第十二話
真っ二つになった二人は男勇者の方はもちろん、強力な再生能力を持つ女勇者の方も死んでいる。
女勇者の方はもしかしたらと思っていたのだけれど、身体の欠損までを再生したり自動でくっついたりする類の理不尽なものではないようだ。
二人の勇者を殺したことで、私のオーラは勢いが二割くらい増した。
こんな風に、勇者は共食いを繰り返すことで強くなる。
勇者って何だろうと考えさせられる方法ではあるが、現にそういうシステムだし、私には勇者を殺す大義名分になるのでその点については不満はない。
「さて、と。さっさと殺し合わないと、君たち自身がこうなっちゃうよ? まあ、私にとってはそのまま待っててくれた方が都合いいけど」
振って余計な血脂を落とした刀で死体になった先輩勇者二人を示しても、勇者候補たちは動かない。
うん。完全に固まっちゃってるね。
こっそり観客席にいる第三王子たちを見れば、二人の勇者を殺した私に驚いている者が多いようだ。
その中で、第三王子のみが哂っていた。
彼の視線をはっきりと私に向けられている。従えという、そんな幻聴さえ聞こえる。
五月蝿いよ。私は私の好きなように生きる。生かすも殺すも気分次第。他人の指図なんて受けるものか。
幻聴を跳ね除けると、第三王子の眉が不愉快げに顰められた。
どうやらただ幻聴ではなく、実際に何か干渉されていたらしい。
カステルラントが勇者を従える方法については、私は良く知らない。直接勇者の精神に働きかける方法もあるということだろう。
なるほど、私を招いたのは私を支配したいという第三王子本人の思惑もあるということか。
……うん。気に入らない。あいつは最後にきちんと殺そう。
確かに私は他の勇者より強い。
自慢ではなく、勇者の殺害数がその事実を証明している。
だから取り込んで戦力にしようと思ったのか。
殺人鬼は本人の意思を最優先するからこそ殺人鬼足り得るというのに。
報酬を対価に誰かに味方する。そんなのは殺し屋の仕事で、私の仕事じゃない。
まあでも、今は我慢してあげよう。
あんな男より、メインディッシュたちが私を待っている。
一人残らず平らげなきゃ。食材を無駄にしたらバチが当たるってものだ。
「改めてルールを説明するね。この場にいる人間は一人になるまで殺しあうことでしか生きて此処から出られない。ただし特例で、私を倒した場合のみ、生き残っている人間全てが出られる」
言葉を切って走り、近くに棒立ちしていた不幸な男の子を正中線から真っ二つに斬る。
実際には不可能なことでも、オーラの助力があれば可能だ。
こんな風に。
「手を尽くして、殺しにおいで。私が殺し尽くす前に」
血が滴る刀を振って宣言。
同時に二人目を見繕う。
どれにしようかな。
最初は男の子だったし、次は女の子かな。
でも、さすがに警戒されちゃって女の子の方は私を遠巻きにしているな。
一応彼らの前で勇者二人を斬殺してるんだけど、男の子たちはあまり私を怖がっていない。
性別差フィルターが掛かってるだろうし、まだ勇者候補といえど、オーラそのものは召喚された時点で私たち全員に備わっている。
現に、二人目を狙った私の刀は空を切った。
私の斬撃を回避した男の子を目で追うと、飛び退いた先で他の何人かを巻き込んで転んでいた。
自分でも予想外の反応速度だったようで、巻き込まれたクラスメートたちの罵声を浴びながら目を白黒させている。
楽しいという感情が、私の心を満たしていく。
感情の高ぶりに応じて漆黒のオーラが勢いを増し、その中で死相を浮かべた死者の顔がケタケタ笑う。
今度こそ二人目を仕留めようと、逃げた先に向かって突進した。
オーラを展開した勇者の本気の突撃は、さながら重戦車の突撃と同じだ。
同じ勇者でなければ、止められない。虚を突かれた何人かを撥ね飛ばしつつ、二人目の男の子に肉薄し、恐怖に歪む男の子の顔を上下に斬って殺した。
男の子からオーラが流れてきて、また一段階私のオーラが強化される。
これ、全員殺し終えたら私に勝てる人間が居なくなりそうだなぁ。
ちょっとつまらなくなりそうだけど、人間の執念は凄いから、そうなってもさらに強い人間を作り上げるだけだろう。
永遠に私が勝ちっ放しっていうのはなさそうだ。
三人目を誰にするかと考えたところで、奥の方で人垣に守られている女の子を発見する。
クラスの半分は女子なんだから、その他大勢よりもあんな風に特別扱いされてた方が目立つんだよね。
再び突進して、片手で引っ掴んで誘拐した。
ここまでやれば、さすがに誰か動くよね?
「や、止めろ!」
期待通り、さすがに見過ごせなくなったのか、何人かが武器を手に私に向かって走ってくる。
数は多いけど、まだオーラの出し方にすら気付いていない子たちばかりだ。
そう考えると、二人目の男の子はかなり筋が良かったね。もう殺しちゃったけど。
数を考えればそれなりに私の方が不利なはずだ。
じゃあ、楽しい殺し合いを始めようじゃないか!
