57話
此方を真っ直ぐ、射抜くほど見つめるリリア。
「どういうことだ?」
「しらばっくれんな。時が止まるアイテムボックスに、それだけの戦闘能力がありながら薬草すら採取できない」
「グハッ」
全く予期しない時にダメージを受けた。
お、俺だって真剣にやってるんだ…。結果が伴わないだけで……。
「しかもギルドでは職業を『戦士』ではなくワザワザ甘く見られる『ポーター』に選んだ。さらに魔法も使えるし、試験の時のスキルだ。怪しすぎる」
ん?ちょ、待って。この程度の剣技で『戦士』に登録できるなら『戦士』に登録したかったんですけど。しかも何?『ポーター』ってナメられてんの?初耳なんですけど。
「吐け。何もんだテメェ」
とうとう武器まで抜いたリリア。俺ってそこまで信用できないかなぁ?
「べつに大層なものではないが…」
…一度、言ってみたかったんだ。
「嘘つけ!」
言いたくはない…言いたくはないがっ!
「勇者です」
きっと僕は彼女の…リリアの顔を生涯忘れないだろう。
「……はあ?」
「そうなるから嫌だったんだよっ!」
へっぽこ剣術で、なんちゃっての魔法を使い、卑怯な手ばかりを使う勇者なんて誰も信じないだろうしっ。
「正直に言えって言ったから言ったのに…!俺だってなりたくてなったわけじゃないんだ…!それなのに酷いよぅ…。そんな顔しなくてもいいじゃんか…」
お前が言えって言ったのに!何で俺がこんな目に遭うんだよぅ…。
「その…ゴメン」
謝らないでっ!本当に、なんていうか…こう、その目をやめてほしい!
「お前は俺を信用してくれたのに…。それを裏切っちまった…」
「え、いやそっちか…。別にそれくらいいいけど」
もっと別のことを謝ってほしいっ。
「いや別にいいって…」
「バカヤロウ。お前が『あいつ勇者なんですぅ』なんて言っても誰も信じないだろ」
せいぜい『自演乙ww』って言われるだけだ。俺はその隣で指差して笑ってるね。
「そもそもお前だって信じてないだろ?」
「まあな。薬草1つ満足に採取出来ない勇者なんて聞いたことねえし」
うっ!?
「そもそも盗賊相手に交渉始める奴なんてまともじゃねぇ」
くっ!
「それに勇者だったらもっと正義感に溢れてるし、優しいし、まとものはずだ」
ゲハッ。
「いや待て!俺はまともだぞ!?」
「……そうだな」
首をこれでもかと横に回すリリアの顔を掴み、強引にこちらに向ける。
それでも目だけは逸らすリリア。
「…本人がそう思ってるならそれで…」
「な?目と目を合わせてさ、本心で語り合おう?な?」
リリアが観念したのか、やっと俺の目を見てくれた。
だが何処か悟ったような表情をした後…ふっ、と笑った。
「さぁ、今日はもう充分取れた。帰ろう?」
「あ、ああ。なぁ、俺ってまともだよなぁ。まとも、だよね?まともですよねぇ!」
「…(ニコッ)」
「なあ!ちゃんと答え、あっ!待って!置いてかないで!ちゃんと答えて!?」
おかしいのは俺じゃない…。俺を否定する世界が悪いんだっ!




