表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/71

嬉しくない再会

 険しい坂道を登り詰めてようやく視界が開けた。こんな非常事態でなければ、眼下に広がる瀬戸内海が感動を呼ぶことだろう。

「今、銃声が聞こえた!」と、周が小声で叫んだ。

 途端に駿河の胸に不安が広がる。誰が撃たれたのか?

「こっちからだ!」周が走り出す。

「待て、無闇に動くな!」駿河はその腕を掴んだ。

「離せ、もし義姉さんに何かあったら……」

 

 その時、無線機で連絡が入った。班長からだ。

「……撃たれたのは緒方翔で、他は無事だそうだ」

「誰だよ? それ」周が呟く。

 そうだった。彼は事件のことはきっと、報道されている以上のことは知らない。

「すまない、忘れてくれ」

「……なんでだよ?」

「何がだ?」

「なんでうちの義姉さんがこんなことに巻き込まれなきゃならないんだよ! 何をしたって言うんだ?!」

 すべてのことに因果関係がある訳ではない。

 たまたまそこにいたばかりに事故に遭うこともある。

 しかし、正論が人を励ます訳でも、元気付ける訳でもない。

「今はとにかく、無事に彼女を助け出すことだけを考えよう」

 駿河がそう言うと、周は少し驚いた顔をして、それから頷いた。


 やがて木々の間を通り抜け、幸いなことに西崎の背後に回り込む位置に到着することができた。

 今は動かないで隠れているよう周に指示する。

 それから駿河は拳銃を抜いて構え、

「西崎さん、銃を捨ててください」そう声をかけた。

 

 振り返ったかつての同僚は驚くでもなく、静かな表情をしていた。

 むしろ遅かったじゃないか、とでも言いたげだ。

「久しぶりだな、駿河。父親と兄さんは変わりないか?」

 西崎は笑いながら言ったが、駿河はそれには答えず、

「どうしてあなたの自己満足の為に振り回されなければならないんですか? 市ノ瀬さんが憎いなら、二人の間で解決してください」

「そうつれないことを言うなよ。お前の愛しい美咲さんに再会させてやったのに」

 西崎は銃口を駿河に向けてきた。

「……」

「ところで捜査一課の座り心地はどうだ? あんなお人好しの上司じゃ、気苦労が絶えないだろう」

「高岡警部は素晴らしい方です。自分は今までのどの上司よりも尊敬しています」

 それは本心だ。


「ところで、お前は気づいていたみたいだな? こいつと家の女房のことは」

「なんとなく、ですが。最初から市ノ瀬さんは少し様子がおかしかった。西崎さんの行方を知っているのではないか、そんなふうに感じました。そして入院している奥さんに話を聞きに行った時です。他人同士の関係は第三者の方がよくわかると言います。市ノ瀬さんが奥さんの見舞いにあらわれた時……ただの顔見知り以上の関係を感じました。それにあの、百人一首……おそらく、市ノ瀬さんと奥さんの間で交わされた遣り取りではないかと思いました」

 すると西崎は笑った。

「お前も刑事の勘ってやつが身に付いてきたようだな」

 廿日市南署刑事課にいた頃、駿河を一人前の刑事に育ててくれた先輩であり、上司である刑事がいつも言っていた。

 刑事の勘はバカにできない。何か感じるものがあったら、それを裏付ける証拠を探し出すのが俺達の仕事だ。

「そうだ、こいつは俺の女房を寝盗ったのさ。それなのに平気な顔をしていつも通りに働いていた。それも何年もの間、だ」

「……いつ気づいたのですか?」

「情けない話だ、隆弘の様子がおかしくなってからだ。あいつが自分の出世に疑問をもちだした。年頃になってだんだん言うことをきかなくなっていたが、俺を父と呼ばなくなった……。そしてある時、あいつがDNA鑑定ってどうやるのかを聞いてきた。その時確信に変わったよ。小さな頃から時々、俺に似ていないところがいくつかあった。でも信じたくて、気づかないふりをしていたんだ」

 彼の息子は確か、16か17歳ぐらいだ。だとすればかなり長い間妻の不貞に気付かずにいたということになる。

 いや、気付いていて気付いていないフリをしていたのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