■ □ ■
私に向かってきた勇者候補たちは全部で五人。
実力的には私はもちろん、先に殺した先輩勇者二人に比べてもまだ劣る。
二人がオーラを制御しきちんと操っていたのに比べ、今相対する五人はろくにオーラの展開すらできない素人だ。
単純にいうなら人数は二倍以上に増えているけれど、今回の方が遥かに簡単。
明らかに殺し合いそのものに慣れていないことが、表情や身のこなしに表れている。
今回の戦いはあまり私の趣味ではないが、強くなるためのボーナスステージみたいなものと考えて美味しくいただこう。
それに、彼ら彼女らはオーラを纏うことさえできれば、私を殺し得る戦闘能力を得ることができる。
オーラというものは、それほど理不尽なものなのだ。
戦いを生業にしている人間と、異世界から召喚されてクラスメートをほぼ皆殺しにしただけの元女子高生が戦って、勝ってしまうくらいには。
向かってきたのは男の子四人に女の子が一人。女の子が一人来たのは少し意外だ。まあ男女関係なく殺すけど。
一人目の男の子目掛けて走り込む。
「囲め!」
自分が標的になったと悟った男の子が、素早く他の四人に叫ぶ。
狙われていると知っているのに、恐れるでもなく怯えるでもなく、いい反応だ。
男の子の武器はオーソドックスな西洋の片手剣。
本来ならもう片方の手で盾か何かを使うべきだろうけど、召喚されたばかりの彼は生憎何も持っていない。
命を片手剣に託し、私という殺人鬼に立ち向かう。
良いシチュエーションじゃいか! まさに王道って感じだ。
物語とは違い、現実は理不尽なものだけれど。
構える片手剣を持つ手は震えていて、よく見れば膝も笑っている。
彼の威勢の良さは虚飾なのだ。でもそれを責められはしない。
平和な日本で全うに生きてきた子どもが、いざ殺し合えといわれてすぐに順応できるはずもない。
そんな化け物は私だけで十分だ。
フェイントにあっさり引っかかった男の子の首目掛け、刀を振るう。
「うおおおおおおおおお!」
鮮烈な赤いオーラが男の子の身体から噴出し、男の子は無我夢中で刀を避ける。必殺だったはずの一撃が外れる。
自然と私は笑みを零した。
本当に、予想外なことばかりだ。
このタイミングで、本能的にオーラの扱い方を学習するなんて!
歓喜と共に放った私の追撃を、必死に男の子が弾く。
男の子のオーラは、透き通るくらい透明な赤い色。
正直勇者としてはよわよわだけれど、まだ候補だし一人も殺していなくてオーラが強化されていないから仕方ない。
今度は果敢に男の子の方から斬り込んできた。
ただ我武者羅に、私を倒そうとする気概が伝わってくる。
良い目だ。
悪寒を感じて反射的に横に飛ぶ。
背後から一瞬遅れてもう一本、剣の切っ先が突き出された。
もう一人、別の男の子が緑色のオーラを纏って立っている。
二人目か。
どんどん目覚めていって嬉しい限り。
着地から少し遅れて振るわれた赤いオーラの子の攻撃を足運びだけで擦り抜け、驚愕に目を見開いた彼と目が合う。
「駄目だよ、着地を狙うならしっかりタイミングを合わせないと」
刀を頭部目掛けて一閃、反射的に男の子が剣で受けようとしたのを見てから途中で寸止めに変え、下半身狙いに切り替える。
男の子は気付いても反応しきれない。オーラによって身体能力が強化されても、経験は別物だ。こればかりは実際に戦う回数を増やして積んでいくしかない。
両足を切断し、返す刀で心臓を貫き止めを刺す。
すぐに刀を引き抜き、オーラの充足を感じながら、次の獲物を見繕う。
順当にいったら、さっきオーラを展開した子かな。
緑色のオーラを纏った子が、叫び声を上げて私目掛けて突っ込んでくる。
「よくも、彰浩を!」
「あ、その子彰浩くんっていうんだ」
今更ながら、自分が殺した男の子の名前を知った。
激昂している彼には悪いけど、怒り狂う相手の方が、落ち着いた敵よりも相手がしやすい。行動が一辺倒になりやすいためだ。
本当の隙とわざと晒した隙を見分けられず、罠に引っかかる。
脱力してみせると飛び掛かってきたので、いなして全力で刀を振り抜き、首を飛ばした。
二人死んだことで呆然となった三人目に突進して斬りつけると、避けもしないで受けて痛がり悲鳴を上げる。
悪いけど死んでね私のご飯!
オーラ目当てであることを隠しもせずに、三人目を殺してそのオーラを取り込んだ。
私の漆黒のオーラはますます勢いを増し、ケタケタとオーラの中の死者が笑い舞い踊る。
もはや私が纏うオーラの濃さはかなりのもので、完全に半透明では無くなってしまっている。
これでも使用者からはちゃんと外の景色がはっきりくっきり見えるのだから不思議だ。
「う、うわあああああ!」
武器を放り捨てて逃げようとした四人目に本人が捨てた武器を投げつけると綺麗にヒット。
倒れ伏せたところへ走り寄り、逆手に構えた刀を突き刺す。
ごふ、と血を吐いて四人目の少年が死んだ。
残るは女の子一人。
「あ、ああああ、ああああ」
「もう、一人だね?」
「う、嘘」
「私に殺されるか、自ら誰かを殺すか、どっちか選んで?」
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした女の子は、最後の選択を迫った私に背を向けると、紫色のオーラを纏ってクラスメートに襲い掛かった。
「へ?」
女の子に片腕を斬り飛ばされた不幸な男の子の、最期の発言がこれ。止めはもちろん私が美味しくいただいている。一人たりとも無駄にはしない。
一人が凶行に走れば、もう歯止めは掛からない。
死にたくないがための、本格的な勇者候補たちの殺し合いが始まった。




