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「はぁぁぁぁ〜!」
店員が並べたデザートを見て、感嘆の声を漏らすユリ。
「美味しそうぅぅ!」
早く食べればいいものの、スマホを取り出して、写真をいろんな角度で撮りはじめる。
しばらくして落ち着いたのか、撮影していた手を止めて、スマホをしまい
「さぁ、食べるわよ…」
準備はできたと言わんばかりに、目が溢れそうなほどにこちらを見るユリ。
俺が先に食べるなんて憚られる、心なしかキラキラなんていう効果音が聞こえてきそうだ。
「お先にどーぞ。俺はユリの後に食べる」
そう言えば「え、いいの、食べちゃうよ!?」と、挙動不審な動きをしつつ、まずは、ストロベリーチーズケーキの尖った先の方に、控えめにフォークを入れて、口に運ぶ。口に入れると、フォークを口元に添えたまま、もぐもぐと味を噛み締め、震えている。
ゴクリと喉を鳴らすように顔を上下に揺らして
「おっいし〜」
吐息のように声を漏らした。
相当、お気に召したようだ。そのままの勢いで、ぱくぱくと勢いがありつつ、でも控えめにストロベリーチーズケーキは小さくなっていく。タルト部分に差し掛かりそうになって、その動きは、急ブレーキがかかった。そして、おずおずと、こちらを伺うユリ。
「た、食べ過ぎました…」
どうやら、”自分が悪い”と認識すると、敬語になるようだ。
「分かってるよ」
新たな気づきに笑みがこぼれそうなところを耐える。うっかり、食べ過ぎたことを笑っていると勘違いされかねないためだ。
「ごごごめんねー!! 甘夏のムースは多めに残すからねっ」
とても小さくなったストロベリーチーズケーキが乗ったお皿を移動してきた。
別に、スイーツ男子とかじゃないので、ほどよく食べる程度の俺としては、少し食べれれば満足なので、ユリが気にしているほど、正直気にはしていない。それにユリの表情を見ているだけでも十分な甘さを感じていた。
「ん、まい」
タルト多めではあるけれど、それが合間って程よい甘さで、男の俺にはちょうど良かった。
「でしょー」
まるで自分で作ったようなドヤ顔をしつつ、手にもつ食器はフォークからスプーンに切り替え、グラスの器に入ったムースをすくう。スプーンの大きさより少し大きく取れてしまったムースはぷるんと弾力を表す。
多めに…なんて言った手前、大きく取り過ぎてしまったように感じたのか、チラチラとこちらの様子を伺いながら、でも大きく口を開けて、ユリの口の中へ消えた。
再び、震えながらも、感嘆の息を漏らす。
「美味しいぃ」
全てを余すところなく感じるためか唇の端を拭うように赤い舌が顔を出した。
無意識だったのか、目線が合うと、恥ずかしそうに口元を覆った。
・・・ユリがちょいちょい起こす、幼さの残る行動が俺のアイデンティティを揺さぶってくる。しっかりしろ、俺。ユリだぞ、ユリ。
少しばかり脳内会議をしている俺をなんと思ったのか
「食べる?」
スプーン片手に、首を傾げてきた。…計算なのか。いや、ユリに限ってそんなことはないよな。相手は俺だぞ、俺。
少し冷静になろうと、深く息を吐く。…よし。
「もう、いいのか?」
「うん。2つのトータル的に考えれば、50(フィフティー):50(フィフティー)だと思うのっ」
いつの間にか持っていたスプーンはお皿の上に乗っており、空いた指をそれぞれ広げる。たぶん、50:50を表現していると思われる。
「それぐらい分かるわ。というか、ホントに食い足らなくねぇの?」
念押しで、聞くと、少し間を置いて
「だ、大丈夫。良ちゃんに食べて欲しいもの」
つい暴走しがちなユリだけど、幼い頃と違った成長が見える。
ホント、どっちが年上なんだか。
「じゃ、いただきます」
物欲しそうな目線に気づかないフリをしたまま、俺はムースを口に含んだ。
うん。美味いわ。




