5話 ミラ二面相
「陛下、お疲れ様でした」
クエストクリア後に聞こえる定形ボイスと全く同じボイスが今目の前に居る、桃髪ツインテールのミラ・クルセイドから聞こえる。
「...ミラ?」
「はい。陛下の忠実なる臣下、ミラ・クルセイドにございます」
僕が確認の意味でミラに名前を聞くとミラは片膝をつき、頭を下げて名乗った。なんというか、少し優越感がある。
「陛下、此度の召喚の成功おめでとうございます。先程の戦も大変秀麗で──」
ミラが言葉の途中で黙り込む。それよりさっき召喚が何とかって言ってたな。僕の召喚はミラの意図なのか?
「ルクス様?」
「何?」
「ルクス様ぁぁ!!」
黙っていたミラが急に僕のプレイヤーネームを呼び、抱きついてきた。まぁ、なんとなく分かる。ミラはこういうキャラだ。普段は淑女なのだが、2人きりになるとすっごく甘えてくる。
「ルクス様!!怪我は、怪我はありませんか?きゃぁぁ!!血!!血が付いてる!!大丈夫ですか!!??これだから私はルクス様の出撃は反対だったんです!!」
「取り敢えず落ち着け、これは返り血だ。僕に怪我は無い。安心して?」
超興奮状態のミラを宥めて僕は現状を把握する。
「あー、ミラ?僕ってこの国の王なの?」
「はい、陛下はイグラスニア王国の8代目の王位継承者です」
ミラを落ち着かせるとミラは淑女モードに戻る。そしてミラの話によるとゲームの設定で基本は変わらない。少しの文化の違いはあれど、大体はラノベでよくある異世界設定だ。
「じゃあ、僕が召喚された理由は?」
「陛下は竜王討伐戦はご存知ですよね?」
竜王迎撃戦とは全てのルートのストーリークエストのボス『クレストドラグーン』、通称竜王の討伐クエストの事である。ミラの話をまとめると今はその竜王討伐戦の数ヶ月後で、国の戦闘力は未だ回復せずに、その窮地を救う為に僕は呼ばれたという。なんか如何にもゲームの設定って感じでイマイチ盛り上がりに欠ける。
「一応聞くけど、これってゲームじゃないんだよね?」
もしかすると、最新型のゲームを勝手にプレイさせられている可能性がある。
「はい、今陛下が居られるこの場は紛れもない現実でございます。どうか未熟な私共の代わりにこの国をお救い下さい」
「まぁ、難しい事は分からんが面白そうだし。了解したよ」
「本当ですか!!...っ!!ルクス様ぁぁ!!ずっとお側で仕えさせて頂きます!!」
ミラは嬉しさのせいか、デレデレミラが出てきていた。毎日こんなのだと少しうざったいかもな。
そんな事を思っていると騎士の一人が走ってくる。それを見たミラは淑女モードに戻る。
「報告します。敵軍全て捕縛完了。直ちに城内に連行する許可を」
「あ、えっと...よろしく」
「は!!」
騎士は僕の前でビシッと気をつけし、僕のグダグダの指令にもしっかり対応し、一礼して走っていった。
「さて、ルクス様?お城に戻りましょう。私に城内を案内させてください!!あ、でもその前にお風呂で血を落とさないと。ルクス様お背中流します」
ミラは僕の手を引き、一人でペラペラと話している。盛り上がっている所悪いが、風呂は1人で入らせて貰う。ミラの裸のご褒美はもっと落ち着いた時に本人が嫌がる程生々しくだな。
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帰りの手段は当たり前だが馬車だった。よく揺れるしガタガタうるさいしあまり良いものじゃなかった。でもミラがずっと話相手になってくれたから楽しかった。イタズラで少し下ネタも入れたが普通に返してきたのは意外だった。ミラってこんなキャラだったっけ?
「もうすぐですね」
「城まで?」
「そうですよ。ルクス様が大きくされたので私が言うのも何ですが凄く大きいですよ?」
「あれか?」
森を抜け、遮蔽物が無くなり見えてきたのは城壁で囲われた中にそびえる高さ300mはありそうな程馬鹿でかい城だった。