第3話 泥棒猫はどの世界にもいるー中編
二人がデュハルムベルセン商街を歩いていると見覚えのある人物と出会った。
「あ、ベルセンじゃん。おーいメルヘン!」
「アリス!人前だからその呼び方はダメ!商長に変なイメージついちゃうでしょうが。」
ベルセンともメルヘンとも呼ばれる人物。
ベルセン・アレックスである。
黒髪の髪の毛で筋肉質な体で強面な面構えだが実はかなりの甘党である。
彼はデュハルムベルセン商街を造った人物の一人であり、かなりの魔法レベルや財産を持っている。
とある事がきっかけでアリスとベルセンは知り合いになり今では仲良く酒を交わす仲になっている。
お酒といってもアリスは未成年のため甘酒だが。
「お、アリスちゃんにリコちゃんじゃあないか。こんにちは。」
「こんちゃ!」
「こんにちは商長。」
ちなみに商長とは商店街で一番偉い人のことを指す。
デュハルムベルセン商街では、ベルセンが商長である。
「どうしたんだい、そんな大きな荷物を装備を抱えて。どこか旅行にでも行くのかい?」
「違うわ。今猫探しをしているの。あっ、何か物を咥えている_」
「あぁ、ゴメンだけど少し用が出来てしまったから少し行ってくる。それじゃあな。」
そう言ってベルセンは人混みに紛れて何処かに行ってしまった。
「…人の話くらい最後まで聞けっつーの。」
「まあまあアリス、それより早く探さないとその猫ちゃんが何処かに行っちゃうよ。」
リコはアリスの事を適当に宥めつつ猫の討伐ではなく捜索を再開した。
アリスはデュハルムベルセン商街の大通りを、リコは商街の裏道や建物の隙間などを探す事にした。
「リコ、見つけたら絶対こっちに持ってきて。私が最期を見届けるから。」
「なに猫を殺す事に徹しようとするの。まあアリスも猫を見つけたら教えてね。私も最期を見届けたいから。」
「いや、リコも殺そうとしてるじゃん。」
「うそうそ、冗談よ。でも殺したりはしないでね、私も殺さないから。」
リコは商街の入り口付近から猫を探す事にした。
アリスから猫の特徴は聞いてある。
猫の特徴は、少し大柄な体で茶色と黒色と白色の毛、つまり三毛猫で長めの尻尾を持っている。
首元に鈴が付いていて右耳が少しだけ欠けている。
リコの中で猫に関するキーワードから一つのイメージを頭の中で表現した。
__大体…こんな感じかしら?でもそうなったら心当たりがあるのよね。
リコが作り出した猫のイメージにはどこか心当たりがあった。
あまり記憶が定かではないのだが以前にこの商街で目にした事があった。
アリスが言っていた猫のイメージと全て合致していて以前に見た猫の可能性も少なくはないと思い、当時の場所へ足を運んだ。
__確かここを真っ直ぐに行ってからルーラス家の裏庭付近だったわね。
__懐かしいわぁ、前来た時はまだ幼かった頃だもんね。
歩いて行くと、幼き頃に見た草木や花がまだ綺麗に咲き誇っていた。
__あれから5年以上も経つのに全然変わってないわ。
目的の場所の付近にたどり着くと妙な違和感を覚えた。
さっきまで歩いていた道は大通りの道を沿って作られていた道だったのでガヤガヤとした賑やかな声がこちらまで響いていた。
だが急に閑として無音に近い状態になったのだ。
唯一聞こえるのは風の音だけだ。
__もしかして変な所に来ちゃった感じかな…?
背筋に悪寒を走らせるも、目的地の所まであと少しのためそのまま足を進めた。
__それにしてもさっきから誰かに見られている気がしするのよね。
__今、その人物を確認して切っておくべき…か。
リコはあえて数歩進むと相手に隙などを一切与えないように急に振り向いた。
「…!誰も居ない…。」
__なんだ、結局私の勘違いだったかな。
__兎に角まずは、猫探し。
足を進めようと進行方向を変えた瞬間だった。
前方の方から何者かが人間では走れないくらいの異常な速さでこちらへ向かってくる。
一瞬動きを止めてしまったがこちらを攻撃するだろうと予想してリコは剣を構えた。
相手は影に紛れてよく見えないが尖っていて細い物をこちらに向けている。
__相手もやはり剣を持っているか…。
__仕方ない、1対1だから受けてたとう。
リコも応戦するように相手に向かって駆け出した。
__つもりだった。
何者かに羽交い締めにされ身動きが取れなくなった。
しかもかなり強い力だ。
「嘘でしょ…。」
思わず口から言葉が出てしまった。
__このままじゃ私死ぬでしょ…。
__ううん、でも死なない。何とか戦わなきゃ。
リコは自身を羽交い締めにしている人物には聞こえないくらいの小声で近距離の攻撃魔法を唱えた。
「…フラッシュボム。」
呪文を唱えた瞬間、リコの周囲に爆竹のような音で眩しい光を放ち無数の火花が散らされた。
思わずリコを仕留めようとした人や羽交い締めにしていた人はその場に止まってしまったり眩しさで目を覆い隠した。
その隙にリコは逃げ出そうとするがまたもや他の第3者によってそれは止められた。
「コラ、お前たちダメだろうが。こんな女の子を苛めちゃってさ。それでも男かお前ら?」
敵かと思ってしまったがすぐにその考えは消えた。
__あれ?私を助けている感じかなこれ。
どうやらリコを助けてくれるようだ。
