22話
「酷い目にあった……」
多分この言葉が一番しっくりくると思う。俺、何も悪くないのに……。フィアとエンカウントした後、『その、わるい。俺出るからゆっくりして行ってくれ』『い、いえ。確かめなかった私が悪いんですし……。あれ?ティア?ソラ…さん。これは一体どういう……?』フィアが顔を真っ赤にしたティアを見たせいで……ちょっと言葉に表現できない事をされた。
さらにティアからは変態の称号をいただいた。いらねえ。
その後は自分に回復魔法を掛けてから気絶するように眠った。ベットに倒れこんだだけだったのに朝起きたら掛け布団を掛けられていた。多分テレスだろう。いいメイドだ。
朝起きたと言ったがやはり疲れていたみたいで、夕方くらいに寝たはずなのに次の日の昼まで寝てしまった。休みの日を無駄にしてしまった。
何かをしようにもこれからご飯を食べて歯を磨いて着替えて……なんてやってると意外と時間がかかる。それに筋肉痛がひどいのでさらにやる気が起きない。
なので図書館で時間を潰すことにした。ティアかフィアと話そうにもね……。
王城内の図書館というだけあっていい本がたくさん揃っている。分かりやすい本、まとめてある本、専門的な本など。ボロボロで歴史を感じさせるものもあった。とても大事に保管されている。
試しにその本を取ってみる。
全言語理解スキルのおかげで難なく読める。読めるのだが……内容が理解できない。文字は理解できるんだが、文書の意味が理解できない。
開始1分もかからないうちにギブアップ。読んでて面白くもないし。ラノベみたいなものが読みたい。
本をもとの場所に戻して次の本を探す。
お、これとか良さそうだな。
なになに、『勇者伝記』。シンプルだな。まあ取り敢えず読もう。
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……うん、面白かった。
流れは王道の勇者の物語だな。召喚された勇者がだんだんと仲間と共に苦難を乗り越え強くなっていく。聖剣を手に入れ、魔王城の前で決意を新たにして倒しに行く。そして無事に魔王を倒し、お姫様と結婚して幸せに暮らしていくという物語だった。最近のラノベだと王道ものが少ないから新鮮で面白かった。
「ふぅ…」
俺は読み終わった後のこの感覚が好きだ。10分ほど余韻に浸る。あんな場面やこんな場面を思い返して俺だったらこうしたなぁ、俺にはこんなこと無理だな、ここが面白かったなどと思い返す。
そしてもう一度読み返す。
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「うん」
良きかな。
二回読み返すと一度目では気がつけなかった面白い点に気がつける。それを探すという作業自体も面白い。
さて、そろそろ次の本を探すか。
よし、これが面白そうだな。
『獣人の特徴』
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勉強になった。獣人といっても本当に色々な種類のものがあるらしい。犬、猫、ウサギ、トラ、クマ、などなど。動物の種類と同じくらいいる。身体能力がその動物の特徴によるらしい。ウサギなら脚力。トラなら戦闘能力だとか。どのように進化していったのか非常に気になりますね。
さて、そろそろいい時間だな。お腹も空いたし飯飯。
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「お、今日はステーキか」
食堂に行くとステーキをメインとした豪華な料理が準備されていた。香ばしい匂いが食欲を誘う。じゅるり。
出来るだけみんなと食べるようにしているが、やっぱり一国の王となると忙しいらしく、国王は今いない。いるのは俺、ティア、フィアの3人。セレスは同僚の人たちと食事だ。
「はい!リサさんたちが狩ってきてくれたミノタウルスのお肉を使ってるみたいですよ」
「そ、そうか」
そうなのか。牛じゃなくミノタウルスね…。まあ美味しければなんでもいいか。
「ソラさんは今日は何をしてたんですか?」
「ん?今日は昼まで寝て起きたら図書館で本を読んでたよ」
「へーえらいですね」
「ふん、どうせ絵本とかそういうのでしょ」
「んなわけあるかっ。確か勇者伝記と獣人の特徴という本を読んでたよ」
「あ!それなら読んだことあります!勇者様が魔王を倒すお話ですよね!」
「そうそう。ありきたりだけど、面白かった。そうだ、何か面白い本を紹介してくれよ。この後暇だからさ」
「そうですね〜。『魔王様のおはなし』とか面白かったですよ。優しい魔王を主人公にしたお話で」
「ほー、それじゃ見てみるよ。ティアはなんかないの?」
「……別に」
「なに怒ってんだよ。いいだろ?それくらい」
「うるさい。私部屋に戻る」
「あっ、ちょっとティア!」
急に機嫌を悪くして行ってしまった。何かまずいことでも言ったしまったのだろうか?
