32話
コウキに連れられ、訓練場へと歩かされる。
「一体ここに何の用があるんだよ…」
「勿論決闘のためだ。けどこのままだと君は逃げるだろうからね。だから観客を呼ばせてもらうよ」
そう言った瞬間魔法を準備していたのだろう。爆発が起きる。かなりの音だったので城の中にいる人は大抵慌てるだろう。
『何の音だ!何が起こった!?』『確認中です!』『まさか魔族が攻めてきたんじゃないだろうなっ!』
耳をすませば聞こえてくる。レベルアップの影響か五感の性能が上がってる気がする。
「大丈夫さ。貴様が準備している間に言伝を頼んでもらった。すぐに来るさ」
その言葉通り城中の人たちが集まって来てる気がする。すごい慌てようだ。ティアやフィアに加えて国王、大臣などお偉いさんから、メイドさん達まで集まってきている。
「な……だ!」
「わか…ん!で…がコウ…が…まるよう…と!」
「なに…!よそ…していた…か!」
「分かりませんが急ぎましょう!」
バン!
国王の登場だ。お付きの人と肩を上下させながらあたりを見渡している。
「みなさん!この度は集まってくれてありがとう。今から僕たちはティア、フィアそして1人メイドをかけて決闘を行う!」
この言葉に集まった全員がポカンとしている。指名されたティアとフィアは『えっ?私?』などと慌てている。
俺はというと深呼吸して自分を落ち着かせてる。落ち着けー俺ー。
「まさかそのために読んだのか?」
「その通りだ!」
やっぱりなぁ…。希望は途絶えた。はあ…とりあえずお帰り願おうか。
「えーすいませんみなさん。そういうことですので、お帰り下さって結構です」
「そうやって逃げるつもりだろう!みなさん待ってください!みなさんには勇者同士の決闘を見届けていただきたい!」
何だぁ…と帰りかけていたみんなが勇者同士の決闘という言葉に反応して足を止める。国王なんてバリバリ食いついてるし。
「よかろう!国王たる私がしかと見届けよう!」
「ありがとうございます!」
あーもうこの勇者バカは…。決闘の詳細なんか知らんくせに勢いで承諾するんだから。
「確認する!僕が勝ったらティアとフィアそして1人のメイドもらい受ける!!」
確認する!とか言ってるけどおっさんがポカンと口を半開きにしてるぞ。観客のみんなは女の取り合いか?などと言ってるが断じて違うぞ。
「ならお前は代わりに何を差し出す?」
「言っただろ。3人はお前にやると」
同じ言葉に心底苛立つ。
「お前は3人を自分の物だと勘違いしてるんじゃないか?アイツらはテメエのもんじゃねえぞ!巫山戯るな!」
「フン、そう怒るな。落ち着け」
コイツは人をイラつかせる天才だなっ。
「…すまない。でだ、アイツらはテメエのもんじゃねえ。よって別のに返させてもらう。お前は3人をもらうといったな。ならば俺はそれ相応のものをもらい受けるぞ!いいな国王!」
「あ、ああ!」
「やっとやる気になったかソラ。ならば10分後に開始だ。それまでに準備をしておけよ」
「わかった…」
そう言って互いに逆方向へと歩き出す。十分か、準備には充分な時間だが今の俺には足りなさすぎる。勢いに任せてくだらない事をやることになるなんてな……。
そう思ってるとティアとフィアが出口で待っていた。昨日のことがあった分少し気まずいなぁ。
「「ソラ(さん)」」
「あースマン。さっきの事は反省してる。勝手に賭けに出しちまって悪かった。なんなら今からでも土下座してこようか?」
「あ、それは別にいいです」
「いいのかよ!?」
「それよりも…言いたいことがあるわ」
真剣な表情のティアに思わずゴクリと唾を飲む。
「アイツボコボコにして来て」
「え?そんな事?」
「そんな事とは何よ!アイツほんとーにムカつくんだから!勝手にもらい受けるとかなんとか…っ!私らは奴隷じゃねえっての!」
「お、落ち着けティア。口調が乱暴になってるぞ」
「そうですよ!本当の勇者じゃないくせになんであんなに偉そうにしてるんでしょう!集まるように言ってきたメイドさんも大変そうでしたよ!あんなやつけちょんけちょんにして下さい!」
荒れてんなぁ。でもさ、忘れてるかもしれないけど
「俺スキルがわからないんだけど」
「「あっ」」
そう、俺がなんのスキルを持ってるのか理解できてない。超鑑定も渡しちゃったから。それに魔導とか聖剣召喚とか全部渡しちゃったからなぁ。
「というわけで鑑定紙もってない?」
「す、すぐにとってきます!」
「転ぶなよー」
「あっ、それなら私たちは先に準備しちゃいましょう!剣!槍!?」
「片手剣で」
「ハイ!」
ガチャガチャと樽の中から片手用の木剣を取り出して渡してくるティア。今日はやけに献身的だなぁ。やっぱりアイツのところが嫌なのか、ボコボコにして欲しいのか…。
「持ってきました!」
早いな!?全然時間経ってないぞ!?せいぜい手に馴染む木剣を探したくらいで!
