15話
「グボア!」
はらにもろに攻撃を受けて吹き飛ばされる。地面を2回ほどバウンドして転がる。
「セアッ!」
「くっ!」
最近ではここまでなっても追撃してくる。何でも戦場では確実に追撃を仕掛けてくるからだそうだ。ここ戦場じゃねえし!戦場行く気ねーし!
痛みを堪えながら必死に転がり、自分にヒールを掛け続ける。未だに魔導のレベルが上がらない。ちなみに政権召喚はLV3まで上がったぜ。ブイ。
立ち上がり剣を構えた瞬間リサが距離を詰めてくる。相変わらず速い!俺のスピードでは見てからの反応では遅いので、目線や初動である程度予測しなければ反応できない。
「くっ!お、おお!」
「む!」
なんとか攻撃をいなし、バックステップで逃げる。反撃?無理無理、した瞬間吹き飛ばされるね。
「フッ!」
再度近づいてくるリサ。これは…突き!狙いは首か!?
「あぶねえ!」
殺す気か!?
「甘いな」
「しまっ!」
気がついた時にはもう遅く、足払いをかけられる。そのまま寝技に。
「さあ!どうする!」
「む、むがあ!」
肉に口を塞がれて息ができない。リサはそんなつもりはないんだろうが、引き締まったケツが邪魔である。
どうする?と聞かれたのでこうしてやった。
「痛!今噛んだのか!?」
「スキありーー!」
「な!くっ!甘いわああ!」
「はあ!?ぐぼおお!」
痛い…。
「お、お、お前は…!今私のお尻を噛んだだろう!」
「ただの肉だろ?気にすんな」
「そんなわけに行くか!私は女だぞ!」
うん、知ってる。だから?
「脳筋じゃん」
「決めた。ぶっ殺してやる」
「悪かったゴメン!マジで!」
目が!目が完全にマジだから!怖い!
「ふん!どうせ私は脳筋なんだ…」
今度は拗ねてしまった。めんどくせえ…。放っておこうかな。チラチラこっちを見てくるのがムカつく。
「ほら、お前には脳筋の事をなくせば良いとこが沢山あるだろ?綺麗な顔とか、プロポーションの良い身体とか、努力してるところとか、バカなとこ……純粋なところとか。魅力的な女性だようん。脳筋の事を考えなければ」
「お前は…そこまで私の事を思っていてくれてたのか!」
こいつ自分に都合の悪いこととか聞こえないタイプだろ。
「いや別に」
「そうか…いつも憎まれ口を叩いてる割に本当はそんな事を……」
「リトルウォーター」
「わたしは嬉ブフ!ガハっ!ゲボボ!」
何やら自分だけの世界に入り込んで行ったみたいなので、最初級水魔法で、水を呼び出して直接かけてやる。どうやら鼻に入ったみたいだ。
「ゲホッ!な、何をする!」
「ただの親切心だよ」
「そうか!やはりお前は……!」
うん。死ぬほどめんどくさいよね。時計を見ると未だに半分くらいしか時間が経っていない。ちっ、このまま飯喰いに行こうかと思ってたんだが……。
周りには合同で訓練…同じ場所を使っているだけだが、訓練をしている兵士たちがいる。彼らに任せてしまおうか…?あ、目が合った。
「なあ…勇者様よお…」
「俺は勇者じゃ「最近調子に乗ってないですねぇ……」
俺は勇者じゃねえ!と言おうとしたら被せてきやがったこいつ。
というかなんだ?一応敬語を使ってはいるが…なんかムカつく。
「別に調子に乗ってるつもりはないんだが」
「ハッ!どの口が言ってんだか……。女を侍らせて良いご身分じゃねえか。最近じゃリサ隊長だけじゃなくフィア様までハーレム入りらしいじゃねえか。羨ましいねぇ」
あっ……。なるほど今俺絡まれてるんだ。
「お、おい!相手は勇者だぞ!良い加減にしろって!」
「うるせえ!お前だって見てただろ!こいつは隊長の…隊長のお尻を食べやがったんだぞ!」
「そ、それは…!」
「俺はこいつが許せねえ!だいたい!いつも見てるがこいつは勇者って言われている割に俺よりも雑魚じゃねえか!」
何だこれ。俺が悪者みたいな感じになってる…?確かにケツを噛んだのは少々はしたなかったかもしれないが、押し付けてきたのはあいつだろ。殺らなければ俺が殺られていた。いわば正当防衛。
しかし、俺は聖人君子でもなければ心優しい勇者でもない。…いや勇者だけども。
こんなに言われては腹が立ってくるというもの。技術で劣っていたとしても。だが、壁を乗り越えてこそ勇者じゃないのか?
