19話
「馬鹿じゃねえの馬鹿じゃねえの!?」
今俺は全力で走っている。何故って?それは俺の後ろをゴブリンの集団が追いかけて来ているからである。チラッと鑑定してみると、ゴブリンの中にハイゴブリン、エリートゴブリンなどいろいろなゴブリンがいた。そいつらに今追いかけられているからだよ。
え?何故追いかけられているのか?
ははは、それはほんの数分前に遡る……。
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「見なさい」
ティアが指差した方を見ると、小さな身体に醜い顔をした緑色の生物がいた。アレは俗に言う……
「ゴブリン?」
「そうよ」
「知ってるんですか?」
「ちょいと書物を読んでね」
聖典による予習は万全だ!
「へえ、意外と真面目じゃない」
「意外は余計だ」
「ソラ、狩ってこい」
急に何を言いだすんだろうコイツは……。絶対に嫌だ。
「リサ……魔物だって生きてるんだぞ……!それを…それをお前は殺せと言うのか…!?」
「ふぇっ?い、いやでも魔物だし…」
「魔物だからなんだ?俺たちと同じ一つの命だぞ!」
「ひっ!で、でもみんなやってるんだぞ…?」
「みんな?お前は周りに流される人間だったのか……2人も聞いてほしい。周りが命を刈り取ることをおかしいと思わないのか?ゴブリンだって……アイツにだって家族がいるんだぞ!なのに何故嬉々として殺しに行く!?常識を疑え!真実を見極めろ!俺たちが今していることは何だ!?ただの虐殺じゃないか!
なあ、もうやめよう?きっとみんなが幸せになる道があるはずなんだ……。だからゆっくりと探していこう。それが勇者としての俺の役目「グギャアアアア!!!」どうわあああああ!?」
必死に説得しようとしてたのに邪魔が入る。こぉんの……!てめえぇ……!あと少しだったのに!あとほんの少しで落とせたのに…!3人が目をウルウルさせて俺を見ていたと言うのに…!貴様は
「死に去らせええええ!!!」
アイテムボックスから貰っていた剣を取り出し、今まさに俺を両断しようとボロボロの剣を振りかざすゴブリンの腕を切り落とす。
「「「………」」」
周りからの目がとても冷ややかなものに変わっているが俺は気がつかない。今俺の心は全てコイツを殺すことに向けられている。
俺が振り上げた剣はゴブリンの腕をサクッと切断。剣を持ったゴブリンの腕が何処かへと飛んでいくとともに血が舞う。俺はゴブリンに左足で回し蹴りをし、吹き飛ばす。
俺、実はサッカー部だったんだよね…。大嫌いだったけど。理由については今度話そう。
元サッカー部のステータスが強化された蹴りを喰らい5、6メートルほど吹っ飛ぶゴブリン。勢いが止まったゴブリンは腕の痛みに悶え苦しむ。
俺はそんな隙を逃しはしない。ゴブリンに向けてジャンプし、剣先をしたに向ける。
「グギョ!?」
すると当然剣がゴブリンの心臓あたりに向けて刺さる。
剣を抜くとやはり大量の血が舞う。見方を変えると真っ赤な花みたいで綺麗だ。
「「「………」」」
「ん?どうしたんだよお前ら?」
3人とも俺を見て固まっていると言うか信じられない物を見ているみたいな……そんな目をしている。
「あんた…容赦なく殺したわね……」
「ハハハっ!当たり前だろ?所詮は魔物だ」
「「「うわあ…」」」
すごく引かれた。
「ちょっと見直してたのに…」
「あんな考え方あるんだと思ってたけど……」
「やはりソラはソラか……」
おっと俺の評価が下がってる気がするなあ?
