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流行りに乗ってみた:1

 聡介の一番いいところは根に持たないところだ。

 和泉はいつもそう思う。

 前の日にひどく怒っていても、翌日にはすっかり忘れている。一晩寝るとリセットされるようだ。

「彰彦。俺は今夜、予定があるからな。晩飯は適当に済ませてくれ」

 朝、家を出る前に聡介が言った。

 今夜はどこのお店のホステスさんと同伴出勤ですか? なんて言ったら本気で殴られるだろう。

 つまらない冗談は飲み込んで、わかりました、とだけ返事をする。


「お前は知ってるか? 今、廿日市南署の刑事課にいる西崎っていう警部補なんだが」

 聡介は今日、いくらか機嫌が良さそうだ。

「さぁ? お会いしたことはありませんね」

「俺の初任科の同期なんだ」

 初任科の同期は皆、苦楽を共にした仲であり、強い絆で結ばれている。

 警察学校を卒業してそれぞれの任地に就いた後も、たまには連絡を取り合って飲んだりするらしいと聞いたことがある。


 和泉にももちろん初任科の同期はいるが、今彼らがどこでどうしているかなんて知らないし、興味もない。

「廿日市南署刑事課って、葵ちゃんがいたところでしょう?」

「まぁな……今夜はその西崎と会う約束をしているんだ」

 聡介が何を考えているか、だいたいわかった。


 彼はやはり駿河のことが気になって仕方ないのだ。

 別に、彼が今、特別何か問題を抱えている訳ではないと思われる。

 要するに心を開いて欲しいだけだ。

 かつての自分がそうだったように、聡介は胸の内にいろいろと抱えている人間を放っておけない性質らしい。

 無表情なのは持って産まれたものなのか、それとも過去に何かあったのか。

 

 そう考えるとまたつまらない嫉妬心が湧いてくる。

 ふん、と和泉は鼻を鳴らした。

「ごゆっくり。こんな日に限って、廿日市南署管内で事件が起きなければいいですね」

 何か起きればいいんだ。

 和泉は聡介を残してさっさと部屋を出た。


 エレベーターホールに着くと、隣室の住人である藤江周が制服姿で立っていた。

「周君、おはよう」

 和泉が声をかけると、振り返った彼はひどく赤い顔をしていた。

「おはよう……ございます」おまけに鼻声だ。

「風邪?」

「……かもしれません……」

「それでも、学校行くの?」

 はい、と返事をしてから周は咳き込んだ。

「休んだら?」

「……」その表情を見ている限り、決してうんとは言わないような気がした。

「それとも病院行くか。そんな状態で登校したら、他の生徒さんに迷惑だよ?」

「途中でマスク買いますから……」

 素直じゃないのか、それとも……。

「ひょっとして周君って、病院怖い?」

 返事がないのは肯定の意味だろう。和泉はつい楽しくなってしまった。

「よし、じゃあ病院へ行こう」

「……はい?」

「ヤブだけどね、知り合いの医者がいるんだ。保険証持ってる?」


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