「何を笑って嫌がるテメエ」
言われて気がつく。俺は笑っていたのだろうか?
「いや、俺も勇者らしくなってきたと思ってね。不満があるなら相手をしよう。文句無しの一本勝負だ」
「いいだろう。へへ、後悔したって遅いからな」
言葉を交わし、同時に構える。俺たちの間緊張が走る。そして戦況が動いた。
「あっ!フィア様!」
「な!?」
俺がバッ!と訓練場の入り口を指す。
「テメエ居ねえじゃねえか!」
「もらったあああ!」
「はあ!?」
咄嗟に反応するも跪き、剣を手放して居たせいで反応がどうしても遅れる。俺は足で相手の木刀を蹴飛ばし、首筋に木刀を添える。
「はい俺の勝ち」
「ふざけんな!今のは無効だ無効!何が勇者らしくだテメエ!」
「俺の、勝ち!俺の、勝ち!」
俺が馬鹿にするような踊りをしながら『俺の勝ち!』を連呼していると相手が顔を真っ赤にしていく。
「もう一回!次は勝つから!」
「俺の、勝ち!俺の、勝ち!」
「話を聞けえええ!」
フハハハハハ!弱者の戯言なんぞ聞こえんよ!
「話を聞けよ!なあおい!頼むから聞いてくれって!お願いします聞いてください!」
だんだんと敬語になっていく……兵士A
「いいだろう聞いてやる」
「あ、ありがてえ!なあ今の……何でこんな風になってるんだああああ!?」
ナイスノリツッコミ!
「兵士Aうるさい静かにしろ」
「誰が兵士Aだ!俺はカシムだ!」
「カシムAうるさい」
「カシムは俺1人だけだ!」
「なんだよ手短に話せ」
「なんで上から目線んだよ…」
だって俺勇者だし?
「とにかく、もう一戦やらせてくれ」
「嫌だね。次やったら絶対に負けるもん」
「え?お、おう。なんだ意外と素直に認めるんだな」
「そりゃお前あんだけボコボコにされてたら自身なんかつくわけねえだろ」
「ハハハハハ!そりゃそうだ!」
「で、俺がなんだって?」
「い、いやそりゃ悪かったよ。隊長の事でちょっと頭に気が登っちまったんだよ」
「謝ってくれさえすりゃいいさ」
「ああそうだな。雑魚なんて言ってすまんかった」
「は?別に雑魚はいいよ、事実だし。そんなことより俺は……!ハーレム!?お前ハーレムと言ったか!?」
「お、おう。だ、だってそうだろ!王女様2人に隊長、メイドさんまで嫌がるしよお!」
「そうだ!勇者だからといってこんなことが許されるのか!」
「神が許しても俺が許さんぞ!」
「そうだそうだ!」
いつのまにか集まって居た兵士たちが声を上げ始める。
「ふ、ふふ…。お前たちはこれが本当に羨ましいんだな…?なら交代してやるよ!毎日俺のようにボロボロにされたいんならな!むしろ交代してくれ!」
心からの願いをあらん限りに叫ぶ。
「い、いやあ……」
「それはちょっと……」
「べ、別に代わりたいなんて言ってねえし…?」
案の定目をそらしやがった。そりゃそうだろう、みんな給料がもらえるから必死に城の警備などをして、そのために腕を磨いてるんだ。それに対して俺はどうだ…?無給で世界を救わないといけない(救う気なんてさらさらないが)、そのために日々ボロボロになるまで訓練訓練訓練訓練!
代わりたい奴なんているわけがないよね…。
「あ、なら僕いいですか?」
「「「「はあ!?」」」」
だが、ここに1人名乗りをあげる者が居た。ゆ、勇者だ!ここに勇者がいたぞお!
「毎日隊長にあんな風にされるなんて…さぞかし気持ちいいんだろうなぁ。ああ、夢みたいだ!」
あぁ……そういう系の人か…………。
「と、とにかく!代わりの人が見つかった!早速行ってくる!」
「あ、ああ。その、なんだ頑張れよ」
「ああ!」
なんだよカシム。意外といいやつじゃんか。
「ーーーと言うわけでこいつが今日から勇者だ!」
「馬鹿じゃないの!?」
ダメだった。