2話 出撃します
「どれにしましょう?」
ふさふさツインテールの桃髪美女のミラが話しかけてきた。クエスト画面を開くとキャラ毎の定形ボイスが流れるようになっている。
僕は曜日クエストを選択した。
「出撃します」
ミラのボイスの後に画面が切り替わる...はずなのだが。
「あれ?重いな」
サービス開始間もない頃はアクセスが殺到してこの時間帯はサーバーが重かったのだが、今はサーバー強化されて時間帯問わずサクサク動く。しかし今僕の携帯はずっとロードしている。
「ルク...ス...様...お助...け下...さい」
幻聴か実声か、急に聞こえた今にも死にそうな者の声に僕は声を探して辺りを見回す。すると
「くっ!?」
携帯が強く光る。眩しさに目を瞑る。と途端に周りから「うぉぉぉ!!」と人々の叫ぶ声が聞こえる。それに驚いた僕は急ぎ目を開く。
「え?何?何これ?」
僕の目に飛び込んできたのは鎧を着て剣や槍を持った人が斬りあっている。おそらくは戦争。しかもおそらく中世の。どうしてここにいるのかは知らないが取り敢えず
「に、逃げなきゃ!!」
僕は戦場に背を向け、走る為に一歩踏み込む。が
『エラー アナタのターンではありません。次のアナタのターンまであと 15ターン』
「はぁ?」
頭の中に機械的な声が響く。それに何故か足を一歩出したまま体が動かない。まずいこのままじゃ殺される。焦った僕は再び足を出そうとする。
『エラー アナタのターンではありません。次のアナタのターンまであと 9ターン』
「な、どうすれば...え?」
絶望を感じていた僕はふと前を見る。すると異様な光景に気付く。
命の奪い合いだというのにこの場に居る皆が一組の決闘を見ている。その視線の先では剣を持ち鎧を着たおそらく男と、槍を持ってこちらも鎧を着ているが小柄なおそらく女が戦っていた。しかも不思議な事にまず男が女に斬りかかり、女はそれを避ける。そして次に女が男を刺す。それは見事に命中したのだが、それだけだった。男は刺されて怯んだが、女は男に止めを刺さずに睨み合うだけ。それはその一組だけでなく全部がそうだ。さっきの男女の一組の次は、手斧を持った鎧男と弓を持った鎧女。またその場の全員がそこに注目する。弓女は少し遠くから弓を射て、斧男を攻撃して一区切り。斧男は弓女の元へは行かずに撃たれただけだった。それが次から次へと繰り返されていく。
「まさか、これって──」
僕はその光景、いや正確にはシステムに見覚えがありそれを口に出そうとした途端、剣を持った男が真っ直ぐ近付いてくる。そして目の前まで来ると剣男が剣を振り上げる。
「死ね!!」
剣男は僕に向かって振り下ろす。僕の頭は真っ白になる。なんだ?何が起きている?死ぬのか?僕はここで死ぬのか?
「え?見える。避けられる」
何故か相手の攻撃の軌道が分かり、体もササッと付いてくるのが分かる。そして難なく相手の攻撃を躱す。
「ちっ」
剣男は僕に躱され、舌打ちする。
「どうした?キサマの番だ。攻撃してこい」
『エラー 武器を装備してください。戦闘に参加出来ません』
「やっぱりこれって『決断のレガリア』?」
おそらくはそうなのだろう。この戦闘システムは『決断のレガリア』と同じタクティクスシュミレーションRPG独特のターン制バトルなのだろう。だが僕がここに居る理由は分からない。しかし
「今は生き残らねば!!」
僕はやっと少し落ち着いたようでなんとなく今すべき事が分かる。手にはまだ携帯がある。
「うお!!」
携帯を見ると『ウエポンセレクト』と書いてあり、無数の武器が並ぶ。まんまゲームと同じで感心する。
「おい!!キサマの番だと言ってるだろう!!さっさとしやがれ!!殺してやる!!」
剣男が怒号をあげる。僕は無視して僕の持つ中で最強の武器を選択する。
『「THE・ラストキー +200」を装備しますか? 《はい いいえ》』
僕は迷わず《はい》を押す。
すると僕の手の携帯が蒼く光り柄の部分が青く、刀身は細い剣に変身した。