「ふむ、それより随分と余裕がありそうだったな」
「はい!いつもとは全然違ってかっこよかったです!」
おいおいフィアさんや、それだといつもの俺がカッコ悪いみたいじゃないか。
でもま、この程度俺の敵じゃなかったと言うことですわな。
「これならもっと集めても平気ね」
「は?」
「よいしょっと」
そう言いながら何もない空間から出したのは何やら変な匂いを発する袋。
「何それ?」
「ふふん。鑑定してみたら?」
何故かちょっと自慢げに言わる。そういやあったね鑑定。
「超鑑定」
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魔寄せの袋+
魔物が好み、興奮する匂いを発する袋。半径1キロメートルまで臭いが広がり、近いほど効果は増す。服につくとなかなか取れない臭い。
製作者により、近くにいる物に臭いが付着しやすくなっている。
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「んん?」
こんな物を取り出して何をするつもりって!
「居ない!?どこに行きやがったアイツら!?」
鑑定結果から目を離すと3人とも居なくなっている。え?これってもしかして………
「グルルルル……」
「マジかよ…」
狼っぽい魔物と目が合った。なんだか目が血走ってるように感じるが気のせいだろうか…?
「グギャギヤギャ」
「グググ」
「ゲゲ」
ドンドンと魔物が集まってくる。やはり目がおかしいぞ!
「グギャア!」
「ガウ!」
「ギヤギヤ!」
「ぬおおおお!?」
一斉に襲いかかってくる魔物たちから俺は全力で逃げ出した。
そして冒頭に戻る。
本当にこの国おかしいと思う。マジで脱走計画とか考えた方がいいかもしれない。……念のため、あくまで念のためだけど考えておこう。仮に生き残れたらの話だが。
逃げながら必死に考える。
とりあえずこれ以上風に乗って臭いが飛ばないためにもアレは処分しよう。
「ファイアーボール!……ウォーターボール!」
火で燃やしたあときちんと消化をしておく。さて、ここからが本番だ。倒すなんて考えない逃げることだけを考えろ!
「僕は死にましぇどうわ!?あぶね!?」
後ろのゴブリンが石か何かを投げきやがった!セリフはちゃんと言わせて欲しいっ!
けどふざけている場合ではないと再確認。匂いの元凶は潰した。ならあとはここにいる魔物を撒く、もしくは倒せばいいけど出来ないからね。
ただ、人間の足と動物の足じゃ全然違う。なのでみるみるうちに距離が縮んでいく。
それに走ろうにもなれない森の中ですごく走りにくい。逃走スキルが無かったら今頃死んでたんじゃないかな…。
「ウォーターボール!フリーズ!リトルウォーター!」
お馴染みのトラップを作り出す。狼型の魔物は面白いようにツルツルと滑っていく。これで溶けるまでは時間が稼げる……と思っていた。
なんと魔物たちは転んでいる魔物を足場として進んでくる。中には重さに耐えきれずに潰れる魔物もいた。
「なんだこの地獄絵図は!?」
狂気。何故死んだ魔物を狙わずに俺を狙うんだ?…そうだった、臭いが染み付いてるのか。
さて、どうするか。近くに川などがあればいいけどここの地理については全く知らない。マジでどうしよう。
悩んでる合間にも距離が縮んでいく。
「くそっ!聖剣っ……召喚!!」
巨大な3本の聖剣が輝きながら地面に突き刺さった状態で召喚される。これほどの大きさのものを同時に召喚するのは疲れる。だが、召喚された聖剣がバリケードの役割を果たしてくれる。
これでしばらくは時間が稼げるだろ……。ん?っと風が……おいおいおいおい!マジかよ!?突風が発生する。刺さった聖剣はグラグラと揺れ……倒れた。魔物側に。
「ぐ、グギャ!?」
慌てる声が聞こえる。倒れた聖剣は魔物を押し潰し、砕け散った。……うん、マジか。
砕け散った聖剣の下には潰れた状態の魔物たちが。皮が破け、内臓が飛び出し、地面に真っ赤な花を咲かせている。……グロい。
猛烈な吐き気が来た。あんな物を見てしまったからだろうか?身体が熱い…。頭が痛い…いや、全身が痛い。喉が焼けるようで立っていられなくなり、膝をつく。な…んだ…?これ……。
「ひ、ヒール!」
魔法を唱えるがうまく魔力を集中できず発動しない。
「せ、聖剣召喚!」
スキルは問題なく使えるらしい。聖剣を俺を守るようにし、ピラミッドのように3本の剣を召喚する。
そして意識を失った。




