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誰かさんのワンダーランド  作者: 天竺霽
第壱章 デュハルムベルセン商街
5/7

第5話 お店を開きたい

「よし、お店開こう。」


「…アリス、良い精神科紹介してあげるわ。」


「何でお店開こうとしている人に精神科紹介するの⁉︎ありがた迷惑だよ!」


 アリスは机の上に置いてあるチョコクッキーを1枚口へ運んだ。

 苦味のあるチョコが口の中でジンワリと広がった。


「なんでお店開きたいの?今の私達の経済的な現状を考えるとどう考えても倒産するわよ。」


「私達ってさ、今は一部屋を借りて暮らしているわけじゃん。月に数万円で暮らしているんだから無職の私達にとっては毎月払うのがカツカツな訳。それで稼ぐ手段としてお店を開こう…ってこと。」


「話聞いてた⁉︎」


 もともと二人は暮らす家が無く、住民の悩みを聞く、魔法レベルを上げて芸を披露するなど少しだがお金を貯めて飢えずに暮らしていた。

 そんな中、以前から繋がりのあったベルセンと偶然再会し、家がない事を相談していると事務所の部屋の一部屋を貸してくれることになり、現在に至る。


「でも仮にお店を開くとしても経営費とか色々と必要になって来るわけでしょ。今の私達じゃ無理でしょ。」


 リコは棚に置いてある通帳を開けてみた。

 残り9万円と記入されてある。

 __まさかこの僅かなお金でどうにかしようとか言い出すわけじゃ無いでしょうね。

 リコはアリスに一度現実を見せようと通帳を見せつけた。


「アリス、この現実を見てもお店を開きたいと思うの?」


 アリスは通帳を見ると何故かニイッと笑みを浮かべた。


「お店を開くと言ってもまだ何のお店を開くとは言ってないわよ。」


 そもそも何のお店を開くこと自体聞いていなかったことに気付いた。

 しかし、開くお店によって利益なども変わることがあるため気になったのだが…。


「じゃあ何のお店を開くのよ。」


「んー…。」


 アリスは人差し指を口に当て宙に視線を向けた。

 よくみると爪がやけに綺麗に切られてある。

 すると突然、アリスはリコに顔をぐいっと近づけた。

 近すぎて表情がよく見えない。


「実は…」


「実は?」


 __この子の場合だと決まっていないとか言い出しそうね。

 一瞬の間を置いてアリスは告げた。


「決まっていないんだよ。」


「ほらやっぱり私の予想通り!当たった!」


「落ち着いてリコ、何に喜んでいるのか知ったこっちゃないけど落ち着いて。」


 リコは一旦落ち着くために長めの深呼吸を二回した。

 その間にアリスは一枚の紙と赤鉛筆と二本の黒鉛筆を持ってきた。

 そしてそこに『何のお店を開くといいか』と記入した。


「今から何のお店を開くといいか、思いついたものからここに適当に書いていって。今の残金を考えた上で書いていってね。」


「今できるような仕事だったら数が限られてくるわよ?」


「でもいーの。もしくは自分で思いついた仕事とかでもいいよ。」


 __今できる仕事…ねぇ。

 リコは現地点で持っている知識から、今から出来るかもしれない仕事をいくつか書いた。

 便利屋、探偵業。

 この二つを書き出した。

 アリスも10分ぐらい知恵を絞って考えたが思いつかなかった。


「便利屋と探偵業ってどんな仕事をするの?」


「便利屋はいわゆる何でも屋って感じよ。人から依頼されたものをこなすっていう仕事だったはず。依頼される仕事も色々あるらしいけど。探偵業は人から特定の人について調査してほしいなどの依頼を受けてとことん調べる仕事のはずよ。私が幼い頃に覚えた知識だから合っているかは分からないけど、そんな感じだったはず。」


「なるほどねぇ…確かに今から出来そうだけど結局は、人から依頼されないとお金が入ってこないね。」


「まあ…そうなるわね。」


 結局、人から依頼されないと自分達に収入が入らない事に今更気づいた二人。

 他に考えはないかともう一度頭を回転させたがこれといったアイデアが思いつかなかった。


「別にお店を開かなくてもいいんじゃない?今のご時世だったら副業とか言われも職業的なものもあるんでしょう?それをしたらいいのよ。まだその方が自営業するよりかは収入も安定すると思うわ。」


