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第十一話

 ミヒャエル王子に味方することを本人に伝えたわけだけど、対外的には今まで通り、私は第三王子側につくことにした。

 すぐに教えてしまったら向こうも警戒しちゃってつまらない。こういうのは最後の最後で盤面を引っ繰り返すから面白いのだ。

 既に第三王子側に被害を出しまくっている私だが、こういう時私の殺人鬼という肩書きが役に立つ。

 普通なら道理にそぐわないことをしても、下手人が私なら元から頭のおかしい奴だからという言い分が成り立ってしまうのだ。普段の行いというものは大事である。

 第三王子側も私が危険人物だということは重々承知の上で依頼を振っているのだから、他人にどうこう言われる筋合いはない。

 日が変わって、私は早速勇者召喚の儀式に立ち会うことになった。

 私の他にも、勇者が二人立ち会っている。当然二人とも私より年上だ。男と女が一人ずつ。女の方は槍を背負っていて、男の方は弓装備だ。

 勇者三人とか破格過ぎるが、この二人は私を取り押さえるためにいるのだろう。自分で言うのも何だけれど、私は何をするか分からない。爆弾のようなものだ。不測の事態というのは起こり得る。

 ちなみに私の奴隷になったイルク君たちハーレムパーティーには、ミヒャエル王子の護衛をお願いしておいた。

 ミヒャエル王子ってば護衛の一人も連れておらず、リーズちゃんも護衛ではなく、メイドとしての身の回りの世話をさせているだけだった。

 幸い奴隷商人にさえ口止め料を払っておけばイルク君たちの主人が私であることは簡単に隠せるし、イルク君たちは現役冒険者だけあってそこそこ腕が立つ。

 魔法使いたちが次々に魔法を唱え、今回の勇者候補(犠牲者達)を召喚していく。

 三年前に私がクラスメートごと召喚された時にいた魔法使いは全員殺したんだけど、もう補充できたのか。さすが国土が狭い癖して魔法大国と呼ばれているわけじゃないな。

 今回の召喚の儀式は第三王子自らが指揮を執っていて、この場には第三王子派の貴族だけでなく、第五王子派の貴族もかなりの数がいる。

 彼らはミヒャエル王子が行方不明になった後で寝返った貴族たちだろう。

 私や勇者二人以外は誰も彼も仮面で顔を隠し、手には扇子やワインが入ったグラスで観客席に座り、完全に観戦を決め込んでいる。

 儀式を行っているこの建物も、コロシアムを貸切にしたものだ。

 ところで、第三王子と顔合わせを済ませたら何故か私に護衛が付けられた。

 第三王子乳兄弟らしい俺様な性格の騎士サマ。凄い美男子なんだけど、私に密着して甘いセリフを囁いてくるのをどうにかしてくれないものだろうか。私のことを篭絡したいのかもしれないけれど、残念私は殺人鬼なんだ。生憎殺意しか沸かない。

 一応味方だど信じ込ませたいから顔を赤らめてみせたりサービスはするが、正直虫唾が走る。

 だって、護衛って名目なのに、一番居なきゃいけないこの時に第三王子と一緒に見物してるからね。まあ居ても邪魔なだけだからいいけど。


「君達を召喚した理由は他でもない。カステルラントの勇者として、力を貸してもらいたいからだ」


「しかし、その前に選別を行う必要がある。君達に眠っている勇者の力を、一つに束ねるのだ。その方法を今から教えよう」


「殺し合え。一人になるまで生き残った者に、勇者の栄誉と、従順なる君だけの従者を与えよう。男ならば女を。女ならば男を」


 合図と共に、召喚された勇者候補たちと同年代の少年少女たちが歩み出てくる。

 皆、頭に美がつく容姿の持ち主ばかりだ。

 ただし全員奴隷。肩に焼印が入れられている。ミヒャエル王子の肩にも一時期同じものがあったから知っている。奴隷であることを示す焼印だ。恐らく全員性奴隷だろう。

 確かに従順だ。基本的に奴隷は主人に逆らえないし、そもそも何より彼ら彼女らの目が死んでいる。奴隷市場に流れている性奴隷だって数に限りがあるだろうし、ピンキリだ。容姿の優れている者ばかり何人もどうやって集めたのか気になる。

 勇者候補たちは全員高校生みたいだから、景品にされている奴隷たちも当然同じくらいの年齢だ。この世界の常識で当て嵌めても未成年かどうかはともかく。


「……あなたたちの代の時、これあった? 私の時なかったんだけど」


 尋ねてみると、勇者二人が怪訝な表情で私を見た。


「本気で言ってるの?」


「お前の時も用意されていたぞ。どうせ、見向きもせずに便利な肉盾くらいにしか思ってなかったからすぐ忘れたんだろうが」


 仰るとおりでございます。

 なるほどー、私の時もいたのか。

 全く記憶にないよ!

 第三王子は演説を続けている。


「生き残る手段は二つのみ。最後の一人になるまで勝ち残るか、この三人のうち、誰か一人を殺すかだ。紹介しよう。カステルラントが誇る勇者、ミキ、ヒュウガ、マガツだ。彼らは君達と同じ日本人であり、先達でもある。せいぜい殺されぬよう上手く立ち回れ。……それでは、健闘を祈る」


 演説が終わると同時に、勇者二人がオーラを纏って客席から試合場に飛び降りた。

 オーラの色は黄色と赤。

 私や忍者ルックだった勇者と違い、明るく澄んだ色をしている。

 色の違いは個人の性質の違いを表している。では、同じ色で濃淡の違いは?