俺はあの詠唱をする。鑑定紙が光を放つ。
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ソラ・アカツキ 人族
レベル3
力:I
耐久:E
知力:A
敏捷:F
魔力:I
スキル
アイテムボックス
超鑑定
魔導
全言語理解
聖剣召喚
算術
詐欺術
逃走
頑丈
剣術
体術
称号
勇者
耐え忍ぶ者
格上殺しジャイアントキラー
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「「「えっ…?」」」
そこに表されたステータスは前回のものと殆ど同じ鑑定結果だった。多少スキルレベルは減っているがほぼ何も変わっていない。
「超…鑑定」
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ソラ・アカツキ 人族
レベル3
力:I
耐久:E+
知力:A+
敏捷:F-
魔力:I-
スキル
アイテムボックスEX
超鑑定
魔導LV3(DOWN)
成長補正(小)
全言語理解
(LOST)
聖剣召喚LV4(DOWN)
算術LV7
詐欺術LV6
逃走LV5
頑丈LV4
剣術LV2
体術LV2
称号
勇者
ステータスの全てが微上昇。スキル「成長補正」「聖剣召喚」を入手。
耐え忍ぶ者
耐久値のアップに成長補正がつく。頑丈のスキルを入手。
日々苦痛に耐え続けたものに与えられる。
格上殺しジャイアントキラー
自身より格上の相手に対してダメージが増加する。格上の相手を一回の戦闘で2体以上倒したものに与えられる称号
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鑑定結果を見た瞬間頭の中で様々なピースが組合1つのパズルが完成した気がした。
仮に…あくまで仮の話だが、超鑑定を使う事で熟練度のようなものが溜まっていたとしたら?
例えば剣術スキルなら剣を使っていくうちにスキルレベルが上がっていく。このシステムがアイテムボックスなどのスキルにも通用したらどうだろう?
一番使ったのが聖剣召喚。その熟練度はこの短期間でレベルが上がるほどだ。神からもらったのは最初の熟練度だけで、残りは全て俺の…俺自身で稼いだ熟練度だ。
だからスキルレベルがダウンしたのではないだろうか?
今のところこれしか思い浮かばないが、正解に近いのではないだろうか?状態異常になる機会はなかったのでしょうがないが、それ以外はわかるかもしれない。
アイテムボックスは何回かも使ってるし超鑑定は言わずもがな。言語理解はおそらく本じゃないか?獣人のことなんて多分獣人族が書かないと出来ないだろうし、それ以外にもたくさん読んだからな。聖剣召喚は1日に出来るだけやってたからなぁ。
成長補正は何だ?もとからの才能かもしれないしレベルアップの熟練度かもしれない。………才能だといいなぁ。
ま、何はともあれ、このスキルたちは正真正銘俺のものだ。俺の力だ。これでお望み通りボコボコにしてやれる。正直俺もアイツに対してストレスはかなり溜まってるからな。
奥の手は使わないにしても手札は数枚切っていこう。
「クククク…」
「ソラさんが悪い顔してます…」
「自分で頼んでおいてなんだけどアイツの事が心配になってきたわ…」
さあて…どう料理してやろうか。フヒヒヒヒ…。