「その手もあったか…。」


 何故その考えを思い付かなかったとリコは内心で突っ込んだが、副業もよくよく考えれば依頼系の仕事が多い事に気付いた。

 __結局副業も同じじゃないの。

 すると二人がいる部屋にチャイムが響いた。


「誰か来たね、ちょっと見てくるよ。」


 アリスが部屋の端にある扉を開けると、アリスにとって見覚えのある男性と女性がいた。


「ここに部屋があるって聞いたけど、ほんとだな。」


「そやなぁ、ほんまに事務所の部屋借りてるやん。」


 黒縁のメガネ、黒髪のショートの髪型に首に深く刻まれた傷が特徴的な男性と赤髪をおさげにして関西弁を喋る女性がいた。


「リューヤとキク!」


「おぉ、アリス!久しぶりだ。」


「アリスやん!見ぃひんうちに変わったなぁ。」


 リューヤ、キクと呼ばれた二人はアリスに誘われるがままに部屋に入った。

 リコは初めて見る人なので当然のごとく頭に疑問がいっぱいだった。

 第一印象は3秒で決まるという言葉を思い出して、リコはせめて挨拶はしておこうと思い軽く挨拶をした。


「こ、こんにちは…。」


「こんにちは。」


「どうも!」


 アリスはリューヤとキクの隣に立つと、リコに向かって自己紹介をした。


「リコにはまだ言ってなかったと思うけど、この2人は私の友達なの!のっぽメガネがリューヤで、赤髪おさげがキクっていう名前なの。見た目でわかると思うけど20歳超えてるから。」


