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第十七話

 ミヒャエル王子が寝入ったことを確認して、そっとベッドを抜け出る。

 当然だが、あの貴族はもういないだろう。さすがに待たせ過ぎだ。

 リーズももう自室として宛がわれている部屋に戻っているようだった。

 ……さて、殺人鬼らしく、夜の散歩と洒落込もう。

 はてさて、誰を殺そうか。

 さてさて、誰から殺そうか。

 殺す相手は、より取り見取り。

 殺すかどうかは気分次第。

 とはいえ、さすがに夜道を無防備に歩いているような奴はいない。

 平和ボケして久しい日本ならそうでもなかったけれど、外国の侵略という明確な脅威があり、王位継承問題で治安維持もおぼついていない今のカステルラントは、真夜中に女が一人出歩くには少々危険だ。

 昼の間に息を潜めていた奴らが出歩く時間帯であり、そういった輩の目につけば、当然狙われる。

 今の私のように。


「あ……え……?」


 私の後ろから口を塞いで物陰に連れ込もうとした男が、いきなりなくなった両手を見て呆然とした声を上げた。

 大したことはしていない。ただ男の両手を刀で斬っただけだ。


「いいねえ、いいねえ。ルートリーマじゃもう私に手を出してくる奴はほとんどいないから、こういうシチュエーションは懐かしいし、新鮮だ」


 さりげなく立ち位置をずらして血飛沫を避けると同時に、男が絶叫を上げた。


「お、俺の、俺の手がああああああああ!?」


「ああ、君の手ならそこに落ちてるよ?」


 私は先ほど斬ったばかりの刀で、地面に落ちた男の手を指し示してやる。ああ、わざわざ落ちている場所を教えてあげるなんて、何て親切なんだろう私。自画自賛。

 男の絶叫を聞きつけたか、慌てた様子で路地に男たちが集まってくる。


「おい、何だ今の悲鳴は!」


「失敗したのか!? 女をさらうだけじゃねえか!」


 数は六人。全然物足りない。特に今の私は勇者を複数殺したことで大幅な強化を果たしているから、ルートリーマにいた頃よりもずっと強くなっている。


「まさか、これっぽっちの数で掛かってくる気? 正直お勧めはしないよ。君たちは死ぬだけだし、私もつまらない」


 強くなったことに慣れ、今の実力を把握するという意味において、私にとってこの戦いは意味があるが、それは裏を返せばそれ以外の意味は全くないということでもある。

 まあ、それでもいい。私は殺人鬼だ。殺人鬼が行う殺人に、元から意味なんてない。

 さっさと片付けて、月下亭に戻ろう。

 音もなく距離を詰めた。

 無音の理由は摺り足による独特の歩法であることと、速度を意識した踏み込みではないということ。

 相手は複数なのはいつものことだし、勇者がいない。最初から全力で行く必要なんてどこにもない。

 燃費の面もあるし、敵を殺せるだけの強さであればいい。

 オーラは使わず、様子を見る。

 それでも元から視界が利き辛い夜中に無音の踏み込みとあっては、男たちにとっては対応し辛いものだったようだ。

 男たちが私の姿を認めた時には、私は既に一人の目前に距離を詰めていた。


「う、うわああああああ!?」


 向こうにしてみれば、暗闇から突然私が現れたように見えたのだろう。

 たいそう驚いてくれて、持っていた火かき棒を滅茶苦茶に振り回し始めた。

 ……どこから持ち出してきたんだ、そんなもの。


「へ?」


 驚く男を他所に、すっぱりと火かき棒を根元から切断する。

 そのまま大上段に振り被り、肩口から斬り捨てた。

 服が裂け、一拍遅れて血が飛ぶ。

 斬れた服から覗く肌はぱっくりと割れ、血に塗れた赤黒い肉の裂け目が覗いている。

 白目を剥いて、男が崩れ落ちた。


「いっ、いでええええええええええ! いでえよおおおおおお!」


 どくどくと血を流す肩を押さえ、男が悲鳴を上げる。

 対多戦闘ではあえて殺さないという選択も時には重要だ。

 もちろんそれで足を掬われては元も子もないけれど、生きている重傷者というのは、それだけで味方にとって荷物となり得る。


「お、おい、大丈夫か!」


 男たちのうち、一人が倒れた男に近付いていく。

 私がすぐ側にいるのに。


「待て、行くな!」


 引き止める声は少し遅かった。


「次の人を冥府にご案内。あればだけどね」


 腹に膝蹴り、身体がくの字になって頭が下りてきたところをさらに肘で頭が高いとばかりに叩き落とし、ちょうどいい場所に下りてきた首元を刀の切っ先でかき斬った。

 残るは四人と私がギアを上げようとしところで、声がした。


「……マガツ? こんなところで何をしているのですか?」


 ぬ?