 応えは単純。純粋なオーラの強さだ。同じ勇者をどれほど殺したかで、この色の濃さは決まる。人数が多ければ多いほど、色は濃く濁る。

 つまり、この二人は勇者として大して強くない。

 それでも、二対一なんだしいい勝負にはなるだろう。

 忍者ルックの勇者を倒せていれば楽勝だっただろうけど、生憎自殺されている。

 まあ、仕方ない。

 無言でオーラを展開する。

 私の身体から漆黒のオーラが吹き出て、苦悶に歪んだ死者の顔が周囲を踊る。

 さあ、始めよう。

 彼らが弱いといっても、それは勇者同士を比べた場合だ。勇者である以上、超人なことに違いはない。それが二人も。胸が高鳴る。

 オーラを漲らせ、私も試合場に飛び降りた。



■ □ ■



 試合場に散らばっている日本人たちは、状況を聞かされていても全く飲み込めていないようだった。

 まあそうだよね。いきなり「召喚したぞ、殺し合え」と言われて、即座に殺しに動けるような奴はそれこそ殺人鬼の素質がある。

 私だって、積極的に殺しに動いたのは高校生になって友人になったクラスメートが殺されてからだ。それまでは、大人しく状況把握に努めていた。

 今回の高校生たちも、まずは仲の良いグループ同士が集まって、不安そうに顔を見合わせているだけで、一向に殺し合いが起きる様子はない。


「こういう時こそ、俺たちの出番だ」


「あなたの時は私たち勇者が監視していなくてあなたを野放しにさせちゃったから、その教訓でもあるのよ」


 勇者二人が歩き出す。

 なるほど、私たちは口火を切って事態をコントロールする進行役でもあるわけだ。

 これを考えたのが第三王子かその回りの貴族の誰かかは知らないが、悪辣なことを考える。


「口火を切るのなら、対象は別にあの子たちじゃなくても構わないわよね?」


「は? お前何を言って」


「油断しないで! そいつは人殺しの狂人よ! 私たちを」


 殺そうとしてるかもしれない、と言い掛けた女の方の勇者の喉に、刀を突き入れる。

 オーラの助力を得た一撃は、喉を突き破り、骨を断ち、脊髄を破壊して血に塗れた切っ先を外に飛び出させた。

 刀を引き抜こうと力を篭めたところで、ぐりんと動いた女勇者の目と目が合う。

 完全に仕留めたと思ったのだけれど、さすがに勇者というべきか、脊髄を破壊されているのにまだ生きている。

 捕まる前に刀を引き抜き、間合いを取って仕切り直した。

 男勇者が放った追撃の矢を余裕を持って斬り払う。

 うん。やっぱりオーラ自体は私の方が強い。身体能力も私が上。

 しかし男勇者の攻撃をあしらっている間に、女勇者の身体に異変が起きた。

 首の傷が、急速に塞がり始めている。

 なるほど、女勇者のオーラは再生能力を強化するものらしい。

 私のオーラにも多少再生能力強化はついていて、忍者ルックの勇者と戦った時に活躍を見せたが、女勇者の明るく黄色いオーラはそれ以上の速度で傷を修復していく。

 まさに、癒すとか治癒するというよりも、修復という言葉がぴったりな異常な速度だ。

 時間にして八秒ほど。たったそれだけの時間で、致命傷だった女勇者が完全に治癒して私と戦う男勇者に加勢する。

 これはとても面倒くさい。いくら私でも、女勇者を倒してから八秒以内に男勇者を倒すのは無理だ。相手もそれを見越して、女勇者が前に出て男勇者は後ろから私の注意を削ぐように散発的な攻撃を仕掛けてくる。

 千日手が続けば、先に力尽きるのはどちらだろうか。

 ……おそらく私の方だろう。

 選定時を含めれば既に勇者を何人も殺している私のオーラは他に類を見ないほど凶悪なものとなっている。先を全く見通せない漆黒のオーラに、溶け込むようにして浮かんでいる無数の死者の顔。

 見た目からして悪趣味だが、これはこれで気に入っていて愛着がある。

 ただ、そんな私のオーラにも欠点があり、それが持久力の欠如だ。

 強力な分オーラの消費も激しく、考えなしに全力でオーラを使っていると、割と早くオーラが底をつく。

 勇者以外との戦いで、私が要所でしかオーラを使わないのはそのためだ。

 予想外の状況に対応するためには、節約が必要なのである。

 しかし対勇者戦では節約などしていられない。力の大小こそあれ、勇者同士ならば力そのものはまともな戦闘になり得る水準に達している。


「殺人鬼は死になさい!」


 前衛を張る女勇者が黄色いオーラを噴出して突っ込んでくる。

 彼女の手には槍が握られている。

 ステップは踏めない。そんなことをすれば着地を狙って男勇者が狙撃してくる。男勇者のオーラの詳細が分からない以上、迂闊な隙は晒せない。

 ……ふむ。

 ならば、一箇所に纏めてしまお(・・・・・・・・・・)()

 位置取りを修正して、女勇者を男勇者の弓の射線上に置き、槍を受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。

 男勇者が射線を私に通そうと動くのを合わせて、私も射線を切るように位置を取り直す。

 当然女勇者は私の邪魔をしようと圧力をかけてくるが、オーラの馬力も素の腕力も私の方が上だ。

 弓の射線を女勇者の身体で切りつつ鍔迫り合いを押し込んでいく。するとどうなる? 男の距離が縮まる。

 あとは単純。適当な位置まで来たら、男が距離を取り直す前に思い切り女勇者を弾き飛ばして男勇者にぶつけるのだ。

 たった一瞬ではあるが、重なり合って男勇者も女勇者も動けない時間ができる。

 その時間があれば十分。

 全力で迸らせたオーラを刀に伝えて一気に刀身を伸ばし、衝撃で苦悶に歪む二人の顔を見ながら胴体を揃って仲良く泣き別れにしてあげた。


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