49話
「お、おい!みんなが俺を見てる!どうしたらいい!?」
「おおおおお落ち着け!見てるのはお前じゃなくてその金だ!」
「バカヤロウ!自分から大金持ってるってバラしてんじゃねぇ!」
「っ!?しまった!」
あの後なんかよくわからん小汚い店で宝石を換金し、大金を手に入れた。この袋に入ってる全ての硬貨が聖銀貨というものらしい。
偽物かと思って鑑定してみたけど本物だった。一枚一枚鑑定していたので換金してくれた男に『商売は信用があってこそですぜ。ヒッヒッヒっ』と言われたのだが、妙に頭にこびりつく。あの笑い方が頭から離れてくれない。
ちなみに材質はミスリルで、硬貨そのものに価値がある。
不思議なもので大金を手にすると、周りの人間すべてが敵に見えてくる。別に俺の金じゃないのだが、知人の物が盗まれるかもしれないのに落ち着いてはいられない。
それに大事になったらめんどくさい。
「おい!まだかよ」
「うるせえ。もうちょいだ」
もうちょいってどれくらい?
などという子供のいう言葉は決して使わない。けっして。アレって自分で思っているよりも、言われる側は意外とイラつくものなんだよ。聞いた話ですけども。
いやぁ、若い頃はよく言ったものだけど成長した俺すげぇ。うん。どうでもいいですねハイ。
いやぁ、なんというか現実逃避?というわけではないのですが今目の前にあるものを見るとねぇ。
「ここが俺たちの家だ」
案内されついたのはボロ....くはない。豪華とも言えないちょっと古めといった具合の家だ。
こう...盗賊なら盗賊らしくボロっちい家に住んでて欲しかった。
こう、家の中には地下へと続く階段とかあったり宝箱とか置いてあったり....。
色々と探してみたが、結局なにもなかった。
「はぁ、これだから常識のない奴は....」
「呆れられる節が見当たらないんだが....?」
ガーゴイルの石像とか置いておけよまったく。....そうだ、この金で買って仕舞えばいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、玄関が開く音がする。
「おっ!帰ってきたのか!」
「ホントだ!」「お金がある!」
子供の声が聞こえてくる。高い声の中にいくつか低い声が聞こえてくる。
「おう!お帰りみんな!」
などと彼が言う。あぁ、俺たちのの家って言ってたもんな。
「おぉー!すげー!」
「やったぁ!お金がいっぱい!」
「これでまた美味しいものが食べられる!」
子供たちはクリスマスのプレゼントをもらったようにはしゃぎだす。プレゼントはお金なのだが、一つのものに子供が集まってきゃいきゃいと喜んでいる姿はとても喜ばしい。
「っ!?」
横から視線を感じ、隣を見ると盗賊が俺の方を見て驚いたような表情をしていた。
「お、おい。なんで....なんで笑っ「早速メシ食いに行こうぜ!」
喋りかけていた彼の言葉を遮り、ガタイの良い青年が大金の入った袋から聖銀貨を乱雑に手につかんでポケットに突っ込む。
そのまま俺と盗賊の隣を歩いて出て行こうとし、子供たちもそれについて行こうとする。
「はぁーい、そこまで」
俺は青年の腕を掴み歩みを止める。
「あぁ?なんだよ。つか誰だよアンタ」
「俺か?俺は....」
盗賊の腕を乱暴に掴み取り、こちら側に無理矢理よせ、両腕を背中に回して手首を縛る。アイテムボックスの中に紐があってよかった。
「コイツのような薄汚い盗賊を取り押さえる者だよ」
『なっ!?』
「その聖銀貨は伯爵様のものである。大人しく返し、捕まるがいい」
すでに袋に入れてある聖銀貨はボックスの中に収納してある。代わりに石ころを入れておいた。
そして手のひらの上に隷属の首輪を取り出す。
隷属の首輪というのは以前つけられた隷属の腕輪の上位交換で、完全に支配下に置く。死ねと命令されたら自害するほどのもので、気絶しようとも強制的に動かされてしまうほど強力だ。
この前城の宝物庫っぽいところから拝借しておいた。
「ちっ!アイテムボックス持ちか!」
「兄ちゃん!金が全部石ころに変わってる!」
