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友人とファミレス

そこそこ良い大学。理系。そこそこ大手のIT企業。

働く可愛い嫁を持ち。

借金もなく。

舅問題もない。


ギャンブルはたしなむ程度。

カッコいいからという理由で始めたタバコは二十歳で辞めた。


本当に平均的な男の話。


世間が言う、普通って、きっと理想と言葉間違ってる。

日本の平均的な人間はきっと、こんなバカでクズな人間。


「君さ、アカリの事、ちゃんと考えてんの?」


「・・・、そ、そんなこと」

そんなこと言うなら、お前も女装止めろよと言いかけて、

目の前の美女を失うことを考えてやめた。


「・・・、考えてるし」


俺は小説家を目指している。

出版社に持ち込んだことは無いし、賞に応募したこともない。

物語を描き上げたこともない。

しかしながら、書いていると、別の面白い設定がりてきてしまうのだから仕方がない。

俺が考える話はどれも面白いと思うし、書き溜めている設定集はノート2冊になる。


俺、佐藤葉介さとうようすけ、30歳

平均的な理系の大学を出て、

平均的な会社に勤めるも、

上司とそりが合わず、泣きながら会社を辞めた。


実家で就活をしつつ、うだうだと過ごしていたら、

彼女から結婚しないかという打診があった。

俺は男のプライドからこういうのは俺から言うものだと思ったし

そもそも惰性で付き合っていたから別れようとも思っていたのだが

彼女がどうしてもというのだから仕方がない。

結婚し、俺は昔から書いていた小説を本格化し、仕事をしながら

デビューを目指して、日々精進しているってわけさ。

ちなみに嫁は俺が務めていた会社で今もバリバリ働いている。


「あのさー、君、バイトの事、仕事って言うのやめなよ。

 一日4時間程度で、月給も5、6万てやってけてんの?」


「・・・うるっさいな。アカリだけの収入でやってけてるんだ。

 俺の稼ぎはほとんど貯金に回してるし。それに俺だって、家のこととか!やってんだ

 毎日ご飯作ったりとかさ!」


「・・・で?洗い物も掃除もゴミ捨ても?やってんのアカリだろ」


「良いんだよ。アカリがそれでいいって言ってんだからー」


ファミレスで男女二人、恋人同士が言い争っているように見えるのだろうか。


方や、モデルの様な長身の綺麗な女性。

方や、がりがりの猫背、ぼさっとした長髪の男。


さしずめ、ストーカーとその被害者ってとこだろうか。

実際は、大学の同級生で、二人とも男だけど。


こいつ、月城ミサキは同じ小説サークルで知り合った友達で

同人イベントで壁を飾る大手サークル主で

某有名IT企業に勤めるサラリーマンで

一児の父だ。


月城はカップに付いた口紅をぬぐっている。

その仕草は女そのもののように見える。

気を抜いたら惚れてしまいそうだ。


元々、男のままでも女性的な顔つきをしていたし

白く透明で染みひとつない肌は男かどうか疑うレベルだ。


こうして女の格好していると

一緒に温泉旅行に行ったときに見た強大な一物が夢のようだ。


月城はテーブルの下、短くぴったりとしたスリットの入ったスカートから出ている

網々したストッキングを付けた足を組み替えた。


「まぁ、お前らがいいならいいんだけどさ」


アカリと俺の共通の友人であるからか

俺の数少ない友人として気にかけてくれているようだ。


ただ、なぜか月城の趣味は女装であった。

本人もなんとなく始めてみたら、しっくりきたから続けているような感じだ。


俺としては、俺なんか相手にしないような美女が一緒に居るので

周りに優越感が持てるし、自分がワンランク良い男になったかのようで気分がいい。

実害もないし。


違う違う。そんな話をしてたんじゃない。

「それで、話を戻そう。脱線したぞ」


「はぁ、・・・、好きな奴のために死ねるかどうか、っだっけ?」


「そうそう、月城は死んでもいいって思った相手いたのかよ」


「いない」


「・・・、即答だな。俺は居たんだよ!」


「ったく、そう言って話を聞いてほしいだけだろ・・・」


「勿論、アカリじゃない。中学の時の初恋相手でさ。

 しかも、付き合えたの、・・・3ヶ月間だけだったけど」


「(・・・こいつ、俺の話聞いてない・・・)」


「いや~、あの頃はその子の為に死ねるかって考えてたね。

 幼い俺は、死こそが最上の愛情であると分かっていたわけよ。自己犠牲愛的な?」


「ほう。そいつのどこが良かったの」


「まず、顔、体、頭脳は、序の口。声も匂いも最高で、

 俺の好意を受け止めてくれた初めての人だったからさぁ。

 俺んち、離婚して連れ子で再婚したから、マジ、ゆがんでてさ、

 俺から愛を、母親に向けることも父親に向けることも出来無かったわけだから」


「・・・」


「その子と出会うまで、好意を受け取ってもらえるなんて思ってなかったし

 受け取ってもらった時の快楽は天上天下唯我独尊なわけよ」


「使い方よ・・・、仮にも文章書こうってやつが語呂だけで取っ手付けるなよ

 でも、そんな可愛い子なら見てみたいけど、写真とかないの?」


「ん、ん~、・・・」


「まぁ、いいけど。・・・もし、そいつがやり直そうって言ってきたらどうすんの」


「え!?あ~、ん~」


「悩むのかよ・・・最低だな君。アカリも可哀想にこんなやつと

 結婚しなくてもほかにいくらでも選択肢はあっただろうに・・・」


「はぁ!?俺はアカリがどうしても俺がいいって泣くから仕方なく・・・」


ガタンと立ち上がる。

ハッと我に返りゆっくりと着席する。


「・・・ヨウ?」


後ろから声がして、振り返る。


振り返ると、先ほど話題に出ていた

俺が今までで一番愛していた

卒業してから15年合っていない


・・・そいつが目の前にいた。


「セツ・・・さん」


頭の中がぞくぞくする。


そいつは15年前と変わらない最高に最高な笑顔でこちらを見ていた。


「ヨウ?・・・お、い、まさか」


月城は自分の想像が当たっていることを察してか声を飲んでいた。


「お、とこ」


そう、俺がこの世で一番愛していた人は

椎名しいな たける


男の人だ。



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