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33話



「待ちくたびれたぞ!」


準備満タンといったようなコウキがすでに訓練場の真ん中で待っていた。観客の人たちもやっときたかとばかりに身を乗り出す。


「お前…それ…」


「これかい?安心してくれ、寸止めしてあげるから」


コウキは本物の剣を装備していた。素人ち毛が生えた程度のやつが寸止めなんてできるはずもない。少なくとも信用はできない。


さらに防具も万全といった格好でライトアーマーを装備している。イケメンとあってカッコいいとか思ったけど試合じゃ意味ないよなそれ。重くなるだけだよな?


「そうか。俺は当てにいくからな」


「ふふ、当てられるかな?」


ぶっ飛ばしてやるコイツ。スキルを使えないとでも思ってるのだろうか?それとも自分に自信があるのだろうか。残念だが超鑑定でスキルもスキルレベルも丸裸なのでそこまで実力のないことはわかっている。


大方地球ではハイスペックだったんだろう。どーせリア充だったんだろう?けどその鼻っ面をへし折ってやるよ。物理的にもな!


「ルールはどちらかが降参するか動けなくなるまで!魔法もスキルも有りの決闘でいいな!」


「僕は何でもいいよ。お前に勝って3人を解放する!」


はっ!やってみろや。


「では!開始!」


「いくぞ!うおおおお!」


開始と同時にコウキが突っ込んでくる。なかなかの速さだろう。


「だが遅い」


「なっ!」


リサに比べればあくびが出るほどのスピードだ。そんなものでは俺には当たらんよ。


「逃げ足はなかなかみたいだね」


「ほざいてろカスが」


「何だと!もう一度言ってみろ!」


「喚くな、その口を閉じろ。不愉快だ」


「貴様!」


またも馬鹿正直に突っ込んでくる。と思ったが今度は魔法を使うようだ。詠唱の終了を親切に待ってやる。


「ライトニングボール!行け!」


光の玉が迫ってくるが、直線的なので簡単に避ける。


「それで終わりか?」


「ちっ!………ライトニングアップ!後悔するなよ!」


身体強化の類だろう。身体を薄く輝かせて走ってくる。少しスピードが上がっている。


「ハアアア!」


「ぐっ!」


やはり俺よりパワーがあるな。まあわかってたけどね?レベルが違うとはいえ評価がアレじゃあね。鍔迫り合いから抜け出すも、また切りかかってくる。


何度も打ち合っているうちに俺の持つ木剣にヒビが入る。


「これで終わりだ!ハア!」


掛け声ともに振るわれた剣が俺の木剣を叩き折った。折れた木剣が宙を回転する。


「降参しろ」


そう言われるが俺は無言で折れた木剣を構える。周りからザワザワと声が聞こえる。


「その姿勢だけは褒めるよ。でもこれで終わりだ!」


大上段から振るわれる剣を前に、観客は息を呑み、コウキは笑みを浮かべる。そしてーーー俺もまた笑みを浮かべていた。


「聖剣召喚!」


俺の召喚された剣を取り、今もなお振り下ろされる剣に打ち付ける。勝利を確信してたためだろうか、今度はコウキの持っていた剣が宙をまう。


もちろん俺の聖剣も砕け散るが。


「ほら、拾えよ。ただの不意打ちだろ?」


「わかっている!」


慌てて剣の落ちた方へ走っていくコウキ。そこに俺は再度召喚した片手剣を投擲する。もちろん直撃はさせずにズラす。


「おいおい背中を見せたらダメだろ?」


「ーーーっ!!!僕を舐めるなああ!」


魔力が膨れ上がり、コウキの髪がなびく。


「絶対に後悔させてやるからな…」


明らかに起こっているのがわかる。が、それは俺も同じだ。人様の大切な人たちを物扱いし、挙げ句の果て関係のない人たちまで巻き込む。怒る理由にしては充分だ。


「ならば見せてみろ青二才」


「いくぞ!ライトニングソード!」


拾い上げた剣とは逆の手に純白の剣が現れる。今度は二刀流か。…だから?


俺は右手にアイテムボックスに常に入れている上物の剣を、左手に聖剣を持つ。そして今度は俺から攻撃させてもらう!