硬貨の一枚や二枚くすねておこうとでも思ったのだろうか、袋を覗き込む少年が声を上げる。
「おい!テメェ話しがちげぇだろうが!?」
盗賊が声を上げるが、それを無視しながら隙をついて首輪をつける。
ガチャリという音とともに首輪が盗賊の首のサイズに変わる。装着者の体に自動でに合うようになるのか。
そして紫色の怪しい光が漏れだす。
「さて、次はお前たちだ」
「うるせえ!俺の金を返しやがれえええ!」
叫びながら拳を振り上げ、俺のもとに走り出す青年。といってもリサに比べたら全然遅いし、殺気が無いので、正直思っていたよりも怖くない。
俺はそんな青年を一瞥し、腕を地面と平行に振るった。
次の瞬間、床に巨大な剣が3本虚空からバリケードになるように突き刺さった。
盗賊から手を離し、子供達を一人一人と目が合うように見渡す。
「....で?」
「お、俺はなにもしてない!何も知らない!」
「そいつが勝手にやっただけだろ!俺たちは無実だ!」
勝手なことを言い始めやがった。まあ助かるには切り捨てるのが一番だと思うし、正直この展開を望んでいた。
「そうだ!俺はこんなガキどもしらねぇ。俺をさっさと連れて行きな」
ッ....!
コイツ明らかに見捨てられたのに庇うのか?理解できんな。
このガキどもはお前のことをまるで居ないかのように扱ってたんだぞ?それにお前が稼いできたお金をまるで自分のもののように扱い、それが当たり前のように振る舞う。さらには自分たちが危機的状況に陥ったら簡単に見捨てるんだぞ。
まともじゃない。
「そうか....」
俺は釈然としないまま家を出た。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「いやぁ、ゴメンね?」
「『ゴメンね?』じゃねえよ!?どういう事だよ!説明しろ!」
「説明しろって言われてもなぁ。イラッとしてついやってしまった。反省してる。後悔はしてない」
「殴っていいか?」
額に血管を浮かべながら指をポキポキと鳴らす盗賊に俺は高らかに言ってやった。
「ハッ!やれるもんならなっ!」
「ちっ!」
隷属の首輪をつけているので何もできない盗賊。
「そういや名前聞いてなかったな。俺は勇者ソラ様だ。よろしく」
「勇者ぁ?嘘つけ。俺はアリスだ」
「ハハッ、可愛くて女っぽい名前だな」
「ああん?悪かったな。つーか女っぽいっていうか俺、女だぞ」
「....は?」
あれ、いまコイツなんて言った?女?女の子?こいつが?
「....いや、嘘つけ」
「嘘じゃねえよ」
「なら鑑定してもいいか?」
「鑑定スキル持ちなのか。多才だな。いや器用貧乏か?」
「そう褒めんなって。というか本当に鑑定していいのか?裸を見せるのとおんなじなんだろ?」
「そりゃ貴族様とか冒険者たちだけだよ。ただの平民がステータスをバラしたってなんの意味もねえだろうが。あと調子に乗んな」
そうだったのか。まあ普通に考えればそうなのか?冒険者たちは自分の手札を見せたくないのはわかる。貴族たちも自分のステータスを馬鹿にされたくないがためにそうなってるのか?それともただの伝統みたいなものかもしれない。
別にどうでもいいか。
「鑑定」
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アリス 人族 [女]
状態:魅了(弱)
レベル3
攻撃力:H
守備力:H-
知力:F+
敏捷:C
魔力:D-
スキル
逃走3
毒耐性1
短剣術2
隠密2
料理3
掃除2
称号
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「マジだ」
「だろ?」
というか超鑑定さんの便利さに鳥肌です。知りたい情報を自動で汲み取って反映してくれる。有難い。
というかそんなことよりもはるかに気になることがあるんですけど。
「なあ....魅了ってなに?」
「なんだよ急に...。そんなことも知らないのか?魅了っての洗脳に近いことで、かかった奴はいいなりになっちまうらしいぞ」
「....おい、おまえその状態になってるぞ」




