12話
「はぁはぁ…」
俺は今、月明かりに照らされ薄暗くなっている城内の長い廊下を走っている。
「っ!!」
「チッ!外した!おいこっちだ!」
後ろから魔力を感知し、横に跳ぶ。やはり魔法か!
俺の後ろを複数人の足音が聞こえてくる。速い、このままでは追いつかれてしまう。
「ウォーター。フリーズ」
魔法で足元に水溜まりを作り、凍らせる。簡易的で稚拙な罠だが、暗く視界の確保が難しい中では気付くのは困難だろう。
「おわあ!?」
「うお!?何だこれ!?スベる!」
「氷だ!足元が凍ってる!気をつけろ!」
「くそ!走りにくい!」
よし、思った以上に効果的だったようだ。これである程度時間が稼げそうだ。
廊下を走っていると、扉が見えてきた。
とにかく、相手の視界から逃れようと思い扉を開ける。そして、これが最悪の一手だったと悟る。
「…え?」
「……は?」
そこにはおそらくパジャマの様なものに着替えようとしているティアがいた。下着を身にまとい、寝巻きを着ようときている。薄暗い部屋の中で真っ白な肌が幻想的だ。
「き、きゃあああああ!」
ティアの悲鳴で我にかえる。
「すまん!おやすみ!」
急いでドアを閉め、走り始める。くそっ!兵士たちとの距離が近づいてしまったじゃないか!
「ソぉラアアァァ!」
この声はティアか!?
「何でお前が追いかけて来る!?」
「お、乙女のは、裸を見ておいて『すまん』で済むわけがないでしょ!」
「リアルの女に興味は無いんでな!勘弁してくれ!」
「信じられるわけないでしょ!だいたい何でこんな時間にこんな所をウロウロしてんのよ!?」
ぐっ!マジでリアルの女に興味は無いんだが!
ここでティアの参戦はキツイ。しかも兵士たちとの距離はすでに目と鼻の距離だ!どうする!
「な!?行き止まりだと!?」
廊下を曲がると行き止まりだった。少し長い道が続くだけで扉もない。ドアがあるがここは4階だ。落ちたら死ぬ。
「やっと追い詰めましたよ!」
「何で脱走なんかしたんですか!?」
「半殺しにしてやるわ…覚悟しなさい」
どうする!?
後ろは行き止まり、前は兵士たち4人とティア…正面突破しかない。しかし、ほんの数週間前に訓練を始めた俺とは違い、相手は本職。数でも質でも負けている。絶望的だ。だが!
「諦めるわけには……いかねえだろ!政権召喚!」
「うわ!眩しい!」
「くっ!悪足掻きはよしなさい!」
相手の視界を奪う。そして
「スキル魔導を発動…魔法構築……完了!擬音!」
小さい声で魔導を発動し、即興で魔法を作る。作った魔法の効果…それは
「そこか!…いない!?」
「おりゃあ!…あれ?」
偽の音を発生させるというもの。発生させる音が足音であれ声であれ発生させる事ができる。音というのは空気の振動だ。足音でも声でも変わりはない。
「『はっはっは!アデュー!』」
「くそ!逃げられたか!」
「待ちなさい!」
「追いかけろ!」
兵士たちの足音が離れていく。
「ふう…」
俺は廊下の隅で縮こまっていた。足音を来た道を戻るように立たせて俺は忍び足で廊下の一番奥まで歩いていき、隅で目立たないように縮こまっていた。出来るだけ色の暗い服を着てきたので、注意しなければ気づくことは難しい。
音が離れていったのを確認して歩いてきた道を戻る。
「ハッハッハ!残念だったな!俺は自由だー!」
そして、意気揚々と歩き出す。追っては撒いた。後は逃げ出すだけだ!
「どこに行こうというのですか?」
「うおああ!?」
セレスがいつのまにか後ろに立っていた。完全に1人だった思っていたところを急に声をかけられて驚く。
「ソラ!貴様本当に逃げ出そうとするとは!」
なに!?リサまで来ているだと!
「な、何故ここに!」
「兵士から連絡がありました。『バカが逃げ出そうとしている』と」
「おい!兵士が『バカ』なんて言わないだろ!」
お前が脚色してるだろ絶対!
「ソラさん、部屋に戻りましょう?」
くっ!フィアまで来るとは…!
どうする!さっきよりも状況が悪くなってるぞ!
とりあえずさっきと同じ手で…!
「聖剣召喚!」
「うっ!目が…」
「フォルスボ「マジックバインド!」
くっ!魔法を封じられてしまったか!どうするどうするどうする!?
「見つけたわよ!覚悟なさい!」
ティアまで追いついてしまった。
「ソラさん…もう部屋戻りましょう。謝ればきっとみんな許してくれますから」
な、なんて優しい……。けど…あんな生活には……!
「私は許さないわよ!裸は将来結婚する人にしか見せないって決めてたのに!」
「……ソラさん?」
コオオォォ!という音が聞こえて来そうなほど凄まじい怒気…もはや殺気を出すフィア。一瞬ちびりそうになった。
「い、いや事故だし!それに俺興味ないから!」
「……それはティアが可愛くないと?」
「いえいえいえいえ!もうティアさんは超絶可愛いですよ!?本当に!ただ、リアルの女の子に興味が無いというだけで!」
「そう…ですか……」
「じゃあ!」
「でも見たことに変わりは無いんですよね?…ギルティです」
ああ、フィアってシスコンなんだなぁ。
フィアの手の中で魔法が構築されていく中で俺はそう思った。




