55話
地図に従い、門を出て道を歩いて進む。この道の先に森があり、そこにに薬草が生えているらしい。
「歩くのか…」
マジダルビッシュ。
「早く行こうぜ!冒険だぞ冒険!」
そうだよな。歩いて行くのも冒険のうちだよな!
「おう!」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ま、まだぁ?」
「もう少しだろ」
何度目だよ…。森が一向に近づく気配がないんですけど。いや森は見えてるんだよ。けど全然近づかない。
「もう30分は歩いたぞ…」
「まだ30分だぞ」
そうだけどさー。歩いてもまだ仕事が残ってんだぜぇ?むしろ着いてからが仕事だぞ。行きでこんなに疲れるのか…。
疲れたわけじゃないんだよ。右を見ても草原、左を見ても草原なので、特に面白いものがない。何が言いたいかというと暇である。
「よし。決めた」
もう走ってこう。身体強化魔法とか使って走ってこう。ちょっと、いや俺にとってはだいぶ魔力を消費するけど問題ない。
あっ、けどリリアは身体強化できるのか?まあいいや。今の俺を止めることはできない。フワハハハハ。
「ちょいと失礼」
「はっ?え、いや、ちょ」
所謂お姫様抱っこというやつで持ち上げる。特に意味はないが、ノリだ。
「行くぞ!」
「ま、待って!」
「だが断る!」
腰を少し落とし、力強く地面を蹴る!地球に居た頃では信じられないようなスピードで走る。身体から力が溢れ、体が軽い。多分50メートル走で3秒は行くと思う。
しかも少しずつスピードが上がる。体に当たる風が心地よい。…いや、だんだん鬱陶しくなってきたな。水の中にいる感じに似ている。それだけスピードが出ているということか?
「きゃああああ!」
きっとそうだろう。リリアの悲鳴を聞いてそう確信した。
☆☆☆☆☆☆☆☆
あっという間に着いた。
何もない地平線が見えていた少し前に比べて、今は右を見ても木、左を見ても木、木、木、木である。
「うおぉ」
薄暗い森の中というのは、少し怖いけど、それ以上にワクワクするものだ。見慣れぬ草木、日本では、都会では見られないようなさまざまな草木が生い茂る。
小鳥のさえずりが聞こえて、心地よい風が吹く…なんて事はなかった。
「うっ、オエェェ…」
リリアのピー音しか聞こえない。いや嘘をついた。さっきから狼か何かの遠吠えが遠くから響いている。
「グオオオオオ!」
…いや、うん。ただの狼じゃないってわかってるよ。ただ現実を見たくなかっただけだ。重く低い、腹の底に響いてくるよくわかんない声。
「うぅ!?ぅおえ…」
そしてピー音。キラキラ。
「まさかこれ程までとはな…」
冒険者を侮っていたようだ。常に死と隣合わせ。ストレスや不快感しか感じない。あと酸っぱい酢の匂い。
なんか楽しそう、ワクワクする、なんて甘っちょろい考えをしていた俺を殴りたい。
「げえぇ…」
「おわ!?かかるだろ!もっとあっち行け!」
そして暇だからリリアを抱いて走ってきた俺にドロップキックをかましてやりたい。
「い、イヤだね。魔物に襲われたくねぇし」
「お前のゲロに寄ってたかってくるよ」
「その時は頼む」
「くっ!自分のせいだから見捨てて行けないっ」
そもそも女の子としてゲロは良くないよゲロは。まあ口に出したら『お前のせいだ』と言われること間違いないので言わないが。
「あー!薬草にゲロがかかった!」
最悪だ。…いや、洗えばなんとかなるかも?
「グギャギャ」
「おっとぉゴブリン先輩のお出ましですか」
まぁ今さらゴブリンごとき俺の敵じゃないね。
小細工を使うことなく、アイテムボックスからちゃんとした剣を取り出す。ちゃんとした剣を。そして正面から斬りかかり、難なく倒した。
「ふん、なかなかやるじゃねぇか」
「まだゲロついてるぞ」
口の端にまだついてるので教えてやった。顔を赤くしながらいそいそと口元をぬぐうリリア。
俺はアイテムボックスから水の入ったコップを取り出す。
「ほら」
「いらねえ。喉乾いてないし」
「そういう問題じゃない。歯に胃酸が付いたままだと歯が溶けるぞ」
多分、多少は。
「いさん?」
「ゲロ」
「うえ…」
説明を聞き、良くわかんなそうにしていたが、何となくヤバそうだということは察したのか、大人しく水を受け取り飲み干した。
「良くなったか?」
「大分な」
「なら薬草探すか」
「おう!」
ようやく、仕事を再開した。