29話
神託……ね。
ここから簡単に纏められることは3つ
・俺ではなく、彼女が真の勇者である。
・そして俺の所持するスキルを彼女に譲渡することが出来る事。条件は触れること、念じること。
・そして彼女に譲渡した場合、彼女の所持するスキルをある程度受け取ることが出来ること。
こんなところだな。
さて、ここから考えられることはイースニル王国で召喚された勇者は全員ろくなスキルを持っていないのか?さらに召喚されても真の勇者がいるためほとんど意味はないということか?
とすると彼女にスキルを返さないといけないわけだが、返すとなると俺が超鑑定スキルを持つことがバレてしまうかもしれない。………いやまてよ?俺がチートスキルを返したらどうなる?俺はただの抜け殻になり、雑魚に成り果てる。そうすれば魔王討伐なんか行かなくてもいいんじゃないか?
「ちょっといいか?」
よしバレてもいいや。どうせ無くなるんだし。打ち明けてしまおう。
「あー怒られても仕方ない事だと思うが聞いてほしい。俺には超鑑定というスキルがある。このスキルで鑑定紙がなくともみんなのステータスがわかるんだ」
「なに?自分は見せないのに僕たちのステータスは見るつもりだったのか?」
コウキが怒声を混じらせながら聞いてくる。勿論そのつもりでした!
「いやそのつもりは無かったのだが、そう思われても仕方のないことをした。すまない」
詐術が絶好調です。
「だが、謝る事はもう1つあるんだ。サユリさん、君はあの時…事故に遭いそうになった瞬間光に包まれただろう?アレは君を召喚するためのものだったんだ」
「ええ?ソラさんの光じゃなくて?」
なにこの子、人間が光るわけないじゃないですか。
「だから俺が持つスキルは本来君のものらしい。手違いで俺のところに来ていたみたいだが、超鑑定スキルを使ったら君に俺のスキルを譲渡出来ることがわかった。だから返させてもらうよ」
「ちょ、ちょっと待って!スキルを渡したらソラさんはどうなるんですか!?話せなくなるんじゃ?」
「別に問題ないよ。神さまが気を利かせてくれたみたいだ」
その言葉に安堵したサユリさんだったが、思わぬところで邪魔が入った。
「待ちなさいよソラ…」
ティアだ。
「そうなったらソラは勇者じゃなくなっちゃうんじゃないの…?」
その言葉に全員がハッとする。余計なことを!
「何か問題でもあるか?俺じゃなくてサユリさんが魔王を討伐してくれるんだったら問題ないだろ?」
「そう…だけどっ!勇者じゃなくなったらあんたはどうするつもりよ!」
もう完全に丁寧な言葉使いが崩れてるな。それにしてもなんで怒ってんだ?
「そうだなぁ…旅にでも出るかな」
「ええ!?城に残ってくれるんじゃないんですか!?」
「何を驚くんだ?もう残る理由もなくなったしな」
俺の言葉にやっぱりという表情のティア。そして悲しそうな顔をするフィア。
「何で悲しそうな顔をするんだよ。厄介払いできていいだろ?」
パシン!
言い終わった瞬間ティアから平手が飛んで来た。突然のことに反応できず、呆然とする。
「いてぇな…何をーーっ!」
突然叩かれれば怒る。なので文句の1つでも言ってやろうかと思った。だが、ティアの泣きそうな顔を見て止まる。
「バカっ!」
「なに…?」
さらに罵倒され、いよいよわけがわからなくなる。すると後ろから軽い衝撃が来た。
振り向くと俺にしがみつくフィアがおり、目に涙を溜めながら俺を見上げている。
「ソラざんはバカでず!」
「はあ?フィアまでいったい何を」
「自分を厄介者みたいに言わないでください!出て行くなんて言わないでくだざい!」
泣きながら俺を引き止めてくるフィア。
「居なくならないでください…グスっ…一緒にいてくれないと…ざびじいです…」
「わからん…何で俺なんかを引き止める?勇者じゃない俺には何も利用価値なんかないだろう?」
そう言うと、今度は胸に衝撃が来た。今度はティアか。何なんだよ…。
「グスっ…また自分のことを貶してる…。そんなわけないわよ!あんたは魔王の影響で沈んでいたみんなに元気をくれた!私に元気をくれた!あんたが…あんたがいないと寂しいの……」
普段と全然違うティアに困惑しっぱなしの俺。いつも厄介者みたいに俺を扱ってたのにこんな反応をされるとどうしたらいいかわからなくなる。
「そうですよ…。居なくなったら寂しいです……」
抱き着いたままフィアも言ってくる。……ハア。
「とりあえず泣き止んでくれ。とりあえず今すぐ出て行くわけじゃないし、まだ予定も決めてないから」
曖昧な答えを出す俺に2人の力が強まり、ぎゅっと締めつける。
「……あーもうわかったよ!行く当てもないし、暫くはお前たちと一緒にいるよ!」
「暫く…?」
「ぐっ!フィア…。わかったよ…ずっとお前たちと一緒にいるから泣き止んでくれ」
そう言い、抱き着いたまま顔を俯かせる2人の頭を撫でる。妹にも昔やっていたので思わず撫でてしまったが、腕の力が緩んだだけでされるがままだったので、しばらくの間撫で続けた。




