38話
「で、突然なんだい?料理がしたいって?」
「うす!」
思い立ったが吉日。
その日のうちに厨房に来て料理長に料理がしたいと言ったのだが、思ったより反応が良くない。
「勇者様に料理なんてできるのかい?」
「流石に料理長たちみたいな腕はないけど、異世界の料理を披露しようと思ってるよ」
「へぇ、異世界の……」
どうやらまだ見たことのない料理を知ることが出来そうで、揺らいでいる。少し考えた後、
「わかった。だけどね、勝手にいろんなものを使われちゃたまらないからね。監視させてもらうよ」
「了解です。むしろ料理方法を覚えて欲しいくらいですよ」
「いいのかい?それで稼げるかもしれないのに」
「この程度で稼げるなんて思ってないし、料理長が美味しい料理を作ってくれた方が俺は嬉しいよ」
「ははは!そうかい!嬉しい事を言ってくれるね!気に入った、これから私のことはミヤおばさん呼びな!私もあんたのことはソラと呼ぶからね!」
「うす」
了承を得たので早速冷蔵庫的なところからいろいろ取り出す。異世界の料理だから揚げ物にしよう。作り方とかの基本はシンプルだし、覚えやすいだろう。専門の人とかに聞かれたらもっと奥は深い!とか言われそうだけど知ったこっちゃないね。
取り敢えず適当な肉を取って……。
「お?オークの肉かい。しかもジェネラル級の.....見る目があるじゃないか」
……オーク?オークってアレですよね。人間の体に豚のの頭を持ってるアレですよね。…間違ってるかもしれない。うん、聞いてみよう。
「オークって何ですか?」
「オークを知らないのかい?」
ミアおばさんは信じられないかのような表情を浮かべる。
「簡単に言えば二足歩行するデカイ豚だよ。肉が美味しくて安いから貴族たちにとどまらず平民にも人気なんだよ」
「…へー。そうなんですかー」
…美味しいならいいや。小さい事は気にしない方が長生きできるってテレビの中のおじいちゃんが言ってたからね。
要は豚肉だろ?魔物なんだからこう…旨味が凝縮されてるだろうしうん。謎の理論だけどもういいや。考えてもわからない事は後回し。
「パン粉ってあります?」
「なんだいそりゃ?」
ですよねー。揚げ物を作る文化がないのにパン粉なんてないですよねー。
「じゃあパンってありますか?」
「勿論あるよ。黒パンでいいのかい?」
「うーん、白パンでお願いします」
「わかった。白パンだね。……ほら、足りるかい?」
「はい、十分です」
さてと、パン粉を作りますか。
よく覚えてないけど簡単に作れた気がする。もちろん売ってるほどの出来てではないのだが。
先ずはパンを細かく刻んで....細切れになったら水分を奪う。日本ではレンジでできたはずなんだが.....。まぁそのぶんこっちには魔法があるしどうにかしよう。
魔導。レベルに応じた魔法を使えて、さらには新しい魔法も作れるというもの。
水分を奪う...蒸発、乾燥.....。ううむ。簡単に水を奪ってしまおう。確かすでにそんな感じの魔法があったはず....。
「テイク・ウォーター」
テイク・ウォーター
簡単に言えば水を引き寄せるという魔法。本来は水魔法の特訓に使う初歩の魔法らしく、コップに水を入れて他のコップに入れたりして訓練するらしい。
それができるのなら別に物体から水分だけを奪うことも可能なんじゃないのかと思い、やってみた。結果は良好。さて、この水を...適当にボーン!
