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第二十四話

 カステリアを散歩していると、おっかなびっくりな兵士に呼び止められた。


「マ、マガツ殿でありますか?」


 どうでもいいけど、この兵士さんどうしてこんなに逃げ腰なんだろうか。

 身体も何だかぶるぶる震えているような気がするし。

 もしかして、何か持病でも患ってる?


「そうよ。ところで君、凄く怯えているみたいだけど、どうしたの?」


 私としてはただ単純に体調を気遣っただけなのだが、兵士は何故かまるで恫喝を受けたかのような青い顔をして黙り込んだ。

 何その反応。


「い、いえ! 何でもありません!」


 全然大丈夫そうには見えないのに、兵士は無理をして首を横に振り、なんでもないことを装う。


「そう? 無理しないでね。近く救護所でもあるなら送ってくよ?」


「も、ももも、問題ありません!」


 どうでもいいけど君どもり過ぎじゃない?


「と、とにかく手紙を預かっておりますのでお渡しします! 伝言も承っておりまして、準備は整った。全て手はず通り行うとのことです!」


 兵士は故意か偶然か、差出人の名前を告げなかったが、いわれなくとも私は察した。

 手紙の差出人は、リチャードだろう。


「ありがとう。お勤めご苦労様」


 手紙を受け取り労いの言葉をかけると、兵士はまるで殺人鬼がボランティアに勤しんでいる場面を目撃してしまったかのような珍妙な表情になった。


「いえ、職務ですから!」


 最後に兵士は敬礼すると、もうこの場にいたくないとばかりに駆け去っていく。

 小さくなるその背を見送り、見えなくなったところで手紙の確認をする。

 勇者は召喚と同時にカステルラントとその周辺国家の言語と文字をインプットされるので、肝心の中身が読めないなどというオチにはならない。

 手紙は予想通り、リチャードからの呼び出しだった。

 ミヒャエル王子を誘い出して血祭りに上げるための、催しの打ち合わせだ。

 殺すこと自体についてはとやかくいわないけど、まだるっこしい真似をしているなとは思う。

 もっとスマートでいいのにって思わなくもない。

 まあ、日時は今日じゃないし、準備して行こう。どんでん返しする時が楽しみだ。

 それはそれとして、今は何をしようか。

 今日はミヒャエル王子も折衝や何やらで忙しいみたいだし、イルク君たちはいつも通りミヒャエル王子の護衛についてもらっている。

 考えていたら、見知った背中を見つけた。

 リーズだ。何だか以前も似たようなことがあった気がする。

 でも何だか態度がおかしい。人目を避けているような風に見える。気のせいだろうか。

 はて、そういえば今日の彼女の予定は何だったっけ? ミヒャエル王子に同行するとばかり思ってたけど、本人に確認取ってたわけじゃないしな。

 うん、何をしようとしているか知らないけど、ちょうどいいし、たまにはリーズと過ごすのもいいかな。彼女がオーケーしてくれればだけど。


「やあ、こんなところで会うとは奇遇だね?」


 声をかけると、物凄い勢いでリーズの肩が跳ね上がった。

 思い切り驚いたようだ。

 おかしいな、別に驚くようなことをした覚えはないのだけれど。


「な、何かと思えば、マガツさんではないですか。ビックリさせないでください」


「ああ、ごめんごめん。思いの外時間が空いちゃってさ。そこに姿を見かけたものだから、何をしてるのかなってちょっと興味が沸いて」


 リーズは本気で驚いた様子で、息が乱れた様子を見せるものだから、私としても冗談を抜きにして本気で謝る。


「そういうわけですか……。私は人とこれから会う約束をしていますので、これから向かうところです」


「ふーん……。恋人?」


「何をいうのですか!? 違います!」


 ちょっとからかい気味にいったら、本気で怒られた。そこまでムキになられると、かえって怪しく思えてしまう。


「そういうわけなら邪魔しちゃ悪いか。じゃあね」


「マガツさんもお気をつけて」


 そこまでごねるような理由もなく、さっさかリーズと分かれた私は、にんまりと笑った。

 今の私は暇なのだ。

 こっそり知り合いのことを尾行しても、ばれなければ構うまい。

 十分な距離を取って、私はリーズの後をつけることにした。

 ばれるような尾行は三流である。

 一流の尾行者は、姿すら見せず、存在そのものを悟らせないという。

 案外勇者なら、そんな能力持ちがいてもおかしくなさそうだ。

 そんなことを考えながらリーズのことを見張っていたら、思わぬ人物を見つけてしまった。

 誰なのか、思い出すまでちょっと時間がかかった。

 乗り合い馬車で、ミヒャエル王子とリーズに同乗していた、あの馬術が得意な青年である。名前は確かアキネスだったか。

 私やミヒャエル王子とはカステリアについて別れたきりだったのだが、リーズとだけは交流が続いたままだったのだろうか。

 リーズとアキネスは一言二言かわすと、二人揃って歩き出す。

 おっと、見失うのもつまらない。後をつけよう。

 若干ワクワクとしながら、私は二人の後をつけた。



■ □ ■



 二人の後をつけていった結果、辿り着いたのは城だった。

 城に何の用だろう。

 既に顔パスの関係のようで、リーズもアキネスも誰何されることなく城内に入っていく。


「待……マガツ殿!?」


 私を遮って誰何しようとするものだから、軽く殺気を込めて睨んでやる。

 職務に忠実なのは結構だし、私も褒めこそすれ糾弾したりはしないけど、それも時と場合による。

 リーズとアキネスの気を引きたくなかったのだ。

 城の門番は、まるで自分が死に直面しているかのようにガクガクと震え出す。

 ちょっと、反応が大げさじゃない?