お互いの剣が打ち合い、甲高い音が響く。俺たちは睨み合う。俺はコウキの目をこれでもかと睨み……足技をかけた。


「なっ!?」


俺を睨むことに必死で足元を見ていなかったコウキは簡単に引っかかった。


「ほら、立てよ」


「ーーーっ!」


剣を握りしめて悔しがっているのがわかる。俺はそれを見て嗤う。本気を出してなお、倒せないことに苛立ちを感じているようだ。


「実力の差を思い知らせてやるよ。ファイアーランス」


無詠唱で炎の槍を生み出す。


「サンダーランス、ロックランス、ライトニングランス、ダークネスランス、ウォーターランス」


「なっ!?」


全属性のランス系の魔法を展開。実はこれが限界だったりする。魔力的にも、スキルレベル的にも。


「行け」


俺は命令を下す。全ての槍が、ある程度のインターバルを置いて発射される。それを必死で躱すコウキ。

全ての槍を躱し終えた後には泥だらけになって肩で息をするコウキの姿があった。


「ふん、見ていて滑稽だな」


「黙れ…」


「あれだけ生意気なことを言っておきながらこのざまか」


「黙れ!僕はお前に勝たなくちゃ行けないんだあああ!」


再度魔力が膨れ上がる。風が吹いて砂埃が舞う。


「受けてみろ!ホーリーレイ!」


コウキが両手を合わせて、銃の形を作る。突き出した人差し指に魔力が集まっていき、そこから純白の光線が放たれる。


だが!フィアに比べると魔力変換率も悪く、乱れまくっている。そんなものでは俺は倒せない。


「聖剣召喚!」


俺は手を掲げ、コウキとの間に一直線上に聖剣を無数に召喚する。俺とコウキの間に様々な種類の剣が召喚され、光線を防ぐ。貫通力のあるホーリーレイは序盤の聖剣を貫通していったが、だんだんと勢いが弱まりとうとう止まる。


「うおおおおおお!」


「頑張っているようだがそんなものでは俺の聖剣は砕けないよ」


「おおおあああああああ!」


ついに光線が細くなっていき、消えた。魔力がもう感じられない。尽きたか。


「ふん、終わらせてやる」


俺は手を頭上にかざし、巨大な体験を召喚する。そしてそれを思い切り振りかぶりーーー地面に叩きつけた。


「…え?」


「ほら、早く降参しろ」


「ぐっ!僕はまだ戦え…」


立ち上がろうとするも、口を押さえて膝をつく。わかるぞその気持ち。俺も最初バカみたいに魔力を使いすぎて吐きそうになったからなぁ。


しかし、気丈に振る舞ってももう戦えないのは目に見えている。魔力も限界まで振り絞って使っただろうしな。


「勝者、ソラ!」


『うおおおおおお!』


観客たちから一斉に歓喜の声が上がる。やはり自分の国の勇者が勝つのは嬉しいんだよね。


「くっ!…うぅ」


「……………マナ・トランスファー」


俺はたった今構築した魔法を使い、魔力をコウキに譲渡する。これだけでもだいぶマシになったと思うが。


「何を…?」


「魔力を渡しただけだよ」


「そんなことが出来るのか…」


「まあね」


「ソラー!」


「おわっと」


走って抱きついてきたのはティアだ。コイツあぶねえなあ。後ろからの不意打ちはダメだろ。


「危ないだろティア」


「エヘヘ嬉しくって!」


屈託のない笑みを浮かべる。なんだかこの体勢は昨日のことを思い出す。そのせいで若干頰が熱くなる。ティアも思い出したのかハッとした表情を浮かべるとゆっくりと離れる。


「あーそれで俺が勝ったってことでいいよな」


「くっ!悔しいが認めるしかないようだね…!」


「それで俺が勝った場合は3人と同等の価値のあるものをもらうという話だったはずだ」


「ああそうだ」


今度は話が通じたことに少し喜ぶ。俺は多分ここ最近で一番いい笑顔を浮かべる。


「じゃあそうだなぁ。サユリさんとユイさんとレシアさんを貰おうかな」


「なに!?」





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