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誰かさんのワンダーランド  作者: 天竺霽
第壱章 デュハルムベルセン商街
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第1話 永劫の記憶の戦場

年始から初のコメディー小説を書かせて頂きます。

 戦場に辿り着いた時にはもう遅かった。

 味方の陣営はほぼ全滅しており、部下から聞いた情報によれば負けを察して逃げ出した者もいるという。

 周りを見渡せば屍体が無数にある。

 __まずい、まずい。このままでは私が望んでいた事が何も…。

 少女は現在数部下5人を引き連れているが、この人数のままだとこちらも命が危うくなると考えた。

 __最悪の事態は回避したいが…やむを得まい、こうなったら…。


「みんな…聞いてくれる?」


 想定外の事実に出くわしているというのに至っていつも通りの声を発した。

 まるでいつものような日々を過ごしているようで。


「どうされました、スリュク様?」


「…このままでは死んでいった兵士だけではなく私達も死んでしまう。最悪の場合は今この場にいる全員が死ぬはめとなる。そうなる事態を回避するためにあんたら5人は先に逃げて欲しいの。」


「…!だ、だめです!スリュク様、ご自身の命を捨てるつもりですか?」


「別に自分の命は捨てる覚悟はしてないよ?ただ、」


 スリュクと呼ばれた少女、現王国の娘であるスリュク・クラルは意を決したように夜空を見上げた。

 夜空には無数の星々と闇を切り開くように輝く満月が空気を包み込む様に見ている。


「私はもう決めた。もう決めたの。立場も華も権力も捨てて自分をリセットしようかな…って。」


「スリュク様、そんな事はいけません。スリュク様はこの栄えある王国、ジレック王国国王の王女様ではありませんか。そのようなお方を私達が__」


「放っておくわけがないんでしょう?ありがたい言葉は受け取らせてもらうわ」


 強く、ハリのある声で言い放った。

 思わずその声に驚いてしまい肩を部下がビクリと動かすが御構い無しにスリュクは話を続ける。


「正直ね…もう飽きたの。疲れたの。今まではクラル家の血筋だから王女とか名乗ってたけど、よくよく考えたら私が今している事って何だろうなぁって思うの。この国の為に政治をして国同士の外交とかにも参加して、たまにイベントとかあって楽しかったよ。普通の人じゃあ出来ない体験だったし。」


「で、でしたら今一度お考えなさ__。」


「でも私だからこそ出来ない事とか遠慮される事があったの。普通の人じゃあないから。いくつもいくつもあった。それが私にとってはかなりの苦痛だったの、お陰で眠れない日もあったわ。それで私はその苦痛から解き放たれたいの。解放されたいの。だから…」


 スリュクは部下の方へ向き直った。

 何故かスリュクの顔は笑みを浮かべていた。


「今から私が言う事はこの王国の王女の最後の命令として、そして最後の我が儘として聞いてほしいの。」


「スリュク様?如何されましたか?」


「私は今から王女の立場を捨てる。」


 部下はスリュクが言っている内容が一瞬理解出来なかった。

 しかし理解した瞬間には次の言葉が紡ぎ出されていた。


「そしてスリュク・クラルの名前も捨てる。もうこの世に中にはスリュク・クラルはいない。」


「いけませんスリュク様!」「ダメですよ立場を捨てるのは!」

「もう一度お考え直してください!」


 いくつか言葉がスリュクであった少女に飛び込んでくる。

 少女は地面にちょうど転がっていた剣に手を差し伸べて部下の方へと構えた。

 もしや先程の言葉を否定してしまったからこちらを切るのではないかと思っていたが予想が半分外れた。


「じゃああんたらに質問するわね。今この場で私の考えに反抗して私を止める人はここに来て。うざったらしいその口と一緒に切ってあげる。」


 笑顔で言っているが顔だけの笑顔であった。

 笑っているが内心や感情が読み取れない「笑顔」だ。

 スリュクの起こした行動に何も言えずに部下はその場に立ち尽くしていた。


「…。」


「…分かったならもう構わないで。」


 そう言い残したのが最後だった。

 その時を気にスリュク・クラルは姿を煙のように消えてしまった。










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