「すいません…」
「別に…そこまで気にしてないけど。何か俺まずいことでも言った?」
「いえ…。でもティアも悪気があったわけじゃないと思うんです!」
「うん、最初に比べたらだいぶマシになってけどせめて理由を教えてほしい」
「そう…ですね……。もう話してしまった方がいいかもしれませんね……。わかりやすく、簡単に説明します。勇者を召喚すると決まった時、同時に召喚された勇者と私が結婚することになっていました」
「はあ!?」
「そうすることで勇者が敵対しないようにしたかったのです。私もそれには納得してました。でもティアは納得いかなかったんでしょう。好きでもない相手と無理やり結婚させるのは違うと」
まあそりゃあ嫌だろうけど…。貴族とかならよく聞く話だけどな、ラノベでは。所謂政略結婚ってやつ。
成る程な、だからティアは最初から俺への態度が悪かったのか。おいおい、フィアもティアもシスコンかよ。
「でも勇者本人が望まなかったらどうするんだ?」
「惚れさせるしかないでしょう。身体を使ってでも」
「うわ」
無いわ〜。
「うわって酷くないですか!?私ってそんなに魅力ないですか!?」
「うおっ、いや別にそんな事ないぞ?可愛いし素直だし胸でかいし。男だったら大抵虜になると思うぞ」
「あ、ありがとうございます。でもその言い方だとソラさんが男じゃ無いみたいな言い方になっちゃいますよ?」
「大抵って言ったろ。それに……お前ビッチじゃん」
「ビッチっ!!!?!?」
「だって相手が誰であろうと身体を使うんだろ?」
これをビッチと言わずになんと言おうか。
「そうですけど!そうですけどビッチじゃないですよぉ!」
「ハハハ、悪かったって」
意外と精神的ダメージがあったようで器用に椅子の上で足を抱えて『ビッチじゃないビッチじゃない』とぶつぶつ言っている。
「だから安心しろよ。俺はフィアと結婚なんてするつもりはないぞ、ティア」
俺はティアが出て行った扉に向けて呼びかける。
「ティア?」
「うっ……なんでいるってわかったの?」
「だって足音が途中で止まってたし。ご飯全然食べてなかったからどーせお腹すいてやっぱり食べようかなって思ってるのを予想しただけさっ!」
「うぅ〜!」
「いやー笑いを堪えるのが大変だったよ!」
「うるさいわね!」
だってティアの紅く綺麗な髪が扉の隙間からフリフリしてるのがチラチラ見えてたんだよ。恥ずかしいよな、あんな風に出て行ったのにお腹が空いて戻ってくるのは。ぷぷ。
「そ、それより!本当にお姉ちゃんと結婚するつもりはないの…?」
「当たり前だろ。別にフィアに魅力を感じないわけじゃないが、結婚したらあれだろ?俺が王様になるんだろう?ぜっっったいにめんどくさいじゃん!王様にならずとも王族の仲間入りだろ。嫌だね俺は」
そもそもリアルの女にあまり魅力は感じない。無論俺の好みのタイプだったら全力でアピールつるつもりだが、そんな人は居ないと中学で気がついた。ただ……
「そう、よかったわ」
「ソラさんは面白いですね!」
不覚にも美少女2人の笑顔にはほんの少しだけドキッとしてしまった。