■ □ ■



 殺しの最中に私に声をかけてきたのは、リーズだった。

 どうして彼女がまだ起きている? 寝てるはずじゃなかったのか。

 いやそれよりも、リーズは私が知り合いだとはっきり分かる形で口を出してしまった。

 助かりたい一心の男たちが、リーズを狙わないはずがない。


「そいつを捕まえろおおおおおおおおお!」


 男の一人が叫び、リーズを指差すと、その男を合わせ、残りの四人がリーズ目掛けて走り出す。

 位置関係がまずい。距離でいえば、私よりも男たちの方がリーズに近い上に、走り出したのも男たちの方が早い。

 躊躇わず、オーラを解放した。

 吹き上がる漆黒のオーラは死者の顔を纏い、私という存在の本質を現すかのように荒れ狂う。

 爆発的な加速を得て、私は男たちに追い縋る。


「何っ……」


 振り向いた一番後ろの男が目を見開き、瞳に恐怖の感情を乗せた。


「悪いけど、その子のところには行かせないよ」


 そのまま追いつくと両足を斬り落とし、倒れる男を放置してさらに前へ。生死の確認はしない。そんなことをしてる場合じゃないし、足がなければ大した距離は歩けない。どの道出血多量で直に死ぬ。


「ひっ」


 小さく息を飲んだ男が、必死に走る速度を上げようとする。

 だがオーラを纏えない人間が、オーラを纏う人間に身体能力で勝てはしない。

 差は広がるどころか急速に縮まり、男が足を縺れさせて転んだ。

 別に私は何もしていない。勝手に転んだだけだ。

 運がいいな。いや、悪いのか? どちらにしろ始末は後回し。今はリーズを助けることが優先だ。

 自分だけを考えるなら放っておいてもいいのだが、彼女はミヒャエル王子が信頼を寄せているメイドだ。

 見捨てればミヒャエル王子が悲しむ。

 私は誰かを殺すのは大好きだが、誰かが悲しむのを見るのが好きなわけじゃない。

 でも誰かを殺せば誰かが悲しむ。世知辛いものだ。そういう殺しは楽しいけれどもやもやする。

 やはり後腐れのない殺しが一番いい。

 転んだ二人目を追い抜き、三人目へ。


「ち、ちくしょう! 早くそいつを捕まえろ!」


 どうやら最初に叫んだ奴だったようだ。

 覚悟を決めた様子で振り返り、私の前に立ち塞がる。

 もう、遊んでいる暇はないのに。


「邪魔」


 すれ違い様に一閃。

 それだけで、男の胴体は永遠に泣き別れになった。

 街のごろつきなど、オーラを纏った状態ならこんなものだ。

 そのまま残る一人の後を追いかけて走る私に対し、リーズは驚いていた表情を無表情に変えると、懐から果物ナイフを取り出し、鞘から抜いた。

 まさか、それで戦うつもり?

 私が男の服の襟を掴んで男を止めるのと、リーズが躊躇いなく男の心臓に果物ナイフを突き立てるのは、ほぼ同時だった。


「……君、本当にただのメイド? 本当はミヒャエル王子の影の護衛だったりしない?」


「失礼な。正真正銘ただのメイドですよ。今のはマガツさんが何とかしてくれると分かっていたのでたまたま成功しただけです」


 リーズの手が男の心臓を突いたままの果物ナイフから離れる。

 その手は確かに震えていた。

 わざとでなければ、確かにリーズのいうことは正しそうだ。

 まあいいか。私は生き残りの処理をするとしよう。

 命乞いをする奴もいたが構わずサクッと処理をして、リーズを月下亭に送ることにする。

 一応男を刺した果物ナイフは回収しておいた。

 血を拭いて鞘に納めて返そうとしたら、真顔で要りませんといわれた。もったいない。結構切れ味よさそうなナイフなのに。

 どうやら人を一度刺したのがダメらしい。

 もう本来の用途としては使えないそうだ。

 それこそ護身用にすればいいのに。一度人を刺したナイフなんだから、ご利益ありそうだ。


「欲しければ差し上げますよ」


 武器としては正直頼りないし本来の用途で使うこともないだろうけど、人の血を吸ったナイフなんでもらっておくことにした。私の殺害済みコレクションに入れておこう。

 え? なんのコレクションかって?

 人を殺した凶器のコレクションだよ。

 当然一番は今使ってる刀だけど、他にも結構存在する。

 刀を調整とかで鍛冶屋に出してる時は似たような曲刀を使ってるし、他にも石とか鉄の棒とか凶器とも呼べない凶器を結構使っているから、種類だけはある。

 ぶっちゃけ、石だけで何個もあるし。

 硬くて重くて投げてよし殴ってよしの割と優良な武器だと思う。足りないのは鋭さだけだ。

 後はいくら硬くても、やっぱり鉄とかと比べれば案外脆くて壊れやすい。

 重さと硬さはあっても、粘り強さがないんだよね。だからすぐ割れたり欠けたりする。


「じゃ、遠慮なく」


 リーズから果物ナイフの所有権を改めて譲り受け、そのまま鞘ごとポケットの中にしまう。

 鞘を吊るす必要がなくて、ポケットとかの狭いスペースに隠せる時点で結構有利かもしれないなぁ。

 思わず記念品を得て、内心ホクホクしながらリーズを連れて月下亭へ帰った。

 ところで、本当にどうしてリーズは夜中なんかに出歩いていたんだろう。

 ずっとルートリーマにいた私ならともかく、カステルラント人のリーズなら、カステリアでも夜は危険なんてことくらい、知っていたと思うんだけどなぁ。

 もしかしたらわざとかもしれないと疑ってしまうのは、私がすれている証か。

 隣を歩くリーズの表情からは特に有益な情報は得られなさそうだ。

 調べるなら、後で、時間がある時を見計らってかなぁ。

 面倒なのは嫌いなので、少しげんなりしてしまう。

 月下亭に着くまで、リーズはずっと無言だった。

 私も大体無言だった。

 会話が無い。気まずい。

 微妙な雰囲気のまま月下亭について、微妙な雰囲気のままリーズは自室にもどった。

 ……まあ、いいや。私ももう寝よう。


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