6話 今日から王様
「ルクス様、どの門から入国いたしましょう?」
御者の男が僕に訪ねてくる。正直どうでもいいのだが。確か門は三つあるとか言ってたな。
「じゃあ、北側から」
僕が適当に答えると御者もミラも何か言いたそうに黙り込む。
「失礼ですが陛下?我が国の門は北側にはございません」
ミラが申し訳なさそうに僕の間違いを訂正する。僕は恥ずかしくて穴があったら全力でダイブしたかった。
「じゃ、じゃあ一番近い所で」
「は!!南側にいたしましょう」
僕達の乗る馬車は入国審査をする一般人の列の横を抜け、そのまま門を潜る。
僕の街、イグラスニア王国は凄く広い。一辺約2~30kmの正方形型で、その周り全てに高さ10m程の壁がある。街の外と中を繋ぐ門は西側と東側と南側に一つずつ。門を潜るとビッシリと一定間隔で建物が綺麗に並んでいる。だが三つの門からは太い道が街の中心で圧倒的存在感を放つ城まで続いている。
「デカイな」
城の想像以上の大きさについ言葉が漏れる。それを聞いたミラは嬉しそうに同意する。そもそも城を持てるのは『国王』ルートだけで色んなイベントで勝利数を稼ぐ事で城が大きく育っていく。
「ルクス様、ようこそイグラスニア王国へ」
僕が城の前で馬車を降りると先に降りていたミラが両手を広げて歓迎してくれる。するとポケットにしまっていた僕の携帯がピコンッと鳴る。僕は携帯を見る。
『メダルを獲得しました。【今日から王様】』
『称号を獲得しました。 【新米国王】』
「メダル?称号?」
「え?ルクス様、メダルを手に入れたのですか?」
僕はメダルや称号の意味に首を傾げているとミラが反応し、顔をズイっと近づけてくる。思わず顔を離してしまった。
「えっと、メダルって?」
「メダルとは何らかの行動及び条件を満たすと得られるアイテムです」
「じゃあ、称号は?」
「称号とは何らかの行動及び条件を満たすと得られる呼び名です」
なるほどこのシステムは『決断のレガリア』には無かったな。でもこれはこれでゲームっぽい。
「なら、これらには何か意味が?」
「称号は取得時に何らかの恩恵がありますし、メダルは特定のアイテムと交換可能です」
「え?どこで交換するの?」
「神殿です」
神殿はクエスト選択の時に背景にある場所。確かにクエスト出発は門から出ればいいから神殿は使い道が無いからな。それにアイテムと交換ってその方が神殿っぽいしな。
「ところで【新米国王】とやらで得られた恩恵は?」
「恐らく、国王権限の英雄召喚とパーティ編成が可能になるかと」
「うん?他のキャラも呼べるの?」
「勿論です」
これはいい事を聞いた。この先強敵が出てきても僕の所持している強キャラが居れば安心だ。それに可愛い娘もいっぱい居るし。こりゃ夢が膨らむね。ん?待てよ?
「今まで召喚出来なかったならなんでミラはここに居るの?」
「それは勿論ルクス様にいち早く会いたかったからですぅ!!」
ミラが勢い良く抱きついてくる。もし僕が頭の堅いやつでミラのこういう態度を許さない奴だったらどうするんだろう。即刻追放されそうなんだが?
「え?それじゃあ他のキャラは僕に会いたがっていなかったって訳?」
「い、いえ!!そういう事では」
僕の質問にミラは首を素早く横に振り否定する。そんなに首を振って目が回らないのだろうか?
「出てきたい者は何人も居たのですが、案内役は今リーダーに設定されているキャラでないと出来なくて、今リーダーなのが私なので案内役として召喚されました」
「あ、なるほど」
ミラの必死な説明で僕はホッとする。異世界で嫌われ者とか結構キツイ。今度時間を作って皆に挨拶しとかないとな。
「じゃあ、案内係のミラさん?取り敢えず神殿に案内してもらおうか。このメダルで何と交換出来るか知りたいし」
「はい、分かりました我が偉大なる主君。この命尽きてもあらゆる悪から守り抜き、無事神殿まで送り届けましょうぞ」
ミラは片膝をつきわざとらしく頭を下げてふざける。
「世界観がバラバラだな」
「ですね」
僕とミラは笑いながら神殿へと向かった。