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26話



キィと扉が開く。


隙間から溢れ出て来た光に一瞬顔をしかめる。そして完全に扉が開く。まず目に映ったのは辺りを照らす大きなシャンデリア。光る魔石をたくさん使っているのだろう。とても広い会場を隙間なく照らしている。


次に人数の多さだった。今まで親戚の集まりくらいの人数だと思っていたけど予想以上に人がいる。老若男女、その全ての人たちが微笑を浮かべ、片手にワインかなんかを持ちながら談笑している。行動の1つ1つが美しく洗練されている。


「あの方が勇者様かしら?」


誰が呟いたのか分からないがその声が上がる。何故か大きな声ではないのだが、会場に響き渡る。この世界では黒髪黒目というのは定番だけど珍しい。だからというわけでは無いがなんとなく視線は感じていた。


「そうです、この方が我が国の召喚に応じてくださった勇者です!」


『おおぉ』と声が上がる。やめて下さいマジで。そんな器ではないですよ。つーかおいフィア、お前やっぱり俺を勇者仕立てあげようとしてんだろ!


あぁぁ、紹介されたけどどうすればいいのか全くわからん!


「とりあえず自己紹介でもなんでもしなさい。敬語には期待してないけど相手を不快にすることは止めるのよ」


ティアが小声で助言してくれる。ティアは顔は前に向けたままで口元を少し動かし、俺にだけ聞こえる絶妙な声量で教えてくれる。


しかし、お偉いさんに対してどう挨拶しろと?


「えーご紹介に預かりました勇者ソラ・アカツキです」


言いながら考える。もはや自分が勇者では無いと言えない。空気がそれを許さない。

ならば今の最善の手を選べ!

自身にとって最高の結果を!

相手に疑問を持たせずに!

俺が!魔王討伐に行かなくて済むような完璧な挨拶を!


「先ずは皆様に会えたことを光栄に思えます」


俺にはこの手のことは全くわからない。なので先ずは相手を褒める!


「そしてこのような場を設けてくれた事に感謝を申し上げます。始めに私は勇者と言いましたが、自分がそんな大層なものだとは思っていません。私なんぞが魔王を倒すことなんて想像できません。ですが!私は諦めたわけではありません!皆様の、人類の力を合わせれば不可能は無いと思います!

ですので勇者などという肩書き関係なく協力できればいいと思ってます。

長々と申し訳ありません。私からは以上です。ありがとうございました」


深々と頭を下げる。次には拍手が送られてきた。良かった。失敗したわけではなさそうだな。


安心し小腹もすいてきたので美味しそうな料理がテーブルの上に置いてあったので早速食べようと思ったのだが、


「いや、勇者殿…いやソラ殿!先の演説は素晴らしいものだった。私も同じ思いだ。是非とも協力して行こう!」


渋いイケメンに呼びかけられ、さっきの演説と言えるのかわからんが演説を褒めてくれる。そして、笑顔を浮かべ、手を差し出してきた。


握手しろということか?このままにしておくのも悪いので手を握る。するとギュッと握り返された。


「はい。ありがとうございます。私には礼儀作法というのがイマイチよく分からなかったので、何か下手をしてしまわないか内心ドキドキでしたよ」


口からデタラメを吐きまくった俺をこんなにも褒めてくれるなんて…居心地が悪い!


「ハハハ!ご冗談を!伝聞に伝わる勇者は少々乱暴だと聞いていたが、どうやらソラ殿は当てはまらなかったみたいだ。安心したよ。今時の若い貴族もソラ殿を見習ってほしいものだが…。ゴホン、失礼。愚痴になってしまったな。ちなみに、ソラ殿の指導はお二人が?」


「いえ、私ではありませんよ」


「私でもございませんわ。ソラ様ご自身のものですわ」


「ふむ、そうか。ソラ殿は元の世界では位の高いお方なのか…?ゴホン、では済まないが私は失礼させてもらうよ。準備もあるのでな」


そう言って名前も知らない渋いイケメンは去っていった。


準備とはなんだろうとか疑問が出てくるが…それよりも、そんなことよりも!



「「おあんたって敬語使えたの!?」」





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