「し、失礼をいたしました! どうぞお通りください! ですからどうか命だけはお助けを! 養わなければならない妻と息子がいるのです!」


 自分が殺人鬼だっていう自覚はあるから、怖がられるのは仕方ないし気にしないんだけど、ここまで怖がられると少しもやっとする。


「別に取って喰ったりはしないわよ。もしかして誰彼殺して回る異常者だと思われてるの?」


「ち、違うのですか?」


 君も大概失礼だな。本当に私がそうだったらそれこそ殺されてるぞ。

 まあ私は、この程度のやり取りじゃ殺す理由にはならないけど。


「違うわよ。職務に励んでるだけの兵士をいきなり殺したりはしないわ」


「そうですか、良かった……」


「私の邪魔したら殺すけどね」


「えっ」


 呆然とする門番にからかいの笑みを残して、私は城内に入る。

 んー、見失っちゃったかな。

 とりあえず、城内をブラブラしてみよう。

 地下の牢屋に足を運ぶ。


「マ、マガツ様!? このようなところに一体どのような御用で」


 驚いた牢番がすっ飛んできた。

 案外私の顔は売れているらしい。


「殺していい死刑囚ってどれ?」


 尋ねたら牢番の顔色が青くなった。


「か、勘弁してください。王の裁きなしに罪人を死なせたとあっては私の責任問題になってしまいます」


「でも、今王いなくない?」


 原因の私がいうのも何だが、今カステルラントには王がいない。

 私が召喚される前まではいたのだが、私が召喚されてからカステルラントを脱出するまでの間に、私が殺してしまったのだ。

 それが原因で今のカステルラントのお家騒動に繋がっているので、今回の件は遠因は私にもあるといえよう。

 だからこそ、罪滅ぼしという意味ではないけれども、私も首を突っ込んで介入しようと決めたのだし。

 あ、ちなみに王を殺したことについては一ミリたりとも後悔していない。私たち異世界人のことを、都合のいいコマとしか思っていなかった最低の人間だったから。

 そしてその気質は確実にリチャードにも受け継がれている。

 幸か不幸かミヒャエル王子はあまり父親の影響を受けていないようだ。それどころか、城の中枢からは無縁だったようにも思える。

 だって、ミヒャエル王子ってばあんまりにも純粋なんだもの。

 元々第五王子で、継承権が低かったせいもあるかもしれない。

 それでいて女装して追っ手を逃れるとかする胆力があるし、理不尽な目に遭ってもめげない精神的なタフさもある。

 危険に直面しても冷静に自分のできること、できないこと、すべきこと、すべきでないことを瞬時に判断できるのはもはや才能だ。


「ですが、リチャード様が次期国王に決まっておりますので……」


「あら? でも、もう一人王子が名乗りを上げているのではなかった?」


「ここだけの話、ほとんどの貴族がリチャード様についております。名乗りを上げても味方する者がいなければどうしようもありません」


 どうやら、リチャードがいっていた通り、第五王子派の切り崩しはほぼ完了しているようだ。

 そして恐らくは、私もリチャードの中では、切り崩しの結果として扱われているだろう。

 私自身は、今でもミヒャエル王子に協力する気満々だけどね。

 敵は多ければ多いほどいい。その方がうっかり殺しちゃったと言い訳が利く。


「仕方ないか。出直すわ」


 露骨に牢番はホッとした顔になった。

 正直者だね君。

 長生きして欲しいものだ。

 殺しはできなかったけど、結果的にそこそこ時間は潰せた。

 ああ、いや時間を潰すのが目的なんじゃない。リーズとアキネスを見つけるのが目的なんだ。忘れるな私。

 このまま探しても埒が明かなさそうだったので、適当に城の天井から天井裏に入って一部屋ずつ探すことにした。

 狭い天井裏を、音が出ないよう注意しながら歩く。

 場所によっては踏んだ瞬間にギシギシ音が鳴ることもあるし、人によってはそんな些細な物音にさえ反応される場合がある。

 今の状態で騒ぎになられるのは非常に困るので、美咲は相当気を使った。

 まるで忍者である。

 もしかしたら、以前出会った忍者ルックの勇者はこんなこともやっていたのかもしれない。

 あの勇者を仕留められなかったのは本当に惜しかった。

 自殺させてしまうなんてもったいない。

 そうやって忍んでいるうちに、リチャードの部屋の真上につく。

 軽く気配を探ると、三人分。

 天井の隙間から室内を覗くと、リチャードとアキニス、リーズが揃っていた。

 ……んー? どういう状況なんだ。きな臭いぞ。

 私はしばらく、やり取りを注視することにした。


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