1新生活
俺は今、生きてきて初めて、こんなにも行き交う人々に”刺さるような視線”というものを痛いほど感じている。
その理由は分かっている。
「良ちゃん、大きくなったよねぇ」
自分の視界、数十センチ下から出される、少し舌足らずさを感じる、とろみの混じった甘い声。
数年振りに再会した幼馴染みであり、ご近所だったお姉さんがーーーーー
記憶と寸分変わらぬ少女のまま、目の前にいるのだから。
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「えーっと。どっちだ?」
まだ肌寒さが残り、桜の花びらは落ちきった3月。
この春からに大学生なる俺、小鳥遊 良は、今日から最寄駅となる場所に降り立った。
電車を降りて、ホームに立つと、すぐに頭上にある案内板を見上げて、確認する。
人通りは今まで見たことがないぐらいに多く、海の波のように流れている。なんとなく左側通行にはなっているが、携帯やタブレットを見ながらすれ違う姿を見ると、海外の人が「Oh!SHINOBI!」って言うのも理解できる。
そんなことを考えていたからか、人の流れに逆らうようにただ立っている俺は邪魔のようで、リュックや肩がぶつかる。
「す、すみません」
小さい謝罪の言葉をしながら、道の端側に寄る。携帯の交通乗換案内アプリを使って、慣れない電車を乗り継いで到着した駅は、いわゆるターミナル駅と言われる電車の路線が多く集まっている駅をらしい。都心とは言えないこの場所であるにも関わらず、これだけの人が行き交うのも頷ける。
ピコン。とメッセージアプリ”RAIN”の着信を知らせる音がなる。
『もう、改札口にいるからね』
『たくさん改札口があるけど、南改札口だからね!ちゃんと確認してから改札でてね!』
と、モーション付きのイラストが文字とともに、送られてきた。
すぐさま、携帯画面をタップして、返信する。
『了解』
『ユリの目印教えて』
今、待ち合わせをしているのは、同居人となるユリである。ユリと気軽に呼んではいるけど、恋人ーーーなんてドラマティックな話ではなく。ご近所に住んでいたお姉さん、つまり年上なのだが、上京するにあたってのやり取りの中で”本人の希望”により”呼び捨て”になっている。
幼い頃はよく遊んでいて、その頃は”年上を敬う”なんてことを知っているはずもなく、呼び捨てにしていた。怒られたわけでもないし、注意されたわけでもないが、大学生になった今、さすがに、年上を呼び捨てなんて、できないなぁ。と思って、ユリ姉なんて書いてみたら、本人から「いまさら、付けられると違和感感じる」なんて言われたのだ。
まぁ、そんな俺らが再び接点をもつことになり、同居することになったのは、鶴の一声であった。
自宅から頑張れば通えるけれど、それを4年間も続けられるか?ってのも疑問になるぐらいに、離れている我が家。それに、正直<一人暮らし>にも憧れもあったこともあり、大学進学にかこつけて一人暮らしを目論んだものの、簡単に許されるはずもなく、諦め掛けていた。
そんな時、叔母さんの鶴の一声で急展開した。