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「ありがとうございましたー」

 店員さんの見送りとともに、カフェを出る。昼も過ぎ、陽射しは穏やかになり、外を歩くにも丁度いいぐらいの空気だ。

 カフェ代は一応、割り勘ではあるけれど「こう見えても社会人だからね」とのことで、ユリが少し多めだ。レジの前で、二人でお財布を出して会計していたけど、店員さんの無言のアレ?と言う空気が(いな)めなかったが。

「さて、このあと、どーすんだ?」

 俺の問いかけが終わるか終わらない内に、ユリからは口元を軽く押さえながらもほころんだ音が漏れる。

「どーしたんだ? 何か面白いことでもあったか?」

 会計から店の外に出るまで、数分。変わったことも、おかしなことがあったようなことも、心当たりがまったくなかった。

「もぅ、なんか、アオハルしてたなぁーって!」


 ・・・急にどうしたんだ、ユリ。


 まったく予想もつかなかった言葉(ワード)に狼狽えつつ、なんとか言葉を繰り返す

「アオハルって…」

「あら、良ちゃんってば、イマドキっ子なのに、知らないの?

 アオハルっていうのはーーー」

「いやいや、知ってるわ。青春のことだろ?」

 聞きたいのはそういうことじゃない。

 被せるように言葉を重ねた俺に、機嫌が悪くなることなく口角は上がったまま。

 よくわかんないけど、ユリが興奮するようなスイッチがONになったのは確かだった。

「はぁー。キュンキュンして悶え死にしそうだったわ。

 反対側にいた、学生さんのカップル?て言うか、友達以上恋人未満みたいな、一見、爽やそうに見えて、甘っーい空気感に、あの表情。

 ア・オ・ハ・ル。これだけで脳内ムービーが作れちゃうわ」

「えーと、要するに、俺たちがいたカフェの近くにいた学生カップルと思わし学生がアオハルしてて興奮したってことか」

「端的にいうと、そうねぇ。なんだか良ちゃんがいうとアオハルのキラキラが激減だわ。

 良ちゃんもまだまだ若いんだから、アオハルしなさいよ〜?」


 そういうユリの発言は、抽象的でムダが多いし、ユリも社会人とはいえ、ぶっちゃけ若い部類に入るので、色々、問題がある発言ではないだろうか。


 そんな不満げな顔が出ていたのか、ユリは、あからさまにため息をつくと

「言っとくけど、アオハル=(イコール)恋愛。だなんてことじゃないからね。

 今回は、そういう要素っぽい空気だなって思っただけのこと」

 いつものように腰に手を当てると、再び口を開く。

「アオハルって、恋愛がピックアップされがちだけど、友情もそうだし、冒険というかチャレンジすることもそうだし、若い頃にしかできないムチャが、そうだと私は思ってるんだよねぇ」

 正直、アオハルしてるか?と聞かれた時は、恋愛面を聞かれたと思ってムッとしてしまったところがあったけど、言葉を重ねられると、そういえば、そういうのもアオハルかって思った。

「アオハルって意外と範囲広いな」

 感心して呟くと

「まぁ、私が聞いたのは、恋愛面だけどね」

「・・・ユリっ」

 突っ込みにしては、鋭い声が出てしまうのも仕方がない。

 それにも関わらず、ユリの表情は変わらず口角は上がったままだ。

「ごめんごめんって。女子という生き物は、恋バナが好きなのよ。許せ、少年。」

 どの立ち位置から言っているのかよくわからないけど、それがユリという人物であって、色々考えていくのが面倒になってきたと思ったら、一瞬にして、肩の力が抜けた。

「はぁ」

「良ちゃん、彼女ができたら、これぐらいの恋バナ妄想ぐらい付き合ってあげなさいよぉ。理由はさっき言った通り、女子は恋バナが好きだから」


 ・・・女子の定義とは?

 さっきは、若くないみたいな発言もしてたし、かと思えば、女子と言ったり、言葉言葉で変幻自在なことだ。


 ユリとの会話に真剣に考えすぎても、答えが分からなかったり、理解できなかったりすることを徐々に学んできてきた俺は

「わかった」

 言葉を流すことにした。

「あぁー。また、どうでもいいと思ってるでしょぅ⁉︎ 結構、マジメなのにぃ」

 ずずっと距離を詰めてきて、俺の胸に痛くもないパンチを繰り返す。

「聞いてる、聞いてる。

 ほら、買い物するんだろう? 行きたい店、巡れなくなるぞ」

 ユリの握った手を軽く受け止めつつ、本来の目的を伝えると、悔しそうに声を上げると

「べ、別に。買い物のこと、忘れてたわけじゃないし」

 言葉尻は消えかかるような小さい声だった。

 あんまりにも分かりやすい()ね方だったので、胸の近くにある頭を撫でててやる。

「っ、こ、こども扱い…私はお姉さんなんだから…」

 少し冷静になったらしく、頬を染めながら恥ずかしそうに言うもんだから、くしくも笑ってしまったことを許してほしい。

「ほれ、じゃあ、どこ行く?」

 そう語りかければ、火照った顔を隠すように「こっちっ」と前を突き進むユリにまた一つ笑いが溢れてしまった。


現在、同時連載?している作品がありまして

「同じ現代の作品だ!コラボしちゃおう!」って、コラボみたいなことしてみました!

もし気になったら、チェックしてみて下さい。現時点だと、サクッと読める短編です(^_^)

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