__しかも…なんかちょっとイケメンなんだけどこの人。
__わぁ〜嬉しい。こんな人と付き合いたいとか思ってたらいつの間にか付き合っちゃってるぅとか無いのかなぁ。
__神様仏様、感謝します。運命とは日常と常に伴っている事を知らされました。
緊急事態に直面しているというのにリコは内心で妄想を膨らませていた。
「だいたい、今のご時世にそんな事をする輩がいるとはねぇ…。残念だよ。実に残念だ。」
「あ“?何だテメェは。」
「何だと聞かれても名乗れるほどの名前はない。まあ『通りすがりの男性』とでも答えておこうか。」
__え、待って。
__これって恋愛漫画とか小説とかでよくあるシュチュエーションじゃない?
__私にも女神様が微笑んでくれたー!きたー!
自分に惚れているとも気付かず男性は話を続ける。
「君たちはこの可愛い女の子に何かしようとしたんだよね?この国の法律でもあるけどそんな事したら君達にとっても嫌なんじゃないかな?もうこれ以上の無駄な事はやめんるんだな。」
「わ、わかったよ。覚えてろよ!」
二人は男に怯えて脱兎の如く何処かへ逃げてしまった。
__戦わずに口で勝ってるし。ペンは剣より強しじゃないけど口は剣より強しだね!
「大丈夫かい?怪我はない?」
心配している目つきでこちらを覗き込んだ。
__そんな目で見てきたら惚れるって、頭から蒸気出るって!
そんな事を考えながらもリコは自分がお姫様のような状況になって満足していた。
__それよりこれコメディー要素少ない!恋愛要素多い!
「あ、はい、全然大丈夫です。あの、助けて頂いてありがとうございます。」
「いいっていいって、当たり前の事をしてそれでお礼を言われるのもなんだかこっちが恥ずかしくなるから…。お礼なんていいよ。」
__まさかの照れ⁉︎
__このシーンで照れはダメだって、こっちがあなたにもっと惚れちゃうでしょうが!
__あー、もうダメだ。私にはこんなイケメン勿体ない…。
様々な言葉が頭の中で泳ぎ回っているが危うく本来の目的を忘れそうになった。
「あ、そういえば私、ある猫を捜しているんですが…ここら辺で猫を見掛けませんでしたか?」
「猫ねぇ…全く見なかったよ。猫なんてここ2、3日全く見てないからね。ごめんね。」
「いえいえ、全然構わないですよ。じゃあ私行きますね。ありがとうございました。」
猫を捜しに行こうとしたが1つやる事を忘れていた。
__あ、名前を聞くのと名乗るのを忘れちゃったな。
__イケメンだったし性格も良さそうだから一応聞いておこうかな。
__いやいや、名前を聞いてそれでまた厄介ごとに巻き込まれて靴でも脱げたらどうすんのよ。シンデレラか私は!
名前を名乗ろうか名乗らないか迷っている中、男性の方から何故か声がかかった。
「それより、リコさん。」
「はい?何でしょうか?」
ここでリコは妙な違和感に気付いた。
何故自分の名前を初対面の相手に知られているのかという事に。
問いただそうとしたのだが手遅れだった。
男はリコの背後へと素早く周り、鞘から剣を抜いた。
「悪いけど…心臓頂戴。」
「…ッ!」
急な展開に背筋を凍らせた。
リコは殺されるのだけは嫌だと思いリコも剣を抜いた。
抜いた瞬間に背後から鋭い一撃が出されたが運良く食らう事なく後ろに下がった。
リコも目に前の男を仕留めようと攻撃しようとするが、攻撃の隙も与えず相手は一瞬でこちらへと距離を詰めた。
即座にもう一撃が放たれ再び避けれたものの、右肩を掠ってしまった。
「ヴッ!」
痛みを抑えながらもこちらから攻撃を仕掛けた。
素早い一撃を放ったのだが避けられてしまった。
__もう一撃…!
さらに一撃を加えようとリコからも距離を詰める。
リコは自身の隠しポケットから短剣を取り出し相手に2本投げつけた。
短剣はヒュッと風を切り男の顔に目掛けて飛んだ。
相手は短剣が飛んでくるであろう軌道を想定して短剣が飛んでくる位置よりも低く屈んで避けた。
男の行動の前に、リコはおそらく避けるであろう位置に一瞬早く走り込み刃を向けた。
そのまま相手の急所を目掛けて刺そうとするがそれも避けられてしまった。
__とても速いわね…。
__でも1対1だからここからさらに攻められるはず。
「リコさんは動きの先を読むのが得意みたいですね。感心します。」
リコは改めて男の顔を見ると先程自分を助けてくれた男の顔とは思えなかった。
狂気的な笑みが溢れて今にもこちらに襲って来そうなオーラを放っていたからだ。
__怖い人。
「何初対面の相手に命を取ろうとするのよ。理不尽にも程があるわ。」
「よく言われます。しかしそうやって余裕ぶっていられるのも程々にしておいた方が吉かもしれませんね。」
__程々にしておいた方が吉?
疑問が浮かぶが悩んだら負けるような気がしたため考えない事にした。
「どういう事よそれ。」
「直に分かりますよ。」
男がいい終わった瞬間、リコの頭上から数人の男達がこちらを目掛けて降ってきた。
__あ、やばい。死ぬ。
どう抗っても無理だと判断した矢先、救いの手が差し伸べてくれた。
ベルセン:魔法レベル200
使える魔法:全ての剣術、広範囲の完全回復、近距離高威力魔法、遠距離高威力魔法、広範囲防御魔法、身代わり魔法、手組み魔法