢ってもらおう。と考えていると、ふと人影が近くで止まっているのを感じて、視線を上げる。
「あ、やっぱり、小鳥遊じゃん」
「ホントだ。よくわかったねー」
そこにあゆかと宇汐がいた。
「どうしたんだ、二人とも?」
大学以外でも会う仲なのか、と驚きつつ聞くと
「あ、近くの映画館でミュージルカル映画見てきたの」
「ここの映画館は音響がいいシアターがあるんだよー」
そういえば、二人には共通点があることを思い出した。
「で、ついでに、次のライブの衣装探しにブラついてたら、妙に目立つ場所にいる男子がいるーと思ったら、なんか、見たことある気がするなぁーって」
ニヤリと笑うあゆか。
「俺は、全然、気づかなかったんだけどねー。
あゆかが”あれは小鳥遊よー”って、ついてきたら、ホントに良でびっくりした」
善とも悪とも感じない笑顔に、どっちの味方か判断がつかない!
あぁ、宇汐だけだったら、どうにかできただろう。
しかし、現状、あゆかの狙いの定まった目からは逃れられない。
「ソウナンダ」
乾いた言葉しか出ない。
ここにいる理由。いや正当な理由ではあるけれど、じゃあ、ユリを紹介するのか?
それもそれで、誤解を招く予感しかしない。
どうにかユリが出てくる前に、どうにか、二人との会話を終わらせるしか。
「小鳥遊が下着屋さんかぁ。
まぁ、プレゼントするような仲の良い女友達っていうか、彼女なんていないはずだから…
噂の同居してる”規格外のお姉さん”かな〜??」
一気に確信を詰めてきた。
背中に嫌な汗が流れる。
「あぁ。ま、そのなんだ。
俺の姉ちゃんは、その、人見知りするから、ちょっと移動しようぜ」
それとなく、移動を促せば
「えぇ? 良の話を聞く感じでは、そんな風なキャラには思えなかったけど」
宇汐。お前は、敵側なのか。
「そうよねぇ。何、照れてんの?
それとも、見せたくないとかの独占欲的なやつとか〜?」
あゆかの笑みはどんどん深くなる。
「いや、そういうんじゃなくてっ」
俺のイメージダウンは必須ではあるが、せめて、最小限に納める方法はないものかと脳内をフル回転させる。そんな俺の悪あがきは虚しくも、あの甘い音色によって、終わりが告げられた。
「良ちゃん?」
ショッピング袋片手に、首を傾げるユリ。「今日のファッションは綺麗めのワンピースです」と言っていたけれど、小花柄が全体に散るそれは、俺からすれば、大人の女性とは言い難いもので、可愛いワンピースと言えるし、下手したら中学生にだって見える。それに、声に童顔とくれば
「えっ!」
「んー?」
引き気味の友人達の声が聞こえてくるのも当然なことだろう。
「えっと、良ちゃんのお友達かなぁ?」
「あ、え、はい。良くんのお友達です」
「そうですー」
宇汐の動じなさはさすがであるが、あゆかは思いっきり、挙動不審であるし、人当たりの良さそうな笑顔を振りまきつつ、むしろ蔑む鋭利な視線をザクザクと刺してくる。
って、ちょっと、待て!
俺は変態なんかじゃないからなぁ〜〜!!!!
ほんと、違う。誤解だっ!!