いやー俺に細かい魔力操作とか求めないでよ。ちゃんとシンクに流しただけ偉いと思う。
まあそれはさておき。
うん、いい感じ。パサパサというかパリパリというか。取り敢えずパン粉に見えなくはない。完成〜。
違う。ここからが本番だ。
パン粉は用意できたので肉の下ごしらえ?を始めよう。適当に切り込みを入れて塩胡椒をぱっぱと均等にかけていく。
「料理?」
「ん?ユイさん?」
誰かと思ったら、厨房の入り口から聞こえてきた声はユイさんのものだった。
「.....トンカツ?」
「おお、よくわかったな」
「本で見たから...」
若干照れ臭そうに頰を染めるユイさん。やっぱり年相応の女の子だなぁと思った。
「なんとなくしか覚えてないんだけどなぁ」
「なら教える。小麦粉は?」
「あぁ〜そうだ、それだ」
お母さんが作ったのを思い出しながらやってたけど、なんか足りないと思ってたんだよ。........いやマジで。
「まんべんなく、余分な分は落として」
「了解」
パンパンと適当に裏表に小麦粉をまぶす。言われた通りに満遍なく、余分な分はしっかりと落として。
「............」
.....何かな?ジーと見ているので居心地が悪いというか緊張する。
「えと、一緒に作る?」
「ん」
短く答えて袖を捲るユイさん。だがその、手が届いていないのが微笑ましい。
「む、笑ってる?」
「くくっ、ごめんごめん。昔の妹に似てて可愛くて....。ほら、魔法盾」
淡い薄紫色のシールドを四角形に組み立てて丁度いい足場にする。それなりに魔力を込めて作ったのだが、ユイさんは怖いのか少し観察した後、ゆっくりと乗った。
「なるほど。魔法は便利」
「だろ?」
俺が作った魔法ではないのだが自慢げに胸を張る。いいじゃん別に。足場にしたの俺だし。
手が届くようになり、作業を始めるユイさん。やったことがあるのかテキパキと効率的で素早い。チラッと見た限りでは満遍なくできてるし、余分に持ってついてなかった。思わず二度見した。
「なるべく多く作りたいからバンバン作ってくれる?」
「ん」
さて、じゃあ俺はそろそろ油をあっためますか。最初は温度低めだったよな。
「ミヤおばさーん!デカイ鍋あるー!?」
いつのまにか遠くに行ってたので少し大きめの声で聞いてみる。
「その辺のを適当に使いな!」
その辺の.....ん!?あれ鍋か!?浴槽くらいのでかさの鍋が天井にくっつけられていた。一気にできるならそれでいいか。問題はどうやって取るかだが......。
「シールド。シールド。シールド」
三連シールドで階段を創り出し、登る。手が届いたけどどうやって取ればいいかわからない。いいや、アイテムボックスに入れてしまおう。
「よいしょ」
別に声を出すほどでもないけど。
大きな鍋をこれまた大きなコンロ(?)に乗せる。使い方は.....これか?
「お、ついた」
魔石っぽいのがあったのでその辺を弄ったらできた。
そして出しておいた油をドポドポと入れていく。一本では足りなかったのでもう一本。さらにもう一本。結構量が多めの瓶を開けたのに3本も使ってしまった。
「さて、こんなもんか」
「こっちも全部できた」
「おお!ありがとう」
台の上には大量の揚げる前のトンカツが出来上がっていた。適当に作ったようなものではなくどれも完成度が高い。
「アレだな。いいお嫁さんになるな」
「ふふん」
小さな胸を張っているのがとても微笑ましい。小動物っぽくて癒されるな。
「じゃあどんどん入れていこう」
パチパチと小さくはねる油の中に大量の肉を投入していく。ジュワアアという音と共に油のとぶ量が増える。個人的な話だけど、この『ジュワアア』っていう音よくない?なんか気持ちいい。
その後も火を強めたりしていい感じの焼き具合....揚げ具合になった。
「さて...と」
自分の手を水で濡らし、シールドで手を覆う。そしてそのまま煮えたぎる油の中に手を突っ込み、アイテムボックスに出来上がったトンカツだけを収納した。
アイテムボックスの中は時間が経過しないので好きな時に熱々のトンカツを食べることができるのだ!
「上手にできました〜♪」
「モン○ン?」
「....よくわかったね」