 改めて二人を見てみると、少年や少女という言葉は似つかわしくないように伺えられる。

 リコは自分より5歳以上年上なんだとアリスの発言から理解出来た。


「この子がアリスの言っていたリコっていう子だね。すごく可愛げのある子じゃないか。まあよろしく。」


「リコちゃんね。うちらは別に怪しい人じゃないから仲良くしてや。」


 リューヤが右手を、キクが左手をリコに差し出してきた。

 流れ的におそらく握手をするのかとリコは考えた。

 リコも二人の手にそれぞれ自分の両手を差し伸べて握手をした。

 だが手に触れた瞬間、突然バチっという音が聞こえた後に全身に強烈な痛みが襲った。


「痛い痛い痛いィ!痛いです痛い!」


 あまりの痛さに思わず手を離した。

 手が焼けるような痛さがする。


「な、何するんですか⁉︎痛いじゃないですか!」


「ん?リコちゃん知らんの?この商街では初対面の人に『電撃握手』っていうのがが流行ってんねんで。」


「そんな握手聞いたことないですよ!誰がそんな物騒な握手考えたんですか!」


 キクの左手を見ると何か小型の機械のようなものが付いている。

 リコが握手をした時に、キクは左手で握ってきたからその瞬間に流されたのだろうと考察する。


「キク、初対面の人にそんな握手じゃあダメじゃないか。もっとちゃんとしないと。ごめんねリコちゃん。」


「い、いえ、全然大丈夫です…。」


 __それにしても手が痛かった…。

 リューヤは再び手を差し伸べてきた。

 今度こそは真面目に握手をするだろうと謎の期待を抱き手を差し伸べた。

 ーが、その期待もあっけなく潰えた。

 リューヤの手に触れた瞬間、リコが差し出した手の指先が瞬く間に氷にように溶けた。


「ギャアァァ!」


「このくらいの握手の方が良いだろう。」


「いやいやいや!指溶けてるんですけど⁉︎指無いんですけど⁉︎」


「さて、アリス。相談事って何だね?」


「話変えないでもらっていいですか!私被害者ですけど!指無いと色々と不自由なんですけど!」


 __やばい、この部屋に危険な匂いを持つ人が2人もいる…。

 __まさかアリスがこんな人達と以前から知り合いだったなんて…よく今までやってこれていたわね。

 内心でリューヤとキクを警戒しながら自分の指の治し方を考える。

 リコが持っている回復魔法が推測だが指にも使えるだろうと思い、試しに一つかけてみた。


回復(クフイカ)。」


 すると、指の付け根であろうところから指がだんだんと魔法によって蘇生されていく。

 指の感覚も少しずつ戻ってきた。

 指の形成が終わり試しに指をグーやパーの形に動かしてみると、しっかりと動いていることが確認出来た。

 __良かった。このまま指無し生活することだけは死んでも嫌だからね。


「そういえばリューヤとキク。あれから魔法レベル上がってる?」


「あぁ、結構上がってね。今はレベル250だよ。()()()より使える魔法の分野も増えてきてね、お陰で色々と便利になったよ。」


「うちも現在進行形で上がってるで。今はレベル235やな。うちらが()()()使えへんかった魔法とか使えるし、何より威力がすごいからなぁ…。」


 二人が自慢気に話しているうちに、リコは一つの疑問が浮かんだ。


「あの、リューヤさんとキクさん。あの時っていつぐらいの話ですか?」


「そやなぁ…アリスがまだまだ小ちゃかった頃やからなぁ、12歳ぐらいちゃう?うちらやったらまだ20代入ってはい頃やからな。」


「そうなんですね。」


 __アリスが12歳の頃か…

 __何か今とあんまり変わってないわね。

 アリスが12歳だった頃をリコが思い出すと自然と笑みがこぼれた。


「そ、それよりさっ、今リコと最低限の資金でお店開いて簡単に金稼ぎしよっかな…って考えてるんだけど、リューヤとキクは何かアイデアとか無いかな?」


「店を開くのか?そりゃあまた大層なことだな。もう既にアイデアは出ていたりするのか?」


「今は便利屋と探偵業だけ。二人が来るまでこの事を考えていたんだけどなかなか思い浮かばなくて。」


 リューヤとキクは一度考えてみた。

 __自分達でお店を開いて営業をする、それを楽にやりたいんだな。

 __……そんな職業って無いような気がするんだが…。

 リューヤはそんな職業は無いという考えにまとまった。

 __アリスとリコちゃんは楽に儲かる商売をしたいんやな。

 __うちも一回店開いたけど潰れたし…無理ちゃうかな。

 キクもリューヤと同意見になった。


「アリス、店開くのは諦めた方が良い。」


「えー、何でよ。」


「話長くなるけどまず聞いてや。店を開くっていう事は、そもそもの話大変やねんか。うちも結構前に店開いたけどすぐに潰れてん。それも1年と半年くらいかなぁ。よっぽど商売が上手い人じゃないと店は開けへんで。それに2人とも、まだ商売っていうのをあんまり理解してなさそうやし。それやったらどっかの店で働いている方がまだ収入も安定するし、楽は出来ひんけど金は稼げるで。」


 キクの話にリューヤとリコはうんうんと首を上下に動かして頷いていた。

 __そうそう、キクの言う通りだ。

 __だからアリス、素直に諦めた方が良い。


「んー、そっか。…確かに私って商売の事とかあんまり理解していないかも。」


 アリスは一度落ち着いて考えてみた。

 お店を立てようと思ったのはリコの騒動の後に雑誌を見ていたことがきっかけだった。

 お店を立てると必ずではないがある程度のお金が儲かる、それに心を躍らせた。

 よくよく考えると、ある程度のお金も必ず手に入るわけではなく、もしかしたら利益が無い可能性もあるかもしれない。

 その事を今になって考えてみると、初めからお店を立てるのならばしっかりと資金や心の準備をしてから立てないとそりゃあ無理だなと気づく。


「そうだね。じゃあお店立てるのは一旦諦めるよ。」


「そう。結果どうなるかわからない賭け事と同じで、未来が確信出来ないことはしない方がいい。」


 アリスは残念そうな顔を浮かべた。

 __やっぱ金儲けはそう簡単にはいかないよね普通…。

 __でも今は数万円だけどお金はある。

 __今月の分は払えるけど来月の分がお店を開けないようではない払えないかもなぁ…。

 思わずアリスは『はぁ…』と溜息をついてしまった。

 その様子を見かねてキクは一つ提案を持ちかけた。


「アリスが珍しくそんな溜息つくんやったらちょっと手助けしよか。提案やねんけど、今うちの働いてる会社で人手が足りひんねん。アリスとリコちゃんはお店を開いて儲けようかなって思ってたけどさっき無理になったやん。でもうちの会社やったら絶対儲かる事、保証できるで。」


「え、そうなの?じゃあキクの所で働く。」


「そうと決まれば明日の昼にうちの会社来てな!ちなみに場所はここの事務所の目の前やから!じゃ、そういうことでバイバイ!」


一気に話をまくし立てるとキクはそのまま部屋から出て行った。

その流れに乗ってリューヤも帰ろうとする。


「そろそろ俺も帰るとするか。じゃあな二人とも。」


「さ、さようなら!」


「リューヤとキク、ありがとね!」


二人が部屋から出たのを見届けると、部屋の窓を開けてアリスとリコから見て向かいの会社を見た。

ベルセンの事務所よりかは低いが2階建てだ。


「…お店開くのって難しいね。」


「そうだよ。最初っから分かってたら誰も苦労なんてしないわよ。」


二人は机の上に置いてあるチョコクッキーを一枚食べた。

ほろ苦さは変わっていないが、若干シナっとしていたためサクサク感が無くなっていた。











































リューヤ:魔法レベル250

使える魔法:全ての剣術、広範囲の完全回復、近距離高威力魔法、遠距離高威力魔法、広範囲防御魔法、身代わり魔法、手組み魔法、威力操作魔法、小聖獣召喚魔法


キク:魔法レベル235

使える魔法:全ての剣術、広範囲の完全回復、近距離高威力魔法、遠距離高威力魔法、広範囲防御魔法、身代わり魔法、手組み魔法、威力操作魔法

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