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61話



「いい商談ができました」


「こちらこそ、ありがとうございます」


にこりと笑って握手を交わした。


袋の中にはじゃらじゃらとお金がなっていた。使い勝手が悪そうなので、金貨のほかに銀貨やどうかも入れてもらった。嵩張るかと思うかもしれないがアイテムボックスがあるので問題ない。


「よろしかったのですか?我々に頼らずともご自分で売ればもっと高く売れたと思いますが」


「いえ、こんな身分も怪しいものから誰も買い取ろうなんて思いませんよ。むしろこんなに高く買い取ってもらえて嬉しいくらいです」


「そそ、そうですか」


本当にありがたい。何も知らないまま行ったら騙されていたところだ。


「ちなみに今後も売る予定は?」


「今は考えてませんね。金面に困ったらまた考えます。今日はありがとうございました」


「あっ、いえいえ!本日のご来店ありがとうございました!」


俺は人形と化しているリリアを引っ張って商業ギルドを出た。




☆☆☆☆☆☆☆☆




そしてソラたちが出た後のギルド。


「マスター!マスターはいますか!?」


「何ですか騒々しい。中に居ますがどのようなご用件です?」


ソラたちが返ったのを確認してからお姉さん、ライラは慌てて商業ギルドのマスターのもとに駆けつけていた。


だが部屋の前で執事兼護衛のテリーに止められていた。


「ま、マスターにお話が!」


「落ち着いて下さい。アポを取ってからでないとマスターにはお会いできません」


「そんな場合じゃ…!マスター!マスターいらっしゃいますか!!」


テリーを相手にしている場合ではないと思い直接マスターに呼びかける。テリーはいつもと豹変している彼女を不審に思いながらなんとか止めようとする。


「騒がしいようだが。テリー、何をしている」


一際豪華な扉が開き、中から小太りの男が出てきた。男は豪華な服を着ており、アクセサリーも多数つけていた。


だが仕事に支障が出ないようにしているのか、服は何枚も重ねてきていないし、指輪は1つしかつけていない。結婚指輪だ。


「は、はっ!申し訳ありません。直ぐに」


「ん?君は確か…ライラといったかね?」


「え、はい!そうです!」


マスターはほんの少しライラの名前を思い出すのに時間がかかったようだ。

だが逆にライラは、マスターが一社員でしかない自分の名前を覚えていることに驚いていた。


「むぅ…。まぁ話は中で聞こう。入りなさい」


マスターも、いつもは冷静なライラが、こんなにも慌てているのを不思議に思ったのか部屋に入るよう促した。商人の勘といえる部分が、話を聞け、と囁いていた。


「は、はい!」


思っていたよりも簡単に話ができたことに驚きながら、恐る恐る中に入る。


中には机や椅子の他に、膨大な量の書類が机の上に置かれていた。


「座りなさい。それでどうしたのかな?」


「ありがとうございます。では、これを…」


そう言って先ほど50枚の金貨で取引した2つのアクセサリーを取り出す。2つともほんのりと光を放ちながら輝いている。片方は蝶のアクセサリー。そしてもう片方はツバサの形のネックレスであった。


「こ、これは!?」


マスターは身を乗り出しながら2つのアクセサリーに目を釘付けにされていた。ただのアクセサリーならここまで驚きはしないだろう。

たしかに細かいところまで手を加えられており、美しい。だがこの程度なら王都の職人が作ったものを毎日見ているマスターは驚かないだろう。


驚いた理由は他にあった。

まず常時光を放っていること。灯をともす魔道具ならめずらしいものでもないし、1つの家庭に必ずといっていいほどある。だがその全ては魔力を込めて初めて一定時間の効果を発揮する。


それに対してこのアクセサリーは魔力を感じない。しかも全く変わらない一定の光を放っていた。つまりこれは未知の素材でできている、もしくは未知の構造をしているのだ。


「むっ!?」


次に鑑定ができない。ライラも初めてアクセサリーを使っていたが鑑定できなかったのだ。


マスターは先程から『鑑定』スキルを発動しているのに、鑑定結果が文字化けしていて見えないのだ。長らく商人をやっており、『鑑定』スキルのレベルは7にまで上がっている。なのに鑑定ができなかったのだ。


つまり、作成者が意図して隠しているか、アクセサリーのレベルが高すぎるのかどちらか。


作成者が意図して偽装する場合、大抵は悪効果のある細工を隠すためにするものだ。その可能性をライラは

考えたが直ぐにありえないと否定した。何故なら魔力を元にして発動するのに対して、このアクセサリーからは魔力が感じられなかった。


「こ、これを一体誰から…どなたから買ったのだ!?」


「わ、わかりません。ただ、身なりはとてもよくそれこそ王族が来ているようなものでした」


「な、なに!?そんな方が来ていたのか!何故私を呼ばなかった!?」


「い、いえ!先程も言った通り全く顔も知らない方でしたし、このギルドに入った時に驚いていました!

…?いや男の子の方は直ぐに順応していた…。でも女の子はずっと固まっていたし…」


「ぬぅ、他に何かないか?」


「はい。今後も売る予定は、と聞いたのですが…。今のところはないと言っていました。つまり、まだこのアクセサリーを所持しているとみて間違いないと思います。それに、探りを入れたのが悪かったのか直ぐに帰ってしまいました」


「なんと…!?こんなものをまだ持っているのか…。しかも頭も回る…偶然か?」


顎の手を当てて数十秒考えていたマスター。だが目を見開いて口を開けた。


「何故……我が商業ギルドに売ろうとしたのだ…?」


「は、はい。私もそれに疑問を持ち聞いてみたのですが自分のような怪しい奴から買う人なんていないと言っていました」


「…どういうつもりだ?貴族のコネがあるはずだろう…。直接売ればもっと高額な取引ができたはず…」


ソラは単純に日本の厳しい法律を知っていたが故に、偉い人に話しておいた方がいいんじゃ?という考えのもと、もっとも位のたかそうなところに売りに言ったまでなのだが。


「どうにかせねば…!」


知らないところで物凄く勘違いをさせていた。


アクセサリーの鑑定ができないのも、一応…一応『聖剣』という伝説のアイテムの金属でできている。ソラの持っている超鑑定でやっと見える状態なのだ。


服装だって王都で生活しており、その時にセレスにもらった服を着ていただけだ。貴族のコネも知らない。


こうしてソラは大金を手に、商業ギルドは悩みのタネを手に入れた。






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